No.26 集い
スーナがうちに来てから、早2週間が経った。
スーナはすっかりウチの家族の一員として、日々楽しそうに過ごしている。
最近は進んで家事の手伝いをするようになり、ばあちゃんはすごく助かってるみたいだ。
ただ、やっぱり片付けと掃除だけは苦手な様で、俺と夏美が分担してこなしている。
そんなある日、父さんの部屋で寛いでいると、何やら1階の方から、大きな話し声が聞こえてきた。
まぁ大方じいちゃんの知り合いだろうけど、ちょっと気になったので、俺は1階に降りて、居間の方に向かった。
すると、じいちゃん、健じい、ウチの高校の校長と、会ったことのない白髪の男性が楽しそうに酒を囲んでいた。
「なんだ蓮斗、居たのか!」
「そりゃいるだろうよ、俺んちなんだから」
例の如く、じいちゃんは見事に出来上がっていた。
「おー、蓮ちゃん、久しぶりだなぁ! 元気にしてたか?」
声をかけてくれたのは、じいちゃんの中学時代の後輩だった「朝倉健三」さんだ。通称、健じい。ちなみに通称とは言ったが、俺以外にそう呼ぶ人間はいない。
昔からよくうちに来てはよく遊んでもらったりした。
「健じい久しぶり。まぁまぁかな」
「ははは、まぁまぁか! まぁ悪いよかええわな!」
「健じいこそ元気かよ?」
「元気も元気だ! おかげで、酒が進んでしょうがねぇんだ!」
「いや、そういうのをアル中っていうんじゃねーか?」
「蓮ちゃん、そんな怖い事言うなよー、ビビるだろー」
言いながら、旨そうに酒を飲んでいる。
健じいとウチのじいさんが、俺の中の二大アル中だ。
「蓮斗くん、学校の調子はどうだい? 楽しくやれてるかい?」
次に話しかけてきたのはウチの高校の校長「小林武人」だ。
じいちゃんの中学時代の同級生だった人だ。
正直、自分の学校の生徒に「学校の調子はどうだい」という質問はどうなのよ、と思わなくもないが、普段あまり接する機会がないので、仕方ないのかもしれない。
むしろ校長先生とは、学校外である方が圧倒的に多い気がする。
「それをこうちょーが聞くのかよ…。まぁ楽しくやってるよ」
「そうかそうか。まぁ蓮人君は成績も良いみたいだし、心配は要らないね。勉強ができるのは父親である亮介君譲りなのかもね」
俺が今の高校に入学する前から知り合いだった事もあり、俺の中では「こうちょー」というあだ名のおじさんという印象が強い。ちなみに俺の父親の高校時代の恩師でもあり、何気にうちの家族とは縁が深い。
「そういえば、この間この家にホームステイで来ている子が、学校に見学しに来たらしいね」
「あー、まぁ見学しに来たっていうか、俺が忘れた弁当を届けに学校まで来てくれて、その流れでついでに見学してっただけッスけどね」
「長井先生も言ってたけど、随分と可愛らしい子らしいじゃないか」
「そんな事まで伝わってるんだ…」
「後、蓮斗くんと非常に仲睦まじくしてたとも言ってたよ」
「いや、あの人どんだけペラペラ喋ってんだよ!」
「良いじゃないか、仲が良い事に越した事はない」
「はぁ…そりゃあどうも」
二人に挨拶がてら雑談を交わした後、じいちゃんがおもむろにもう一人の男性の紹介を始めた。
「で、一人静かに微笑みやがりながら飲んでんのが、ミックだ! 確か、蓮斗は初めて会うんだったな」
「あ、うん、初めて会うかな…」
「ちょっと李家さん、せめて自己紹介位ちゃんとさせてくださいよ。いきなり李家さんしか呼ばないあだ名で紹介されても…」
「いいじゃねぇかよ、ミックで! お前の名字難しいし言いにくいんだよ!」
「えっと…じいちゃんと、その…ミックさんはどういう繋がりなの?」
「20年以上前かな? 私が住んでいる町に李家さんが大工としてやって来てね。ウチの息子を大工として鍛えてもらったりしてから、私とも面識が出来て、その内に一緒に飲むことになったんだ。で、李家さんが川崎の方に帰った後も、年に何回かこうやって会って飲んでるんだ」
「へー、じいちゃんがねぇ…」
「李家さんには、ウチの息子が大変世話になったからね」
「でよ、ミックの奴はこう見えて歴史学者なんだよ」
「歴史学者?」
「詳しい事は分からねぇけど、なんか色々調べてんだとよ!」
「分からねぇって…そこはちゃんと理解しとけよ」
「ははは、蓮斗君は中々しっかりしてるんだね。そういう所は亮介君に似たのかな?」
「おいミック、おめぇそりゃどういう意味だ? 俺がまるでしっかりしてねぇみたいに聞こえるじゃねぇか」
「いやいや、別にそういう意味で言った訳じゃ…」
「飲みが足んねぇな。よーし、次の日本酒も空けんぞ!」
「空けるって、まだ前の酒が残ってるじゃないですか…」
「細けぇ事ぁどうでもいいんだよ! おら、おめぇらも飲むぞ!」
これ以上、ここにいると迷惑事に巻き込まれそうなので、適当に挨拶を済ませ、部屋を後にしようとした。
すると、後ろからじいちゃんが声をかけてきた。
「おぉい、蓮斗ぉ! 明日はスーナちゃんと出掛けんだろ? ちゃんとリードしてやれよぉ!」
「なんでじいちゃんがそれを知ってんだよ?」
「なんでって、三和子の奴が言ってたからだよ」
…はぁ、なんでこうばあちゃんは口が軽いんだろうか…。
いや、そもそもなんでばあちゃんも知って…まぁスーナが喋ったんだろうな。
「まぁそれなりに頑張るよ」
「それなりじゃダメだろーが! しっかり頑張ってこい!」
「なんだなんだ、蓮ちゃん、例のほーむすていの子とデートかよ! やるなぁ!」
酔っ払い共に絡まれる前に俺はさっさと2階に上がった。
そして、スーナがいる部屋のドアをノックした。
「スーナ、いる?」
「うん、居るよ~。どうぞ~」
スーナはいそいそと明日の準備をしている。
「明日の準備してんのか?」
「うん、『備えあれば憂いなし』だもんね!」
「なんだ、よくそんな諺知ってんな」
「うん、レン君のおばあちゃんから教えてもらった言葉だよ♪」
…ばあちゃん、スーナに色々吹き込んでんな…。余計な事言ってなきゃいいけど。
「まぁ明日も早いし、程々にね」
「うん、分かった。明日楽しみだね!」
「そうだな。じゃあまた明日な。おやすみ」
「うん、おやすみ♪」
そう言って、俺は部屋を出て、父さんの部屋に戻った。
そう、明日はスーナと初めての遠出。
行き先は江ノ島・鎌倉。
…それなりに頑張ろう。




