No.259 Side 源河翼 〜酔いどれ〜
アビさんの腹の減り具合が限界に達していたので、僕達は少し早めの夕食を取る事にした。
若干、今アビさんのせいにしたが、僕も珍しく今はかなりの空腹状態だった。
「そういえばツバサ殿、歳はいくつだ?」
「え、急にどうしたんですか?」
「いや、任務が終わったのだし、お酒でもどうかと思って。お酒は22歳からだからな、POSTに所属している以上、規則は守らねばならん」
この世界ではお酒は22歳からなのか。
「あぁそういう事ですか。僕は今26歳なので大丈夫ですよ」
「……ツバサ殿、よく聞こえなかったのだが……今なんと?」
「……? えーっと、僕は今26歳なのでお酒は大丈夫ですと……」
「に……26歳!? 私やグリーム、シンラよりも年上じゃないか!!」
「…なんか僕の同期達がグリームさん達に話した時、同じ様な反応されたって言ってました。逆に僕の事、何歳だと思ってたんですか?」
「いや……せいぜい21~22位かと思っていた……。いや確かに、状況判断も適切で落ち着いているとは思っていたが……」
「そうだったんですか。まぁ昔から童顔ではあったんで、幼く見えるのかもしれないですね」
「すまない、今まで年下だと思ってフランクに話し過ぎていたかもしれん。今からでも敬語で……」
「いや、別に良いですよ、今まで通りで。年上だからっていって変に敬られるのも嫌なんで。それに年齢では僕が上かもしれないですけど、POSTとしてのキャリアでいればアビさんの方がずっと大先輩なんですから」
「そ、そうか、それもそうだな。年上と言っても1個違いだし、急によそよそしくするのも変だしな! ではこれまで通りで頼む」
「はい、こちらこそ」
そんなやりとりをした後、僕達はホテルを出て、居酒屋の様なお店に入った。
「なんでわざわざホテルを出て、違う店に入ったんですか? 食事をするならホテルでも良いんじゃ…」
「ホテルでは酒の提供をしていないのでな。任務が辛かった分、少しでも気持ち良く酔って気持ちを切り替えて本部に戻ろうじゃないか」
「気持ち良く…ですか」
「まだ引きずっているのか? あ、すまない、この酒を2杯頼む!」
「……正直まだ……でもいつまでも下向いてちゃだめですよね」
「まぁ実を言うと、私にも幾ばくかの後悔は残っている。無理に忘れろとは言わないよ。でもいつまで下ばかり向いていても仕方ないというも、また事実だ。今回出来なかった事を次に繋げれる様に、心の修復が少しでも出来ればそれで良い」
「心の修復……そうですね!」
そうか、今僕は初めての悲しい体験を経て、心が傷ついてしまっている状態なのか。
これはアビさんなりの気遣いなのかもしれない。
まぁもしかしたら酒飲みたいだけなのかもしれないけど。
「お、酒が来たな! ではとりあえずツバサ殿の初任務完了を祝して乾杯だ!!」
「…乾杯!」
アビさんとグラスを交わらせ、グラスに注がれた酒を一気に喉に流し込んだ。
するとにわかに喉が熱くなってきた。
お酒を飲むなんて何年振りだろう。
元の世界にいた頃、友人に連れ出されて仕方なく飲みに付き合ったきりで、こちらの世界に来てから初めて飲んだかもしれない。
あの頃は全く美味しいともなんとも思わなかったが、何故かこの日飲んだお酒の味は格別に感じられ、なんとも言えない幸福感に包まれた。
「美味しい…」
僕は無意識にそんな感想をポロっとこぼした。
「ははは、そうであろう! ここの酒は美味で有名だからな! 今日は私のおごりだから、遠慮なく飲め!」
「ありがとうございます。そういえばPOSTって給料とかってあるんですか?」
「それはあるに決まっておろう。本部では住処が提供されるし、食堂もあるからその気になれば給料無しでも生活は出来るだろうがな。給料は基本的に任務が完了される都度、本部から支給されるシステムになっている。給料の額は基本となる額+任務の難易度や遂行具合で決まる。今回は2つの任務を同時に遂行したので、額はそこそこだと思うぞ」
「へぇー…じゃあ帰った後は楽しみですね。アビさんは給料って何に使っているんですか?」
「うーんそうだな…休暇の日に食べ歩きをするとか、良い刀を見つけた時に買う…くらいかな」
食べ歩き…この人は本当に食べる事が大好きなんだな。
「あれ…でも刀って本部で特注で作ってもらっている奴を使っているんですよね? それとは別に買うって事ですか?」
「いいや、これは個人的な趣味だ。普段使う刀とは別の所謂観賞用の刀だ。戦闘用に作られたものでは無いので、実用には劣る」
「へぇ…良いっていうのはそういう意味なんですね」
「あぁ、刀自体の美しさや形状は勿論、鞘の艶や柄の触り心地等、知れば知るほど奥が深いぞ! ツバサ殿もどうだ?」
「あ、いや…はい、機会があれば……」
「そうかそうか、見たい時はいつでも見に来て良いぞ!」
そう話すアビさんは満面の笑みを浮かべていた。
相当刀の事が好きなのだろう。
ただ、収集した刀に溢れかえった部屋というは、想像しただけで恐ろしいな。
一度入ったら、生きて部屋から出れなそうだ…。
そんな調子でアビさんとお酒を飲み続けて、1時間後……。
「おおーい、つばはどのぉぉ、全っぜーん飲みが足りらいんじゃないのはい?」
「いや…十分飲んでますよ…っていうか、アビさん大丈夫ですか?」
「何がらよぉ〜!! 君、もひかひて私の事、馬鹿にしてんのか〜?」
「バカには……してませんて。とりあえず他のお客さんのご迷惑になるので、静かにしてください」
「なんでよ〜!! なんで今微妙に間があったんらよ〜!?」
「気の所為ですって。さぁとても怖いんで手に持った刀は下ろしてください」
「よぉ〜し、じゃあ私が馬鹿じゃないって事ひょうめいひてやんよ〜! ここにひるみんなに私の剣技披露ひちゃうんだから〜!」
「いやいやいやいや、ダメダメダメダメ!!! そんな事したらこの店が無くなっちゃうし、アビさんのジョブも無くなるから!!! 頼みますから、大人しくしてください!!」
「はははは、今日もアビちゃんやってるねぇ」
そう言って店主らしき男性がお酒を持ってやって来た。
僕は店主が持ってきたお酒を受け取って、代わりに空のグラスを渡した。
「『今日も』って…この人この店に来るといつもこんなんなんですか?」
「君はアビちゃんの後輩かい? この子はこの店に来るといつもこんな感じで酔っ払ってね」
「そうなんですか…なんだか普段の真面目そうなアビさんからは想像できないというか…」
「だからじゃないかな? 普段張り詰め、緊張しながら仕事をしている分、こういった場では思い切り羽目を外したいんだよ」
「そういうものなんでしょうか…羽目外しに刀抜かれたらたまったものじゃないですけどね」
「確かに今日は一段と酔いが回っている様だね。恐らく君が一緒にいるから、安心して酔えているんじゃないかね」
「僕がですか…?」
「あの子がここで飲むときはいつも一人だったからね」
「ふーん…」
正直、アビさんと会ったのはほんの数日前。
当然一緒に行動したのもほんの1週間である。
確かに任務を通して、多少は人柄等は分かって来たつもりではあるが、恐らくまだまだ知らない事の方が沢山あるだろう。
一緒にいると安心だなんて関係値は築けているのだろうか。
「それで君、悪いんだけど店の外に行っちまったアビちゃんの事、連れ戻しちゃくれねぇかい? このままだとあの子を無銭飲食で訴えにゃいかなくなるんでな」
「え、ちょ、アビさん!! あんた一体どこ行く気ですか!?」
「えぇ~? ちょっとほとのれんひゅうにわたしの強さ、見へるだけへーす!!!」
「ダメだって、町の人に迷惑掛かるから!! アビさん店に戻って来てください!!」
こうして最早収集不可能と判断した僕は、お店に代金を支払いと、アビさんを担いでホテルに戻る事にした。
僕が担いだ瞬間、アビさんはあっという間に寝だしてしまったので、そのままホテルの部屋まで運ぶ羽目になった。
やっとの思いでアビさんをベッドに寝かせると、僕は一気に疲れに襲われ、そのまま自分もベッドに横たわった。
「つ…疲れた……」
しばらく横になったのちに起き上がると、横たわっているアビさんの上に毛布を掛けてやろうとした。
その時、不意にアビさんは手を首に回して、そのままベッドに引きずり込まれた。
「…あ、アビさん?」
僕は動揺してアビさんを見ると、アビさんはぼーっとした表情でこちらを見ていた。
「ツバサ…今回の任務……ありがとうな」
そう一言呟くと、アビさんは再び眠りについてしまった。
アビさんに首を回されてしまった僕は、その日、そのまま一夜を過ごさなければならなかった。
明日は広島行ってきます!
(更新はするよ)




