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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
3章 スーナの異世界生活
25/300

No.25 ありがとう

一緒にお昼ごはんを食べ終えると、スーナはようやく学校を出て、家に帰った。


「ふぅ…とりあえず、何も問題無くて良かった…」


俺が一息ついていると、駿が血相を変えて俺の元へやって来た。


「蓮斗~、なんであんな可愛い子が家にホームステイしてるって教えてくれなかったんだよ~」


「なんで一々んなこと言わなきゃいけないんだよ」


「いや、家にホームステイの子がいるって、そこそこの出来事だからね! 良いな~」


「お前までみんなとおんなじような事言いやがって…。んなこと言う割りには、全然話しかけなかったじゃん」


「いや、だって…女子に話しかけんの…ハズいじゃん?」


「じゃあ別に言ったって意味ねーじゃん!」


「違うよ~、蓮斗に隠し事されるのが、嫌なんだよ~!」


「お前は俺の彼女か! …こっちにも色々事情があんの」


まさか、異世界から留学しました~なんて言える訳もないしな。


「あ、そうだ、俺今日サッカー部休みだから、放課後どっか遊び行こうぜ!」


「あー、悪い、今日俺、家に帰んなきゃ行けないんだわ」


「なんか用事でもあんの?」


「今日の夕飯、スーナが作ってくれるらしくて、準備して待っててくれるらしいんだわ」


「おま、ちょ、なんだよそれ、ふざけんなよ~! え、何この格差社会! 不公平過ぎんだろ~! いやいやいや、こんな世界、俺は認めない!」


言ったら絶対ごねるだろうなぁとは思ったけど、ちょっと反応が見てみたかったので、言ってみました。


ようやく授業が終わり、学校を出て歩いていると、後ろから茜が声をかけてきた。


「なんだ茜か」


「なんだとは何かね、レ・ン・君♪」


「おい…その呼び方…」


「今、クラスでこの呼び方流行ってまして~」


「いや、100%流行らしたのお前だろ」


「えー、だって良いじゃん、『レン君』」


「勘弁してくれ…」


「ところでスーナちゃんの手料理は、一体何を作るんだい?」


「なんでそれ知ってんだよ!?」


「スーナちゃんがうれーしそうに言ってたよ♪『レン君に食べてもらうの楽しみなんです♪』って」


はぁ…なんか色々な事が、すごい勢いで広まってく…。


「まぁそういう事だから、ちゃんと料理の感想言ってあげなさいよ~。そして、明日、私にも感想を報告する事、分かった?」


「前半はともかく、後半意味わかんねーよ! 俺の上司じゃねーんだから、なんでそんな事一々言わなきゃいけないんだよ」


「だぁって気になるじゃあぁん!!」


「分かった分かった、明日言う。明日言うからそれで良いんだな?」


「うむ、よろしい!」


「だからお前は俺の上司か!」


「じゃあまた明日ね、レ・ン・君♪」


疲れる…すんごい疲れる…。

スーナには悪いけど、学校に来るのは今日で最後にしてもらおう…。

俺の精神が持たん…。


家に着くと、既にスーナとばあちゃんが台所で夕飯の準備を始めていた。

一瞬、中を覗こうかとも思ったが、夕飯が出来てからのお楽しみにしたいとも思ったので、止めて、自分の部屋に戻った。


部屋に入ると、スーナの私物やら何やらが溢れかえっていた。

そうだ、今はスーナに部屋を貸してるんだった。

ミーとミミは俺が部屋に入って来ても気持ち良さそうにベッドの上で寝ている。


俺は部屋を出ようとすると、机の上に何やら文字が書かれている紙が広げてあった。


「これ…これの名前…?」


紙には「李家蓮斗」という文字が、たどたどしく、そしてびっしりと書かれていた。

実は最近知った事なのだが、イクタ村…いや、あっちの世界では文字という概念が存在しないらしく。

確かに店には値札や商品名等を記したものが一切無かったりしていたので、前から不思議には思っていた。


そういう経緯もあり、スーナも例に漏れず、文字が書けなかったのだが、今、この世界、そして日本に住んでいる以上、最低限の文字の読み書きはできた方が良いだろうという、じいちゃんの提案で、ばあちゃんに教えてもらいながら、文字の勉強をする事になった。


勿論、それは知っていたのだが、まさか俺の名前をこんなに書いているとは思わなかった。

最初見たときは、なんか呪いの対象みたくなってるように見えて、若干引いてしまったが、スーナが文字を学び始めてから最初に書いた文字が、俺のフルネームというのは、やはり嬉しかった。


しかし…、文字がなくてあっちの世界では成り立っているのだろうか?

どうやって過去の出来事や伝統を後世に伝えてきたのだろうか? 全部口伝?

それとも別の手段が存在したのだろうか。


俺の部屋を出て、父さんの部屋に戻り、バッグを置いてベッドに横になった。

携帯を見ると、駿と茜からメールが来ていた。

茜からのメールは「料理の写真を撮って、私に送って」というお前何様的な内容で、

駿からのメールは「今度、蓮人の夕飯に可哀そうな僕を誘って♡」というホントに可哀そうな内容だった。

俺はひとまず既読スルーを決め込んだ後、特になる事が無かったので、ベッドから起き上がり、居間に向かった。

すると、珍しくじいちゃんが居間で新聞を読んでいた。


「じいちゃんがこんな時間に居間にいるなんて珍しいな」


「なんだよ、居ちゃいけねぇってのか? 別に俺がいつどこに居ようが俺の勝手だろうが」


「いや別に。ってかじいちゃんが新聞読んでるとこなんて初めてみたよ」


「年食ったからって、時代の流れに取り残されちゃいけねぇからな。情報収集してるわけだ」


「へぇー、じゃあ新聞の社説とか経済欄とかも見てんの?」


「まぁな。今読んでる新聞によると、23時30分から『くノ一娘の日常』っていうアニメがやるらしいな」


「テレビ欄かよ! しかもなんだそのだいぶマニアックな情報は! 時代へのしがみつき方がピンポイント過ぎるだろ!」


「バカ野郎、男は黙ってテレビ欄と天気予報欄だけ見ときゃいいんだよ。ちなみに明日は晴れだ」


「? 明日は確か雨っつってなかったっけ? じいちゃんどこ見て言ってんだ?」


「どこって、ここに書いてあんだろうよ」


「んー? あれ、ホントだ…ってこれ、昨日の新聞じゃね?」


「こりゃいけねぇ、俺とした事が」


「時代に置いてかれてる所か、昨日に取り残されてる有り様じゃねーか! 慣れないことするからだよ」


「なんだおい、俺がバカだって言いてぇのか!?」


「いや、今の醜態を目の当たりにしたらバカだと思いたくもなんだろ!」


「ホラホラ、あなた達、何をくだらない事で騒いでるの?」


「三和子、くだらねぇとはなんだ!」


「いえ、聞いてる限りだと間違いなくくだらないわね。もうすぐ夕飯できるから、テーブルの上とか片付けておいてくださいね。蓮斗は夏美を呼んできて頂戴」


「了解でーす」


俺とじいちゃんでテーブルの上を片付けて、台拭きで綺麗にし、部屋に居た夏美を居間に呼んだ。

すると、扉からエプロン姿のスーナが料理を運んできた。


「お待ち遠様です、料理できました♪」


テーブルの上には、サラダ、から揚げ、豚カツ、生春巻、だし巻き玉子に舞茸の味噌汁等、若干よく分からない組み合わせだったけど、料理自体はかなり美味しそうだった。


「こりゃまたずいぶんと豪華な食卓になったもんだな!」


「すごい、これ全部スーナさんが作ったの!?」


「レン君のおばあちゃんに沢山手伝ってもらったけどね」


「何言ってるの、私は全然大した事してないわよ。さぁじゃあみんなでご飯にしましょう!」


全ての料理を並び終えたテーブルの上は、今まで見たこともない状態になっていた。


「じゃあ頂きます!」


箸を取ってまず、豚カツをつかみ、ソースをかけて食べようとしたが、何やら周りの様子がおかしい。

俺以外の連中がご飯に手を付けず、ずっとこちらを見てる。


「…なんでずっとこっち見てんだよ。スーナがせっかく作ったのに食べないのかよ?」


「そりゃまずは蓮斗が最初に食べて感想を言わなきゃねぇ」


「え、なんで俺?」


「そりゃそうよ、スーナちゃんが今回の手料理を一番食べてもらいたかったのは、あなたなんだから」


「俺に…?」


思わずスーナの方を見ると、なんだか照れくさそうに下を向いてはにかんでいた。


「にぃ、早く早く!にぃが食べて感想言ってくれないと、私達食べれないんだから」


「分かったから、急かすな。じゃあ…頂きます…」


俺は先程からおあずけ状態になっていた豚カツをひと口サイズに切り、口に運び、よく味わった。


「うん、すごい美味しいよ!」


俺が一言感想を述べた瞬間、スーナが満面の笑みになった。

食レポの経験などなく、味を表現するに足りる語彙力は残念ながら持ち合わせていなかったが、その代わり俺は、ありったけの気持ちを込めたつもりだ。


「ありがとう…ホントに嬉しいよ♪」


どうやら、俺の気持ちはなんとか伝わったようだ。


「じゃあ私達も頂こうかしら! 生春巻も美味しそうね」


スーナがこの家に来て始めての手料理、そしてそれを家族4人…いや、5人で囲んだ食卓はとても印象深く、そして楽しいものになった。

根拠はないけど、俺は今日の日を一生忘れることはないだろう。

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