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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
8章 BUDDY
242/300

No.242 Side 源河翼 〜偽物〜

アビさんは突然テトラ君に刀を突き出して、いきなりどうしたんだろうか。

それに「何者だ」っていうのは一体…。


「何者って…何を突然言っているのですか? 私はテトラ・イブ。それ以上でもそれ以外でも……」


テトラ君が言い切る前に、アビさんは刀を一振りすると、爆風が発生した。

アビさんが刀を振った辺りをよく見ると、斬撃の跡の様な物が地面につけられていた。


「私がテトラ殿の事を何も知らないとでも…? 貴様が偽物である事位、見破るのは動作も無い事!」


「あ…あの、アビさん…一体どういう…」


僕がアビさんに説明を求めようとした時、テトラ君が今まで聞いた事の無い様な笑い声を上げた。


「あーーーっはっはっはっは!!! ばぁーれちまったかぁぁ!!! 流石はPOST本部の人間だぁ!!」


「もう一度聞く!! 貴様、何者だ!!」


「答える義理ぁねェ!!」


「そうか…」


何が何だか分からない。

テトラ君が敵?

いや、偽物っていう事は、テトラ君に変装してジテンに乗り込んだ第三者。

成程、レグマさんからテトラ君の話が全く出なかったのはそういう事か。

でも、アビさんは一体いつから気付いていたのだろうか。

テトラ君…の変装という事だが、顔は勿論、背丈や声、喋り方もテトラ君そのものと言っていい位だ。


「とりあえず、その変装を解いてもらおうか。同僚の変装など、貴様の様な下賤がしていいものではない


「馬鹿がぁぁ! ここで変装を解いちまったら、次からやりにくくなんだろうがぁぁ!!」


「そうか、残念だ。変装とは言え、できれば同僚の顔など傷つけたくはないのだがな。では話を変えよう。一応聞くが貴様の目的とその理由は何だ」


「てめぇは馬鹿かってんだよぉぉぉ!!! おいそれとこのメタモゼルア……この俺が馬鹿正直に説明する訳ねぇだろうがよぉぉぉ!!!」


今、あいつ自分の名前ポロっと出した。

メタモゼルアっていうのか。


「成程、話す気は無いと申すか」


「だったらなんだ?」


「貴様を斬る」


すると、アビさんは僕の耳元で囁いた。


『恐らく奴の狙いはランジ王国の外交官の命だ。周りに仲間がいる可能性もある故、守りを頼む』


「分かりました」


「お、おい君、これは一体どういう状況なんだ!?」


「敵が変装して、こちらに危害を加えようとしています。あなた方の事は僕がお守りします。出来るだけ」


「今、最後に『出来るだけ』って付け加えなかった!?」


いきなり実践になるとは思わなかったが、ここは覚悟を決めてやるだけだ。だ

「ぎゃはははははは!!! 俺を斬るぅぅぅ!!? これを見てもんな事が言えるかなぁぁ!!?」


すると突然、敵の姿が消えた。


「ぎゃはははははは!!! 当てれるもんなら当ててみなぁ!!」


「姿を消した…? いや擬態か……おそらく魔石の力…」


いや、魔石の力ってそんな事も出来るのか。

火とか水とか風とか…何かを発生させてそれを操作するのが魔石の力だと思っていたけど、自分に何かしらの変化を起こす物もある…?


「さぁて、遊んでる暇ぁ俺にゃあねェ!! とっとと死にやがれぇ!!!」


相手の姿が見えない以上、反撃のしようがない。

僕は水の魔石で障壁を張り、どうにか護送対象の人達を守る事しかできない。

するとアビさんは目を瞑り、再び居合い抜きの構えをした。

一体この位置から何をするつもりだろう。


「ヒノザクラ一刀流……」


そして左手が刀の柄に触れた瞬間、アビさんは刹那の間に足を踏み込み、電光石火の勢いで移動しながら抜刀した。


「だ…はぁ………!!!?」


炎華瞬速(えんげしゅんそく)……」


突然、何もない所から血が噴き出し、やがて地面に何かが落ちる音がした。

周囲には何かが焼ける匂いがした。

これは…火か?

アビさんはというと、抜刀した刀を鞘に戻しながらこちらに向かって歩いていた。

あの一瞬であそこまで移動してしまうなんて…比べる事でもないが、茜さんが魔石の力を身体に乗せて動いた時よりもずっと速かった。


「なんなんだ!! 一体今の動きはどういう事で、今の音はなんなんだ!!」


「驚かせてしまい、大変申し訳ない。今、賊は仕留めました」


「賊…? 一体どこにいるのだ…?」


「ツバサ殿、水の魔石を使って、ここの辺りに水を撒いてもらえないだろうか。持っているのだろう?」


「え…? あ、はい」


僕はアビさんに言われた通り、指示された辺りに水を放った。すると、所々服が黒焦げになって倒れている男の姿が現れた。


「なんと…急に男の姿が…しかもズボンが燃えて丸出しでは無いか!」


「いえ、そこは全然重要では無いです」


アビさんは足で男の体を仰向けにした。


「もう一度言う……貴様は何者だ?」


「……はぁ……はぁ……ばぁーか!」


「あくまで…口を割らんか」


するとアビさんは何の躊躇いも無く、男の頸を切り落とした。

頸を斬った瞬間、辺りに血が飛び散った。


「ツバサ殿、咄嗟にも関わらず、護送対象を水の障壁で守ろうとする判断、見事であった。とても初任務とは思えんな」


「あ、はい……ところでその男は……」


「この通り、息の根を止めた」


「……」


「ひょっとすると…残酷とか考えているのか?」


「いえ…」


「別にその感情自体を否定するつもりはない。但し、場合によってはその感情が自分や周りの命を危険に晒す事になるやもしれん」


「…はい、肝に銘じておきます」


「私は如何なる理由があろうと、我が組織POSTや任務にあだなす輩は容赦なく斬り捨てる。この刀でな」


そう言い放つアビさんの瞳は恐ろしい程に冷たかった。

これが15メンバーの実力と覚悟なのだと思い知った。

本日聴いていた曲

美しい鰭/スピッツ

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