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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
8章 BUDDY
241/300

No.241 Side 源河翼 〜出発〜

俺は自分の部屋に戻ると、今回の任務に必要なものを確認し、準備が完了した。

と言っても、事前に本部スタッフの人が予め用意してくれていたので、僕自身は特に準備という準備は無かったが。


任務にあたっては、今回の様に基本的には本部スタッフの人達が身の周りの世話をやってくれる様だ。

とても助かる反面、なんだか至れり尽くせりで自分で何も出来なくなっていく様な気がして、少し怖い。


僕は部屋を出て、歩いて建物の外に向かった。

建物の入り口にはレグマさんが言っていたジテンが一台停まっていた。

アビさんの姿はまだ無い。

僕は一息ついて、ジテンの近くにあったベンチに座って休んでいると、建物から見慣れた顔の人物が出てきて、まっすぐこちらに向かってきた。


「こんにちは。今回は宜しくお願い致します」


「え…あ、うん、こんにちはテトラ君。宜しくっていうのはどういう…」


「聞いていないですか? 今回の護送任務については私も同行します…というかこの任務については一応、私がメインですね」


「あ…そうなんだ、今初めて知ったよ」


そういう事なら、さっきの任務説明の時に話してくれても良かったのに。

普通に伝え忘れただけだろうか。

そんな会話をしているうちに、アビさんもやって来た。


「すまないツバサ殿、到着が遅れた!」


「あ、いえ、まだ時間前なので遅れてないですよ。僕が早く来すぎただけなので」


「そうか、なら良かった。おや、テトラ殿が何故ここに?」


「はい、今回は私が護送任務のメイン担当として同行致します」


「そうか…なら宜しく頼む!」


アビさんも何も聞かされてなかったみたいだ。

アビさんは以前にも一度任務内容を聞かされていると言っていたから、その時にも特にテトラ君が同行する話は出なかったのか。

という事は伝え忘れというよりは敢えて伝えなかったという事?

それとも直前になって同行する事が決まった?

テトラ君に直接聞いてみようとも思ったが、大した問題じゃないのでやめてしまった。


「では参りましょう。まずはランジ王国に向かいましょう」


こうして僕達はジテンに乗り込み、本部を出発した。

ここからランジ王国まではジテンで半日程だという。


「任務の説明を受けている時は普通に流しちゃったんですけど、なんで今回わざわざ護送をPOST本部で請け負う事になったんですか? ランジ王国にも護衛騎士団みたいなのは居るんですよね?」


「居るには居るんだが、どうにも護衛騎士の腕というかレベルが低いらしくてな。遠く離れたドレシ王国への移動には心許ないという事で今回の護送という訳だ。それにランジ王国はPOST本部の管轄に含まれているしな。ランジ王国からはこれまでにも今回の様な依頼が度々発生している」


成程、要するにお得意様って事か。


「でも、国の護衛騎士のレベルが低いって国としては大丈夫なんですか? POST本部の管轄内であるかどうかは分かりませんが、何かあった時簡単に攻め込まれてしまうんじゃ…」


「もし侵入を許してしまったらそうかもしれぬが、まぁその可能性は殆どゼロと言っていい」


「それってどういう…」


「これに関しては実際に王国に行けば分かる」


行けば分かるという事は、王国の外観に関係しているのだろうか。


「但し、POST本部の目の届かない場所となれば話は別だ。先程も説明した通り、万が一襲撃があれば王国の兵士だけでは対応できない可能性が高い。私達がわざわざ護衛に駆り出されたのは、そういう理由だ」


「理由は分かりました。でもそれでは一国の兵士としての役割を全く果たせていないのでは? 結局僕達の負担が増える訳ですし」


「まぁそこは分からないでもないが、どうも今の国王の方針として武力による誇示を好まないらしくてな。兵士の訓練や武器の強化には積極的でない様だ。レグマ殿曰く、平和主義者との事だ」


「そうですか。でもそれで結局僕達に護送させていたら、同じ事ですよね」


「要は自分の国の兵士達に血を流してほしく無いんだろう」


とんだ平和主義者も居たもんだ。

結局自分の国の兵士が血を流しさえしなければ、その他の事は知らぬ存ぜぬという訳か。

いや、一国のトップとしての判断としては別に間違っているとも言えないか。


「うむ、ランジ王国が見えてきた」


アビさんが指差す先には巨大な絶壁の山が聳え立っており、その上には城や街の様なものが建っているのが分かった。


「あれ…ですか。確かに国に侵入するには少し骨が折れそうですね」


「そう、あれが天然の要塞だ。建国以来殆ど攻め込まれた事がないそうだ。しかも水や食料などの資源が豊富らしく、そう頻繁に山を下りる必要もないんだとか」


「へぇ…そんな山を下りる必要がない中、山を下りて別の国に向かうという事は、それなりの理由とそれなりの地位の人間という事ですか」


「うむ、今回の護送対象となる人物は国王直属の部下で、国の重要人物だ。ドレシ王国に向かう理由は私も聞かされていてはおらぬがな」


そうこうしている内に僕達が乗っているジテンはランジ王国が栄える絶壁の山の麓に到着した。

間近で見ると益々その高さに圧倒されてしまった。


「これは…確かに凄いですね。殆ど攻め込まれた事が無いというのも頷ける気が」


「まぁそれはこの国の住人とて同じであるがな。ランジ王国に住むものの殆どは国から出ないまま一生を終えるそうだ」


「へぇー…ところで今回護送する人物は、どうやって上から降りてくるんですか」


「アレを見ろ」


アビさんが指差す先に、なにやらゴンドラの様な物体が少しずつ地上に向かって降りてくるのが見えた。

中には何人かの人が乗っている様だった。


「あれはPOST本部で開発した、ランジ王国の人間が地上に降りてくる時に使用するシステムだ」


「あれもPOSTで用意したんですか。なんだかランジ王国ばかりひいきし過ぎでは? POSTは本来中立であるべきなのでは?」


「うーむ、実はPOST本部の上部とランジ王国の先代国王が旧知の仲でな。それもあってPOSTから提供したそうだ」


「いや…思いっきり私情挟みまくりじゃないですか…」


「ツバサ殿、ようやく彼らが降りてくる。私語厳禁だ」


アビさんに指摘され、僕はしばらく黙って見ていると、例のゴンドラの様な乗り物から3名程降りてきて、こちらに向かって歩いて来た。


「いやはや、POSTのみなさん。此度は宜しくお願い致します。おっと自己紹介が遅れました。わたしく国の外交官を務めております、エメラ・パルネと申します。両脇に控えますのは、私の部下です。今回の旅に同行させる事になっております」


「えぇ、話は伺っております! こちらこそ宜しくお願い致します! 私はアビ・カミジキ、こちらは私の後輩である、えー…っと……カワ……ツバサです」


「ほほう、アビさんにエーカワさん、改めまして宜しくお願い致します」


あの人、また人の名前間違った上に、その名前で覚えられてしまった……。

まぁどうせ偽名だし、いいや。


「では大変厚かましくて申し訳ないが、早速出発して頂けるだろうか」


「御意! ただその前に……」


そう言うと、アビさんは突然懐に差していた刀を抜くと、テトラ君に向かって突き出した。


「貴様……何者だ?」

本日聴いていた曲

斜陽/ヨルシカ

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