No.240 Side 源河翼 〜指令〜
最後の最後まで彼らは騒がしかったなぁ。
結局部屋についても、他の部屋が空くこと無く、3人部屋のままだった。
そのせいか彼らが居なくなった途端、急に静かに感じる。
柄にも無く感慨にふけっていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「カワハラツバサさん、レグマ様がお呼びですので、至急総統室までお越しください」
そうか、今日は初任務を言い渡される日だった。
僕は返事をすると、急いで部屋を出て総統室に向かった。
確か最初の数回は15メンバーの誰かと一緒に回るんだっけ?
誰になるんだろうか…。
出来れば知っている人…グリームさんとかメグさん辺りが良いな。
シンラさんは…なんとなく苦手だ。
そんな事を考えながら歩いていると、総統室に到着していた。
僕は息を整えると、総統室ドアをノックした。
中から「入っていいぞ」というレグマさんの声が聞こえて来た。
ドアを開くといつもの様にレグマさんが威厳のある席に座ってこちらを見ていた。
いつも微笑む様な表情をしているが、その表情には総統たるオーラがひしひしと感じられた。
その席の傍には秘書のセラさんが立っていた。
実はこの秘書の方が、高校時代の物凄く厳しかった担任の先生に少し似ていて、苦手だ。
「やぁ。何度も呼び出してすまなかったね。任務は基本的に秘匿にすべきというPOSTの方針がある為、彼らと一緒にする場面では任務を言い渡せなかった」
「あ、いえ…僕は全然問題無いですよ」
「ははは、そういってくれると助かる!」
よく見ると部屋にはルリリさんもいた。
「あ…ルリリさん、こんにちは」
「ツバサ君、こんにちは! そういえば研修終わったんですよね? お疲れ様です」
「ありがとうございます。…あれ、ここに呼ばれているって事は僕の初任務ってルリリさんに同行する感じですか?」
「あーいやいや、私は任務結果の報告をしに来ただけだよ! 今丁度報告が終わってここを出る所!」
「あ、そうだったんですね…。任務お疲れ様です」
「いやいや、私は別に大した事してないんだけどね。私はサポートでメインはロクにい…ロクさんがやってくれるから」
「ルリリ君が全面的にサポートをしてくれているから、彼が自由に動けるんだよ。君の働きは大きい。まぁ最近は少し自由に動き過ぎている気もするが…」
「あはは…」
「確かに彼の最近の本部への帰還率は著しく低く、15メンバーの中では最下位と言っていいですし、問題視せざるを得ないです。ルリリさんからも厳重な注意をお願い致します」
「…すみませーん。次の任務が終わった際には必ず一緒に帰還する様に言います」
「苦労かけてすまないね。じゃあ彼に宜しく言っといてくれ」
「はい、じゃあこれにて私の方は失礼致します! あ、ツバサ君も初任務頑張ってくださいね♪」
「あ、うん、ありがとう。ルリリさんも次の任務頑張って」
そういうとルリリさんは笑顔で会釈して、部屋を出て行った。
「ふぅ…ロクにも困ったものだ…」
レグマさんは深くため息をついた。
どうやら今回もロクという人は任務後も本部の方に戻らなかったらしい。
ルリリさんも大変そうだな。
「あぁ、ツバサ君すまないね、呼び出しておいて」
レグマさんは気を取り直してこちらに向き直った。
「さて…本日はとうとう初任務という事だが、心境はどうだい?」
「心境…ですか…うーん…特には…」
「はははは、そうか。それはそれで頼もしいな。まぁそれ位の気負いで居てくれるとこちらも安心する」
「はぁ…ちなみに今回は15メンバーの方の任務に同行するって話でしたが…」
「あぁ、今回は15メンバーの1人と一緒に任務を行ってもらう。もうすぐ来ると思うが…」
すると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「入りなさい」
レグマさんが返事をすると、ドアが開き、一人の女性が入って来た。
何やら剣士が着る和装の様な格好で、キリっとした目つきに後ろでポニーテールの様に結わいた長い黒髪、腰には刀の様な物を携えていた。
あえてざっくりと言い表すなら、美人女性剣士の様な出で立ちといった感じだ。
「失礼します!」
少年の様な声で返した後、綺麗な一礼をして中に入って来た。
「遅くなりまして申し訳ございません、レグマ殿! アビ・カミジキ、ただいま参りました!」
殿!?
「やぁアビ君。別に時間に遅れちゃいないから謝る事ない」
「ありがとうございます!」
「ツバサ君、彼女は15メンバーの一人で、No.12のアビ・カミジキだ。今回君が同行する先輩だよ」
「はい…あの、本日から任務に同行させていただく川原翼です。どうも宜しくお願いします」
「承知した! こちらこそ宜しく、ツバサ殿!」
殿!?
「アビ君には先日任務の内容は説明済みだが、ツバサ君の為に改めて説明させてもらうよ。セラ君、説明の方を…」
「はい」
セラさんがレグマさんに代わって説明をし始めた。
「今回は2つの依頼を受けて貰います。1つ目はとある方の護送です。護送はランジ王国からドレシ王国までの間となります。それが完了致しましたら、そのままラグという街に向かってもらいます」
「任務完了しても本部には戻らないんですか?」
「あなた達にはそのまま2つ目の任務にあたってもらいます。それはラグという街で発生している連続殺人事件についての調査です」
「殺人事件…ですか」
「はい。現時点で6名の方が何者かに命を奪われています。本来であればこの地域はPOST支部が担当となっているのですが、先日調査に当たっていた支部のメンバー2名が重傷を負うという事件が発生し、少なくとも支部の人間では対応できないという判断になり、今回本部の方で事件の解決を請け負う事になりました」
なんだかいきなり危なそうな任務を任されてしまった。
支部とは言え、大人2人を負かしてしまうという事はそれなりの手練れという事だろうか。
いや、別に単独犯と決まった訳では無いし、複数人に襲撃されたという可能性もあるか。
まぁ今回はそこら辺を含めての調査から入る感じだろうか。
「ちなみに支部からの情報では、いずれの遺体や負傷したメンバーの話から、刃物の様な物を使って攻撃された事が分かっております」
刃物…か。
だから、こちらからは同じ刀を使う(?)アビさんに白羽の矢が立ったという事だろうか。
「以上です。何か質問はありますか」
え、以上? 他にもっと犯人の特徴とかそういうヒントになりそうな情報って無いの?
「あの…犯人の特徴とかっていうのは無いんですか?」
「はい、残念ながら犯人の手掛かりになる情報と言うのは無いとの事です。支部メンバーの証言によると目にも止まらぬ速さで攻撃を受けた為、犯人の顔を見ていなんだそうです」
いや、もうちょっと踏ん張ろうよ。
じゃあ街に行ったら、完全に一から調べて行く感じになるのか。
一体何ヶ月かかる任務だこれ。
「大丈夫だよツバサ君。こういった人探しや調査に関しては、アビ君の右に出る者は居ない」
「有難きお言葉、ありがとうございます!」
「だからツバサ君は、アビ君の指示に従い、ツバサ君に出来る事を全力でやって行きなさい」
「…分かりました」
「最初の任務で戸惑ったりする事や、壁にぶつかる事もあるだろうが、そこは遠慮なく先輩を頼って成長していきなさい。そうやって他の15メンバーも成長していって、今がある」
「分かりました。僕なりの全力を尽くします。アビさん、改めて宜しくお願いします」
「承知した! こちらこそ宜しく頼む!」
「では準備が出来たら出発してくれ。護送、及び移動に使用するジテンについては建物の入り口に用意してある」
「承知致しました! では私アビ・カミジキと…か……か……ツバサ、今から任務開始致します!」
「あ、川村翼です。別に苗字は覚えないで良いですよ」
「すまない、ツバサ殿! 昔から人の名前を覚えるのが苦手でな」
「全然気にしていないんで大丈夫ですよ。後、殿ってつけるの止めてください」
「そうか! 承知した! では参ろうか、ツバサ殿!」
「あ…はい、もういいです」
こうして僕の初任務が幕を開けた。
今回より8章開幕です。
ここからは蓮人君達にはお休みしてもらい、しばらく源河君メインのお話になります。
みんな、源河君の事を応援してくれよな!!




