No.24 見学
俺とスーナが体育館に入るや否や、クラスの連中がものすごい勢いで押しかけてきて、大騒ぎになってしまった。
「き、君、スーナちゃんっていうの? めっちゃ可愛いね! 宜しくね!」
「いやいや、俺の方こそよろしく! 趣味はバスケです! 李家君にはお世話になってます!」
どうやらスーナは男子共から大人気の様だ。
だが、当の本人は急に大勢の男がやってきたもんだから、ビックリして、俺の後ろに隠れてしまった。
「ホラホラ、ビックリしちゃってるから、お前ら離れろ」
「いいよなー、李家はー。こんな可愛い子と一つ屋根の下で暮らしてるんだろぉ? しかも妹は可愛くてよぉ~。世の中不公平だわぁ~」
「いいから離れろっての。顔面にボールぶつけんぞ」
男子連中を追い払ったと思ったら、今度は女子連中に囲まれてしまった。
「スーナちゃんっていうんだっけ?」
「え、あ、はい!」
「スーナちゃんは李家君の事、なんて呼んでるの?」
「えーっと、いつもレン君って呼んでます」
「蓮君! なんか良くない? 今度私も李家君の事、蓮君って呼ぼうかな~」
「よ、呼ばなくていいよ!」
「ねぇねぇ、スーナちゃんのしてるペンダントってもしかして、李家君がプレゼントしてあげたの?」
「だから、なんで分かんだよ! もしかして、茜から聞いたのか?」
「だってこのペンダント、商店街のアクセショップで買ったやつでしょ? 私も見た事あるもん」
「なんかすげー恥ずかしいんだけど。っていうかどんだけみんなあのアクセショップに行ってんだよ!」
「いやー、良いと思うよペンダント! 私もペンダントプレゼントされてみたいわ~」
はぁ…ものすごい疲れる…。
今日の授業はバスケだ。先週まで基礎練習をしており、今週からチーム対抗戦での実践授業というわけだ。
体育会があまり大きくないため、まずは男子だけで試合をし、女子はそれを見て気付いた事を、感想として書くといった具合だ。
俺が準備運動しているとスーナが駆け寄ってきた。
「ん? どうした?」
「ばすけっていうのがどういう物か分からないけど、頑張ってね! 私、レン君の事、応援してるから♪」
みんなの前でスーナからの応援宣言は、死ぬほど恥ずかしかったが、やっぱり女の子から応援されるというのは結構嬉しい。
不思議とやる気がみなぎってきた。
「ありがと。まぁ頑張るよ」
案の定、周りから冷やかしの声が聞こえたが、全無視した。
俺は茜に、スーナに簡単なバスケのルールを教えるよう頼んだ。
コーラ1本と引き換えだったが…。
試合が始めると、両チームは互角の戦いを繰り広げた。
「蓮斗、頼む!」
同じチームの駿からパスを受けとり、シュートを試みようとしたが、予想以上にディフェンスが硬い。
丁度、相手チームのマークから外れていた山っちこと、大和千尋が目に入った。
「山っち、パス!」
渾身のスルーパスは見事に山っちに渡り、そこから山っちの放ったボールは見事にゴールのリングに吸い込まれていった。
「ナイス、山っち!」
そう言ったのも束の間、相手の速攻に対応できず、ものの数秒で逆転されてしまった。
26対25。後、一発入ればこちらも逆転だが、残り5秒。さすがにキツいか…?
「レン君、頑張ってー!!」
突然、スーナからの声援が飛んだ。
振り向くと誰よりも真剣な顔で応援しているスーナと、その隣に誰よりもニヤニヤした顔をした茜が並んでいた。
成る程、茜のやろうが唆したのか…。
…でもなんかやる気でた。
試合再開の笛が鳴ると同時に、俺は全力でダッシュし、駿が俺目掛けてボールを思いっきりぶん投げた。
「蓮斗、行けぇ!!」
俺はパスと呼ぶにはあまりにも乱暴な豪速球をキャッチし、全力でドリブル突破を決行した。
さすがに相手も動揺したのか、ディフェンスもガタガタだった。
一気にゴールしたまで到達し、最後はダンクで決めた。
「試合終了! 26対27でBチームの勝ち!」
最後の全力が堪えたのか、俺はその場に倒れ込んだ。
「蓮斗、ナイっシュー! でも最後、わざわざダンクで決める必要あったのか?」
「いや、なんとなくテンション上がって…」
「あー、成る程ねー。スーナちゃんの応援で火が付いたわけね」
「よーし、顔面にバスケットボールめり込ませてやろうか? アンパンマンの頭みたくしてやる」
「いや、アンパンマンの頭バスケットボールじゃないから!」
「おーい、お前ら! そろそろ時間だから片付け始めろ~!」
先生の合図と共に俺達は、各々用具の片付けを始めた。すると、茜がやって来た。
「いやー、流石は元バスケ部だねー。女子達、みんな見いっちゃってたよ。あ、勿論、スーナちゃんもね」
「別に俺だけじゃなくて、駿とか山っちも活躍してたろ?」
「そりゃそうだけど、結局はあんたが全部カッコいい所持ってったじゃん」
「嫌な言い方すんな。つーか、お前だろ? スーナにデカイ声で応援させたの」
「あら、やっぱりバレてた? でも嬉しかったでしょ?」
俺はその質問に対して何も答えられなかった。
何故なら、茜の言う通り嬉しかったからだ。
「でも私が言わなくても、きっとスーナちゃんは蓮斗の事、応援したと思うなぁ~」
「? なんでそんなことわかんだよ?」
「勘」
「勘って…」
「案外、女の子の勘って結構当たるんだよね~。それはそうとスーナちゃんの事、早く迎えに行ってあげないと可哀想よ~?」
「分かったよ…。あぁ、後今日はスーナの面倒見てくれてありがとな」
「どーいたしまして。コーラ忘れないでよ~」
「はいはい、後でな~」
俺は急いでスーナの元へ駆け寄っていった。
「おう、スーナ。見学は楽しかったか?」
「うん、楽しかったよ! レン君、とってもかっこよかったよ♪」
「スーナが応援してくれたから頑張れたよ。ありがとな」
「うん!」
「さぁて、やっとお昼だ。スーナは家帰るんだろ?」
「ええと…うん、そうかな…」
スーナはなんだか、少し迷ったような、そして少し寂しそうな顔をした。
「…一緒に昼ごはん食べてくか?」
すると、スーナはとても嬉しそうな顔で頷いた。
昼休みに入ると学校の屋上に行き、俺とスーナは弁当を二人で分け合って食べた。
弁当の量は少なかったけど、二人で食べる弁当はいつもよりずっと暖かくて美味しかった。
「レン君、またここに来ても良いかな?」
「えーと…うん、事前に学校とかに許可取ったらな」
断れない自分を情けなく思うと同時に、次にスーナが来る日をちょっぴり楽しみにしてたりするのは内緒だ。




