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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
7章 POST
233/300

No.233 Side 源河翼①

「あ…僕は今はいいや。君達先に行っててよ」


僕は蓮人君達が食堂に向かう中、一人部屋に残った。轟狐に身を置いていた頃から、食事はずっと一人で取っていたので、誰かと一緒に食事をするという事にまだ慣れていなかった。


「違うか…よく考えたらこっちの世界に来る前から一人だったな…」


誰もいない部屋で独り言をポツリと呟いた。

つい1ヶ月程前まで、自分の名前を冠した轟狐一派に身を置いてたのが、まさか轟狐の敵対勢力の組織の本部に属する事になるとは思わなかった。人生どう転ぶか分かったもんじゃないな。

蓮人君達がアジトに来なかったら、この先もずっとあのアジトに幽閉されていたのだろうか。

もしかしたら、POSTとしての蓮人達にやられていたのかもしれない。

意味も無いのに、最近はそんなたらればの話をよく考えてしまう。


「夕食を断っておいて、一人になった途端これだ」


自分で自分に呆れながら、力なく笑った。このままこの部屋に居ても、ごちゃごちゃと考えてしまう気がしたので、僕は食堂に向かうべく、部屋を出た。

すると、丁度そこにテトラ君が通りかかった。


「ツバサさん、こんばんは。今から夕食ですか?」


「うん…そんな所かな。テトラ君は?」


「僕も今からです。そういえば他の皆さんは?」


「先に食堂で食べてるよ。もうそろそろ戻って来る頃じゃないかな?」


「そうだったんですね」


なんとなくそこから会話が続かなくなった。最も、お互いに雄弁な方では無いから、仕方ないといえば仕方ないけど。


「あ、テトラ君! とツバサさん…だっけ!? こんばんは!!」


この元気で明るい声の主は、ルリリさんだった。ルリリさんは笑顔で手を振りながらこっちにやって来た。


「あ、る、ルリリさんこんばんは!」


さっきまでの真面目顔はどこへやら、ルリリさんがやって来た途端、緊張に満ち溢れた表情に早変わりした。テトラ君も意外と顔に出るタイプなんだなと思いつつ、よく考えたらまだ12歳なんだし、全然普通の事かと納得もした。


「こんばんは。ルリリさんも今から夕食ですか?」


「はい、次の任務の準備してたら時間かかっちゃって! 2人も夕食ですか?」


「まぁ…そんな所かな」


僕は照れまくっているテトラを見ながら、自分でも思いがけない提案をした。


「あの…もし良かったら、3人で夕食一緒食べない? あ、いや他に人がいるんだったら、大丈夫だけど…」


「え、良いんですか? 是非是非ご一緒させてくださいな♪」


「え、あ、いや、僕は…」


「そんな事言わずに、テトラ君も一緒に夕食行こうよ~」


「あ…はい、じゃあお言葉に甘えて……」


テトラ君は必死に隠していたが、その表情からはルリリさんと一緒に食事が出来るから、嬉しさが滲み出ていた。

こうして僕とテトラ君、ルリリさんというよく分からない組み合わせの3人は食堂に向かった。

何故、僕はあそこであんな提案をしたのか、よく分からなかった。

もしかしたら、無意識のうちに誰かと話したいという気持ちがそうさせたのだろうか。

もしそうだとしたら、蓮人君達には申し訳ない事をしたな。

その蓮人君達とは、道すがら会う事は無かった。恐らくすれ違いで部屋に戻ったのだろう。


僕達は各々カウンターから食事を受け取ると、席に着いた。

時間が少し遅い為か、周りに食事をしている人達はあまり居なかった。


「私、実はこの時間に食事するの好きなんだ! あんまり人が居ないから落ち着いて食事できるし」


「そ、そうですね、わ、私も同じ理由でこの時間に食事します!」


少年よ、もう少し落ち着けよと思わなくも無かったが、憧れの人を前にしての食事は緊張するのだろう。

なんだか無理に誘ってしまったかな。


「二人は…いつも食事は一人なの?」


「私は一人だったり、メグさんとかリリィさん…あとシルクさんと食べる事が多いですね! 外に出ていたりするから、そもそもここの食堂で食事する事自体、あまり無いんですけどね」


さり気なく知らない人の名前が出てきた。15メンバーの一人かな?


「私はたまにレグマさんにお誘い頂く位で、基本的には一人が多いですね。友人もいませんし…」


なんとなくそんな感じはしていた。あまり人と積極的にコミュニケーション取る様には見えないし、あくまで仕事上の付き合いしかないのだろう。まぁ…自分もあっちの世界で暮らしていた時は似たような感じだったから、人の事は言えないけど。


「そっかぁ、じゃあたまに一緒に夕食食べようよ! 最近はメグさん達も忙しいみたいで、中々一緒に食べれなくてさ。テトラ君とももっと仲良くなりたいし♪」


「あ、いや、その…僕…私なんか……あ、でも…ルリリさんがよろしければ…その…はい」


「やったぁ、じゃあ約束だよ♪」


なんという人たらしだろうか。もしかしたらテトラ君は最初もこんな感じで話しかけられて、意識する様になってしまったんではないだろうか。あと、テトラ君の本来の一人称って僕なんだ。


「で、ではその時はツバサさんもご一緒にどうですか!?」


「え、あ、いや、僕は…」


「それ良いね! ツバサさんももし迷惑じゃ無かったら、一緒にまたご飯食べましょう♪」


「えっと…まぁたまになら……」


テトラ君、多分2人きりじゃ耐えきれないと思って、僕を巻き込んだな。


「じゃあその時はツバサさん達がいた世界の事とか沢山教えてください!」


「あ、いや、それをここで話すのは流石に…」


「あ、そうだった! もし誰かに聞かれたりしたらレグマさんに怒られちゃう!」


いくら15メンバーや天才少年であっても、こうして話しているとやっぱり子どもなんだなと思わずにはいられなかった。

こんな年端も行かない子ども達が任務にあたり、時には戦場に赴かなくてはならないという現実に、僕は改めて自分の過去の行動を悔いた。意図的でなかったり、不本意であったとしても、僕の行動が回り回ってこの子達に影響を及ぼしているのだとしたら…そんな事が僕の頭の中をグルグルと渦巻いていた。


「ツバサさん、どうしたんですか? もしかして具合悪いとか?」


「いや…なんでもないよ。ちょっと考え事をしてただけ」


過去は変えられない。変えられるのは今と未来だけだ。

そんな分かりきった事を今更頭の中で復唱しながら、これからの償いへの決意を改めた。


「あ、そういえばツバサさんっておいくつなんですか?」


ルリリさんの質問に対して、僕は普通に自分の歳を答えたら、2人共目を丸くして驚いていた。

そんなに若く見られていたのだろうか?

一方で、存外悪い気分じゃなかったりした。


こうして僕とルリリさん、テトラ君という不思議な組合せの夕食会が幕を閉じた。

たまにだったらこういうのも良いのかもしれない。

そう思いながら自分の部屋に戻って行った。

急に暑くなってきたので、慌てて扇風機を出しました。

プロペラに埃がついたまま起動させたので、部屋がエライことになりました。

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