No.230 研修②
俺が定位置から戻ろうとした時、研修場の扉が開いた。
「すみません、到着が遅れました!!」
開いた扉の前にはポニーテールでやや長身の美人の女性が息を切らしながら立っていた。
「フレイムか。やっと任務報告が終わったか」
「遅刻だぞメグ!!」
「す、すみません、報告することが今回多くて……」
「言い訳はいい。準備が出来たら早く来い」
「は、はい、すぐにー!!」
そう言って、メグさんは研修場の更衣室に入ると速攻で着替えて来た。
「ご、ごめんなさい! 今日から君達の研修担当になる…メグ・フレイムで…す! どうぞ…宜しくねぇ…ハァハァ」
「んふふふ、メグちゃん落ち着いて。まずは深呼吸して息を整えて」
「すーはー…すーはー……」
メグさんは何度か深呼吸をすると、ようやく落ち着きを取り戻した。
「みんな、この子はさっき言った15メンバーの1人のメグちゃんよ」
「ごめんなさい、初日から遅刻しちゃって! 今日から研修担当するメグ・フレイムです! 宜しくね!」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします!」
「…で、私は一体何をすりゃ良いんだ…?」
「今は5人の魔石の扱いについての長所短所の見極めを行っている。フレイムもこちらに来て、彼らの事をよく見ていろ」
「あーはい、そういう事ね! 了解です!」
そう言うとメグさんはグリームさんの所に向かって、走って行った。
「研修を中断してすまない。では次の行程に移る。次は風に変換した魔力を体に乗せ、身体能力を向上させた上での動きを見る」
そう言うと、何やら地面が揺れ始めて、地面から障害物レースの様な物が現れた。そして最終地点の所には巨大な大岩が聳え立っている。
「すげぇ、なんか出てきたぞ!」
「諸君らには風の力を体に乗せた上で、出来る限りこのフィールドを早く駆け抜け、最後に大岩に風の力を乗せた一撃を加えてもらう。但し、フィールドを飛び越えたり、破壊する事は禁止する。あくまで身体向上させた状態での、力の緩急が出来るかを見させてもらう。ではまずはタカハシシュンから行ってもらう」
「うえー…俺、魔石の力を体に乗せんの苦手なんだよなぁ……」
ぶつぶつと弱音を吐きながらスタート地点に着くと、すぐに集中して体に風の魔石の力を乗せた。乗せたのは良いが…。
「おい駿、それ風の力を体に乗せすぎじゃ……」
俺の予感は的中し、スタートと同時に魔石の力を乗せすぎた駿の体は一気に吹っ飛んでいった。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
駿は断末魔の叫びをあげながら、そのまま壁に激突した。
「うっわぁ、痛そう……大丈夫なの、あの子?」
メグさんは若干引きながらも壁に激突した駿を心配していた。
「あいつさっきの魔石の力の放出といい、魔石の力の制御が壊滅的に終わってんなぁ…」
「シュン君の制御難もあると思うけど、多分片腕を失っている事で体のバランスを取り辛くなってるのかもしれないわねぇ。私の方も早く義手を完成させてあげないとねぇ」
「うむ…腕の件を差し引いても、魔石の力の制御は最重要課題となりそうだな…」
リリィさんは駿が倒れている所へ向かうと、癒しの魔石らしきもので治療を行った。するとものの数秒で駿は意識を取り戻し、ぴんぴんした様子で戻って来た。
「すげぇ一瞬で怪我が治った! リリィさんありがとうございます!」
「んふふふ、治療は私の仕事なんだから心配しないで♪ でも次からは気を付けるのよぉ」
次に茜がスタート地点に立つと、茜は静かに集中した。そして凄まじい勢いでスタートした。
しかし、先程の駿とは違い、魔石の力の緩急を駆使して、カーブや曲がり角も問題無くクリアしていき、最後の大岩の所へあっという間に到達した。そして魔石の力を拳に込めると、茜は右ストレートで大岩を粉々に粉砕してしまった。
何度見ても、魔石の力を込めた茜の打撃攻撃は凄まじい威力だ…。
「すげぇなあいつ、大岩を粉々にしちまったぞ」
シンラさんは茜の動きに下を巻いていた。
「それにあそこまでの到達時間も滅茶苦茶速いね。あの子達、魔石については殆ど素人って聞いてたけど、ホントなの?」
「元々の身体的なセンスもあるのかもしれないが、魔石の力の体への乗せ方がかなり上手いな。恐らく戦闘スタイルについてはルリリとフレイムに近いかもしれんな」
「うぐぅ…追い越されない様に修行しなきゃ…」
その後、源河とスーナ、俺が続けて挑んだ。源河は身体への魔石の力の乗せ方は上手かったものの、やはり魔力切れで途中で力尽きてしまった。スーナは魔石の力の乗せ方は問題無かったものの、乗せる前と後で身体能力にほぼ違いが見られず、普通に走って普通に大岩を「ぺちっ」っと叩いただけだった。
そして俺は無難に身体に魔石の力を乗せ、無難に大岩に罅を入れて終わった。
「よし……この後もどんどんテストを受けてもらう。気を引き締める様に」
「は、はい!」
成程、短時間ではあるけど、魔力を使いながらの体力テスト、地味に辛いな。いや、逆に体力不足という事か。
「研修に活気が出ているみたいだな」
なんとレグマさんが研修場にやって来た。
「ダーガレッド総統! なぜあなたがここに…?」
「なんだい私がここに来るのがそんなにおかしいのかい?」
「いえ…ただ、総統が研修場に姿を見せるなんて珍しいので…」
「いや何…ただの気まぐれさ。それに今回の新規入団の子達には個人的に興味があってね」
「興味…ですか」
「どうだい、彼らの様子は? グリーム君達から見て、期待度はどれ位だい?」
「そうですね…」
グリームさんは俺達の方を見ながらレグマさんの質問に答えた。
「まずはタカハシシュンですが、魔石の力のコントロールや身体への乗せ方が壊滅的に下手ですね。先程も何度ここの壁を破壊した事か…。一方で魔石の力の威力は桁外れです。魔石の力の制御が改善されればかなりの戦力になりますね。次にゼンバヤシアカネは、魔石の力を放出するのが壊滅的に苦手の様で、こちらはあまり期待できないですね。但し、魔石の力を身体に乗せるセンスは5人の中でダントツですね。元々の身体能力の高さも加味すると、フレイム辺りが近いですかね」
「確かにあのアホ面の魔石の威力はちょっとビビったな! しかも全力って感じでもねぇみてぇだし」
「アカネって子、動きだけなら私とあまり遜色ないかも…特に力の緩急の付け方が凄いですね」
「成程……この二人は面白い位に対照的だね」
「そしてカワハラツバサ。彼は魔石の力の放出、そして身体への乗せ方自体はとても上手いですね。恐らく他の4人よりも魔石の扱いに慣れている様に見受けられる。但し、彼自身の魔力のキャパが小さすぎて、すぐに魔力切れになる傾向があります。要改善ですね。スーナインジについては、一応テストを受けて貰いましたが、戦闘にはあまり期待できないかと。但し、彼女はチオさんの元で働くとの事なので、問題は無いかと…」
「あぁ、スーナ君は戦闘に出てもらうつもりは無いから、その認識で大丈夫だ」
「そ、そうですよね、あんなか弱い子が戦場に出る訳ないですもんね。ほっ…」
「あとあのもやし野郎、魔力もそうだが体力も貧弱過ぎんぞ! あれじゃ戦闘になる前にくたばっちまう。今回の研修でビシバシ鍛えてやんねぇとな!」
「最後にリノイエレントは、魔石の力の威力はタカハシシュン、魔石の力の体への乗せ方はゼンバヤシアカネにそれぞれ劣りますが、魔石の力のコントロールが抜群に上手いです。まるで自分の手足の様に扱いますね。POST本部内でもあそこまでコントロールが上手い人間はあまりいないかと…。恐らく様々な魔石を問題無く使えこなせる様になります」
「ほう…それは期待できるな。接近攻撃と遠距離攻撃、場合によっては味方の補助も可能な万能タイプって感じか…。もしかしたら雷の魔石も使いこなせる様になるかもな」
「雷の魔石…可能性はゼロではないかと。まぁあくまで彼の努力次第ですが…」
「魔石の力の威力と、身体への乗せ方自体も悪くねェしな! レグマさんの言う通り、5人の中じゃ一番能力のバランスが良いなぁ!」
「雷の魔石…か…とうとうあいつ以外にも使える子が出てくるのかもか…しかも新人……」
「なんだいメグ君、彼以外に雷の魔石が使えるかもしれない事がそんなに複雑か?」
「あ、いえ、そんな事無いですよ!! 大体雷の魔石はあいつの専売特許なんかじゃ無いんだし、私だっていつかは……」
「いやいや、おめぇみたいなガサツ女が雷の魔石が扱える訳ねェだろ!」
「えー!! シンラさん、女子にその言い方流石に失礼じゃないですか!!?」
「シンラ、フレイムの言う通りだ。言い方に気を付けろ」
「わーい、グリームさん優しい♪」
「へいへい、悪ぅござんしたよぉー…」
グリームさん達のやり取りを余所に、レグマさんは俺の方を見ている気がした。
が、恐らく気のせいだと思い、気に留めなかった。
「リノイエレント……リノイエ…か」
「? どうしましたか、ダーガレッド総統」
「いや…やはり彼にそっくりだなと思ってね……血は争えないようだ」
新潟の鯛茶漬け、へぎそば、村上牛、日本酒は素晴らしかったです。
つまり最高です。




