No.23 来校者
「良かったぁ、レン君に会えて!」
スーナの突然の登場にただただ、呆然とするばかりだった。
よく見ると、スーナが何かを腕に抱えている。
「えーと…色々言いたい事、聞きたい事があるんだけど…何しにここへ来た? っていうか、俺が通ってる学校の場所、よく分かったな!」
「レン君、今日お弁当忘れていったでしょ? それで届けに来たの。学校の場所はレン君のおばあちゃんが地図を書いてくれたから、それ見て来たんだ」
「あ、そういや鞄がいやに軽いと思ったらそう言うことか…。悪いな、手間掛けさせて。届けてくれてありがとうな」
「どういたしまして♪ じゃあ私、おうちに戻るね!」
「ああ、気を付けて帰れよ! じゃあまた後でな」
そう言って、スーナを見送ろうとした瞬間、後ろのざわめきに俺はようやく気付いた。
「何々、留学生ちゃんがお弁当持ってきてれた訳?」
声の主は茜だった。よく見ると、女子連中が集合していた。
「お、お前らなんでこんな所に…。今日は体育館集合だろうが」
「いやさー、私の携帯に蓮斗のおばあちゃんからメールが来ててさ~。スーナちゃん…だっけ? お弁当届けに行くから、蓮斗に伝えてくれって。蓮斗、携帯に鬼電きてんの気付いてないでしょ?」
「なんで茜がうちのばあちゃんの携帯のメアド知ってんだよ…」
「甘いねー李家蓮斗君~。女の情報ネットワークを舐めない方がいいぞ~」
「なんだそりゃ…」
「ねーねー、蓮斗君、その子って蓮斗君の彼女?」
他の女子もスーナと俺の関係に食い付いてきた。
しかもいきなりぶっこんできた。
「いや、スーナは俺の家にホームステイしてる留学生で…」
「えー、でもそれにしちゃ仲良くない? 」
「めっちゃ笑顔で手ぇ振ってたじゃん!」
「いつからホームステイしてるの?」
「えーと先週の金曜日…」
「部屋ってどうしてるの? もしかして一緒の部屋で寝てるとか…?」
「違う違う、一緒になんか寝てない!」
「え、私、レン君と何回か一緒の部屋で寝たよ?」
おいいいいい!!
なんで急にそこ訂正した!?
余計な事言うとややこしくなんだろーが!!
「えええ! やっぱりそういう仲なの!? え、布団も一緒!?」
やばいやばい、質問攻めが留まらない。
このままだとある事無い事、噂がエライ勢いで広まってきそうだ。
「おらー、お前らー! そこに集まって何してんだ~!? 今日は体育館で授業だぞ~! 早く体育館に集合しろ~」
「先生~この子、蓮斗君の彼女なんだって~!」
「いや、だから彼女じゃなくてホームステイで来てるだけだって!」
「ん~? あぁ、この子が李家の家にホームステイしてるっていう噂の子か!」
「え、先生なんで知ってるの!?」
「今朝、校長先生が言ってたんだよ。先週の金曜日に李家ん所のじいさんと飲んだときに聞いたっつってたぞ?」
「あのじじい、あの日校長とも飲んでたのかよ! どんだけ気軽に誘ってんだ!」
「? 別に良いだろ? あの二人は昔からの仲なんだから」
「いや、そうなんだけどさ…」
「それはそうと、そのホームステイの子は、一体何しに学校まで来たんだ?」
「いや、実は俺が弁当を家に忘れてきて、それを届けに来てくれたみたいで…」
「じゃあ結局、李家が原因じゃねーかよ」
「それは…まぁそうなんですけど」
「ふーん…」
先生は一瞬、何か考え事をしたかと思ったら、すぐに閃き顔を披露した。
「せっかくここまで来たんだ。体育の授業を見学してったらどうだ?」
「いや、先生、あんた何言ってんだ?」
「丁度ホームステイで来てるんだし、良い機会だろ? 日本の学校の授業風景を見てってもらえ。勿論、その子が興味あればだけど…」
スーナは少し戸惑ったが、すぐに笑顔で返事をした。
「はい、見てみたいです!」
「す、スーナ…。マジでか…」
「え、レン君は嫌だった…?」
スーナが少し寂しそうに俺に尋ねてきた。俺に選択肢など最初から無かったに等しかった。
「…別に嫌じゃないよ。じゃあせっかくだから見学してきな。じゃあばあちゃんには俺から連絡しとくから」
「分かった!ありがとう♪」
「えー、何今の? ナチュラルに優しくなかった? やっぱそうなの?」
あー…うるせぇー…。
「先生ぇ、そういう事だから、職員室の電話ちょっと貸して」
「おぅ、じゃあこっち来い。ついでにあの子の来校届けを書いてってくれ」
「あー、そっか、了解っす」
俺は職員室の電話を借りて、ばあちゃんに一通りの事情を説明した。
特にお咎め等はなく、スーナの事をくれぐれも頼むと言われた。
職員室を出ると、スーナが待っていてくれた。
「なんだ、待っててくれたのか。じゃあ行くか」
「うん!楽しみ」
そんなに楽しみにされても困るんだけど…。
とりあえず俺とスーナ、そして先生は体育館へ向かった。




