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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
7章 POST
222/300

No.222 移動はつらいよ

次の朝、すっかり体の疲れが取れ、久々に気持ち良い朝を迎える事が出来た。

スーナも疲れていたのか、ぐっすり寝ていたらしく、久々に部屋に入って来る事は無かった。

実はそれが若干寂しかったりしたのは内緒だ。

軽く身支度をして、1階の食事場所に行くと、駿とテトラが先に居た。俺のすぐ後ろには源河が同じタイミングで階段を降りてきた。


「おはよう。あれ、スーナと茜は?」


「おはようございます。お二人なら既に食事を済ませて、今はマッサージを受けに行きました」


「へぇーここマッサージなんてあるんだ」


「この街の中でも指折りのホテルですからね。他にも温泉等も完備されてます」


「そんないいホテル押さえてるのかよ! か、金ってどこから出てるんだ?」


「いえ、このホテルはPOSTに所属する人間であれば、無料で止まれるのでお金は発生しません」


「え、マジか!!」


「このホテル以外にも、そう言ったPOST協力店は世界中にあります。まぁむやみやたらに泊まる事は禁止されており、具体的な使用理由や、その理由が妥当であるかどうか認められる必要があります。今回はPOST入団メンバーの護送という立派な名目があるので、問題無く利用出来ている訳です」


「へぇー随分気前が良いんだなぁ…」


「その代わり我々POSTは全力で弱者を悪意から守る義務があります。ひとえに信頼関係で成り立っている仕組みです」


「ここに泊まったからには、僕達も身を粉にして頑張らないとね」


少しして、俺達の朝食がテーブルに運ばれてきた。何やらサンドイッチの様な物に、サラダ、そして魚介スープが並んだ。

いずれも美味で、個人的には昨日の夕食よりも好みだった。

暫く朝食に舌鼓を打っていると、源河がテトラに質問をした。


「POSTに15人の実力者が居て、その人達がPOSTをまとめているんだっけ?」


「えぇ、No.1を総統として位が高い順に2, 3, 4, 5といった風にNo.が割り振られます。ただ完全な実力順という訳では無く、戦闘力や戦術・知識・技術、リーダーシップや実績等、あらゆる面をトータルで考慮した順位というのが正しいですかね」


「へぇー…じゃあその15人は全員強いんだ?」


「今言った様に完全な強さを表す順位では無いですが、15人に関しては何かしらの能力に抜きんでた実力者と言えますね。No.13の方は少し特殊な立ち位置なので、戦闘には参加しませんが」


「という事は君もその15人の中に入ってるって事でしょ? あれだけの強さだもの」


「いえ、私は上位15人の中にも入っていませんよ」


「えっ、あんだけの強さを持ってんのにか!?」


「勿論、上位15人の除けばそれなりに戦闘能力はある方かと自負してはいますが、それでもまだまだです。15人の中で一番下のNo.15でさえ、僕からすれば巨大な壁です」


「はへぇー…俺らが15人の中に入るなんて、夢のまた夢って感じだな…」


「へぇーシュン君、上位15人の中に入るつもりだったんだ」


「い、いや別にそうは言ってねぇだろ!! なんかムカつくな!!」


「言ったも同然でしょ。でも目標を高く持つのは悪くないんじゃないかな」


「えぇ、志を高く持って入団される事自体はとても素晴らしいと思いますよ。実際僕も上位15人の中に入る事を諦めた訳では無いので」


「やめろやめろ、なんか軽はずみで言った俺が恥ずかしい事になってっから!!」


「よし、一緒に上位15人目指して頑張ろうな、駿」


「蓮人、うぜぇーんだけど!! もうお前ら嫌ーーい!!」


そんな会話をしていると、スーナと茜がマッサージから戻って来た。俺達も丁度朝食が終わったタイミングだったので、ととっとチェックアウトを済ませて街を出た。

ちなみにPOST協力店が存在する街にはジテンを停める為のスペースがあり、必ずそこに停める様にしているようだ。


2日目ともなると、いよいよ会話するネタも尽きてしまい、無言の時間が続いた。

元々今いるメンバーも駿を除いてお喋りな人間がそもそも居ないし、駿も多少喋る方だという位で、ひたすら喋っている訳では無い。

街を出て数時間が立とうとした時、何やら駿が荷台から顔を出して、ゴソゴソし始めた。


「?? どうした駿?」


俺が駿に質問をしたと同じタイミングで、突然駿は風の魔石で巨大な暴風をぶっ放した。

その衝撃でジテンは若干横に傾いたものの、なんとか横転をせずに持ちこたえた。


「しゅ、しゅ、シュンさん!!? あなた一体何をしてるんですか!!? 何故突然暴風なんか!!」


「いや…分かんねぇけど…場所広いし、でっけぇ暴風ぶっ放したらどうなるかなぁって…」


「そんなしょうもない理由で魔石の力を使ったなんですか!!? どうなるもこうなるも無いでしょ!! もし、人が居たりしたらどうするつもりなんですか!!?」


「分かんねぇ…分かんねぇ……でも無性に風を起こしたくて……気付いたらぶっ放してて……」


「オイ、駿が長距離移動で精神的におかしくなっちまった!! 駿、正気を取り戻せって!!」


「あーやばい、なんだか色んな所で風を巻き起こしてぇよぉ…!!」


「こいつやばいよ、なんかテロリストみたいな事言い始めたぞ!! テトラ、悪いんだけど一旦ジテンを停めてくれないか? この馬鹿を落ち着かせる」


「…分かりました。ではジテンを停めて一旦小休憩を取りましょう。みなさんもお疲れの様ですし」


そんなこんなで俺達は急遽、移動を停め、草原のど真ん中で小休憩を取る事にした。

辺りは山々に囲まれ、一面草原の風が気持ち良い場所だった。いや、この風は駿が発生させたやつか…。

山々のてっぺんには雪冠が掛かっていた。そう言えばイクタ村に比べると若干気温が下がった様な気がした。

着実にPOST本部がある場所に近付いているという事だろうか。

すると、なにやら飲み物を持ったテトラがやって来た。


「レントさんもこちら、飲みます?」


そう言って渡されたのは、どこかで見覚えのある飲み物…そうだ、初めてスーナに会った時に飲まされた、あのクソ甘い飲み物だ。


「あ…えっと…心遣いありがたいんだけど、俺は良いわ……すまん」


「そうですか。こちらこそ色々と配慮が出来ていなくて申し訳ございませんでした」


「えっと…何のこと?」


「シュンさんの事です。連日の長旅で精神的にも肉体的にも疲労が貯まりやすくなっている事は容易に想像出来たのに、そこら辺の配慮が欠けていました。あなた方を護送する身として反省しなければなりません」


「いや別にテトラが悪いとは思ってないよ。いくら疲れてたっつって、いきなり草原のど真ん中で暴風ぶちかます方が悪いんだから。あいつには後で説教しとくから、テトラが気にする事じゃないさ」


「…心遣いありがとうございます」


「まぁ…これであのバカも落ち着くだろうし、暫くしたらまた出発しようぜ」


「はい…。っと、魔石に何か反応がありますね。こちらに近付いて来る様です」


「ええ、もしかして昨日みたいな連中がまた?」


「いえ…この反応は……動物の群れ??」


「動物??」


「えぇ、恐らく先程のシュンさんが放った暴風が動物の群れを直撃して、攻撃されたと解釈したのでしょう。非常に不味いです」


「あのバカタレ、トラブル呼び寄せやがって!」


すると、徐々に大量の何かが押し寄せてくるような足音が聞こえ始めてた。


「蓮人!! なんか向こうの方から凄い数の動物?みたいのが押し寄せてくるよ!」


「レントさん、私一人では流石にこの量の群れを捌く事は出来ません。なのでここはレントさん達のお力をお借りしたいと思うのですが、宜しいですか?」


「元々これはうちの奴がしでかした事だからな。当然協力するよ!」


こうして、俺達は草原のど真ん中で緊急クエストに挑戦する事になった。

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