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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
7章 POST
215/300

No.215 夏の決心

夏祭りの次の日の朝、俺は目を覚ました。

昨日は、夏祭り中歩き通しだったので、若干足が痛い。

キロとテンの体力お化けっぷりには参った。妖狐族っていうのはみんなこうなのか?

それとも子供の体力が凄いだけか。

顔を洗って、朝食を取ろうと起き上がろうとした時、布団ではない何かが覆いかぶさっていて起き上がれなかった。

何かと思って布団を捲ると、スーナが俺を抱き枕代わりにしてスヤスヤと眠っていた。

あれ以来、スーナが好きな時に来ても良いとは言ったが、毎日の様に潜り込む様になっていた。

ただ、その効果なのか、ここ数日は精神的にもだいぶ落ち着いている様だった。


「スーナ、朝だぞ。そろそろ起きろぉ」


俺はスーナの背中をさすり、起こそうとしたが一向に起きようとしなかった。

まぁスーナが朝弱いのはいつも通りではあるのだが……。

俺はふざけてスーナの頬っぺたを軽くつまみ、起こそうとした瞬間、寝ぼけたスーナが俺の右手の親指をぱくりと口に入れてしまった。


「ちょっ、スーナ!!?」


「んー…ちょほはなな(チョコバナナ)ぁ……」


「違う違う、それチョコバナナじゃなくて俺の親指!! いでででででで、噛まないで!! 痛いから噛まないでぇ!!」


ひとしきり俺の親指を嚙みつくすと、ようやくスーナは目を覚ました。

俺の親指はスーナの涎だらけになり、くっきりと歯型が付いていた。


「あの………レン君、ホントにゴメンね」


「あ…いや、そんなに気にしなくても良いから。俺も頬っぺたつまんだりしてたし……」


「頬っぺた…?」


「…つい」


そのまま暫く沈黙が流れた。


「チョコバナナ…そんなに美味しかったんだ」


「ちょこばばな…?」


「いや、寝ぼけて言ってたから……」


「…うん、とっても美味しかった」


「そっか……夏祭りはどうだった?」


「とっても楽しかった♪ レン君と…キロ君とテンちゃんと一緒でホントに良かった!」


「そっか、良かった」


すると夏美がまたドタドタと2階に上がり、部屋のドアを開けてきた。


「お兄ちゃーーん、おばあちゃんが朝ごはん出来たって……」


俺とスーナが向かい合っている光景を見て、夏美はすぅっとドアを閉めて、1階に降りて行った。


「おばあちゃーん、お兄ちゃんとスーナさんが朝チュンしてたぁ」


「ちげぇーーー!!! 朝チュンしてたってなんだぁ!!! ばあちゃん、違うから!! その子めっちゃ勘違いしてっから!!」


俺は夏美に誤解を解くと、1階に降り、居間に向かった。

居間には既にキロとテンがいて、朝食にがっついていた。


「パパとママ、おはよう!!」


「はい、キロ君おはよう♪ テンちゃんもおはよう♪」


「おはよう、パパママぁ」


最近はキロとテンはばあちゃんと一緒に寝ている事が多く、よくばあちゃんに絵本を読んでもらっている様だ。

まぁそれに比例してスーナも俺の部屋に侵入する事が増えてたのだが…。


「おう蓮人、今日あっちの世界に向かうのか?」


「うん、そうだよ」


「もうあっちの世界には慣れてきたと思うが、くれぐれも油断しねぇ様にしろよ。後、スーナちゃんの事、しっかり頼むぞ」


「分かってる」


「あと、あっちに着いたらロジに宜しく言っといてくれ」


「うん。爺ちゃんはもうあっちに行ったりはしないの?」


「別に気にならねぇ訳じゃねぇが……。年寄りが行って出しゃばっても仕方ねぇしな。あっちの事は若ぇお前に任せた」


なんだか体のいい事を言って、全部押し付けられた様な気もしたが、それ以上は何も言わなかった。

朝食を終えると、俺は駿と茜に連絡を取り、神社での待ち合わせ時間についてのやり取りをしていた。

それも済むと、いよいよその時まで待つだけとなった。


俺は自分の部屋で一人、ベッドに横になりながら色々な事を考えていた。

POSTの事、轟狐の事、そしてスーナの両親の事…。

果たしてたかだかいち高校生の俺達に事を成し遂げられるのか不安ではあった。

不安ではあったが、考えれば考える程深く落ちて行ってしまう様な、そんな感覚に襲われそうになるので、そこで考えるのを止めた。ここまで来たらやるしかないのだから、考えるだけ無駄だと自分に言い聞かせた。

そんな時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「はい」


返事をするとドアが開き、スーナが入って来た。


「…スーナも落ち着かないのか?」


「落ち着かない…とは少し違うけど、出来るだけレン君の傍に居たくて……」


「そっか」


それから俺とスーナは何を話すでもなく、ただただ隣同士でベッドの上に座っていた。

やがて、約束の時間が近付いて来たので、立ち上がった。

するとスーナも同じくベッドから立ち上がったかと思うと、徐に俺の頬にそっと唇を付けた。

俺は突然の出来事に驚いていると、スーナは人差し指を俺の唇に付けた。


「また…必ず無事に戻って来ようね。そしたらその時は……こっちにするね」


「スーナ…一体こんな事どこで覚えたの」


「えっと…なつみちゃんからお勧めされたアニメのワンシーンから拝借しました」


「そう…なんだ」


俺は平静を装ったが、スーナの魔性的行動に心臓の鼓動が爆音でアクセルをふかせていた。

すっかりこの世界の文化に染まっているな…。


「じゃ、じゃあそろそろ出発するか」


「うん!」


こうして俺達は神社に行くべく家を出た。

家を出る際、キロとテンが一緒に連れてけとごねるかと思っていたが、爺ちゃんに連れられて公園で遊んでいるらしかった。

恐らく、俺達が気兼ねなく神社に行ける様に気を使ってくれたのだろう。

神社に着くと、駿と茜が既に神社の前で待機していた。


「あ、来た来た。おーい!」


駿がこちらに気付き、大きく手を振っていた。別にそんな事しなくてもとっくに気付いてるのにと思わなくも無かったが、とりあえずは手を振り返した。


「あっと言う間だったなぁ」


「確かになぁ。こっちに戻ってきたのがついこの間の様に感じるよ」


「なんかその会話、年寄りっぽくない?」


「いいだろ、別に本当の事なんだから」


「スーナちゃんは調子どう? 問題無い?」


「はい、大丈夫ですよ♪ アカネちゃんありがとう!」


「そういえば、咲良が今度スーナちゃん誘って女子会したいって言ってたから、次こっち戻って来たら、一緒に行こうね」


「是非! 楽しみにしてますね♪」


「なーんかその台詞、死亡フラグっぽくねぇか?」


「縁起でもない事言わないでよ」


「みんな、盛り上がってる所、申し訳無いけど雑談はまた後でしようか。準備は大丈夫?」


「ういー!」


「駿の返事うざいな」


そんなこんなで徐々に意識が薄れゆく中、スーナが俺の腕をギュッと握り、優しく微笑んでくれた。

目指すはPOST。どんな所かは全く分からないが、絶対にみんな無事で帰って来よう。そう決意した辺りで俺の意識は途切れていった。

次の掲載は5月1日(月)となります。

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