No.208 Side 善林茜②
「まぁ…その…スーナさんと…その、李家君との恋愛については興味があるっているか……その、気にはなるけど…」
「でしょでしょ??」
「だけど、今する事じゃないでしょうが!! 茜、今のあなたの立場分かってるの!? あんたこのままだと本当に期末テスト赤点まみれよ!!? 何考えてるの!!?」
「あ…いや、その勉強はちゃんと頑張るから…! でも勉強を頑張るにはこの場が絶対必要なんだって!」
「いや全然意味分からないんだけど! 恋バナと勉強に一体何の関係があるの!?」
「いやーその二人の雰囲気改善っつーか……その」
「まぁ……どうしてもって言うなら…スーナさんの恋愛話……聞かなくもないけど…? いや、別に私も聞きたいとかじゃなくて、茜の勉強に繋がるならまぁ……みたいな?」
心の中で「あ、なんだかんだ言いながらめっちゃ興味あるやん」と突っ込んだが、とりあえずはスルーした。まぁそれを見越してこの提案をしたんだけどね。
「あの……アカネちゃんこれは一体……というかなんで私とレン君の事……」
「スーナちゃんホントにゴメンね。ただ、今日のスーナちゃん辛そうだったから…」
「えっ??」
「スーナちゃん、咲良が蓮人の隣に来て勉強を教えてるのが嫌だったんでしょ?」
「…そんな事…は……」
「スーナちゃん、ここは3人しかいないからさ。正直に言ってみるっていうのはどうかな? あーでも本当に言いたくなかったら言わなくても良いんだけど」
正直自分でもかなりずるい言い方だったとは思うけど、この場はこういう以外の言い方が思いつかなかった。
しかしスーナちゃんは恥ずかしがりつつも、頑張ってポツリポツリと言葉を発した。
「頭の中では分かっているつもりなんです……タチバナさんはただレン君にお勉強を教えているだけで……レン君はただタチバナからお勉強を教えてもらっているだけだって……分かっているんです………でも……それでも……レン君とタチバナさんが親しそうに接しているのを見てたら………その……すごく苦しくて……許せなく………ごめんなさい…………最低な事を言っているのは自分でも分かってます………でも……最近おかしいんです………今までは抑えられていた感情が抑えきれなくて………自分でコントロールできなくて………今日だってレン君やアカネちゃんに無理言って押しかけて……沢山………迷惑かけて………」
そこまで言い終わると、スーナちゃんはポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
「そっかそっかぁ……辛かったんだね」
私は安易にスーナちゃんの心の中にズケズケと入り込もうとした事を心底恥じた。
感情の起伏が不安定な点は置いておいて、私が想像していた以上にこの子がここまで悩んでいたなんて…。
「それは……スーナさんが李家君の事を…大好きだからですよね?」
不意に咲良がスーナちゃんに優しく問いかけた。
すると、スーナちゃんは涙を拭って、いつもの可愛らしい笑顔を浮かべながら答えた。
「はい……朝起きた時も……朝ごはん食べている時も……レン君が学校から帰って来た時も……夜ご飯食べてる時も……お風呂入っている時も……寝る時も……ずっとレン君の事を考えちゃう位に………レン君の事……大好きになっちゃったんです」
感情を抑えられないがゆえの、あまりにも真っすぐで眩しすぎる告白に私は塵となって昇天しそうになってしまった。
「スーナちゃんの気持ちは良く分かったよ。私達が思っていた以上に…蓮人の事が大好きだったんだね」
「……はい♪」
「いやーこりゃあ良いもん聞けたなぁ。ねぇさく……」
私が振り返ると、咲良は鼻血を流し、にやつきながら悶えていていた。
「えーーー!!? 咲良、なんでそんな鼻血流してんの!??」
「ご…ごめんなさい。スーナさんの愛の言葉を聞いていたら…あまりの尊さに体中の血流と言う血流が活性化して……私の鼻から喀血したわ……」
「喀血!? え、そんな漫画みたいな事になってんの!? 咲良しっかりして!! あ、でも絵面的にちょっと面白いから写真撮っとこ」
ひとしきり写真を撮り終わると、私は咲良の鼻の穴にティッシュをぶち込んだ。
「良かったわぁ…さっきの告白……♡ 今まで読んだどんな少女漫画の台詞を読んだ時よりも刺さったわ………これが純愛……素敵だわ…♡」
「ショウジョマンガ……??」
「あーなんていうか……咲良は恋愛ものの話が大好きで、それにまつわる色々な作品を読み漁っては、日々悶えてるの」
「そ…そうなんですね…」
「あの…その…スーナさん……」
「え、あ、何ですか……?」
「もし……もし良かったらで良いんですけど……李家君とスーナさんの馴れ初めとか…で……デートとか教えてくれませんか!?」
「私とレン君のですか??」
「あ、それ私も聞きたいかも♪ 蓮人、そういうの絶対教えてくんないからさぁ」
「えっと…話すのは良いですけど…聞いてアカネちゃん達がたのしいかどうかはちょっと……」
「良いの良いの♪ 私達はただスーナちゃんの仲睦まじい様子を聞きたいだけなんだから♪」
「そ…そうですか……じゃあ言える範囲で………」
「『言える範囲』って!!? てことは人前じゃ言えない様なエピもあるって事!? 何それめっちゃ気になるぅ!」
「ち、ちがくて…言える範囲って言うのは言葉の綾っていうか……」
「い…言える範囲……うふ…うふふふふ……もも妄想が留まる事を知らないわぁ………」
「ちょっとタチバナさんがまた鼻から大量に出血してます!!」
こうして短い時間ではあったが、私と咲良、そしてスーナちゃんは恋バナで大盛り上がりした。
私が恋愛話でここまで盛り上がるなんて思わなかったけど、スーナちゃんが本当に嬉しそうに蓮人との日々を話しているのを聞いているだけで、ご飯10杯はいけた。
「あらら…もう30分も経っちゃった。そろそろ私の部屋に戻りますかぁ。翔平君も戻って来たみたいだし」
「そうだ、今日はテスト勉強しに来たんだった! 茜、午後の勉強は覚悟しておきなさい!」
「えーー切り替え早っ。もうちょっと恋バナモードで行こうよー」
「それはそれ、これはこれ! というか恋バナモードで勉強って何!?」
「いやー分からん」
「あ、あの、私クッキー焼いて来たので、良かったら午後のおやつにどうですか??」
「え、スーナさんクッキー作れるの? すごい!」
「その…味はもしかしたら、そこまでかもしれないですけど……」
「そんな事は無いわ。李家君喜んでくれると良いわね」
「はい♪ ありがとうございます、タチバナさん!」
「あの…もしスーナさんが良かったらで良いんだけど…私の事は名前で呼んでもらえると嬉しい…かな」
「名前…ですか?」
「今私の事、名前で呼んでくれるのって家族と茜位だから…スーナさんとは仲良くなれそうだし、どうかな…」
「はい♪ じゃあ宜しくお願いします、サクラちゃん♪」
「ありがとう! こちらこそよろしくね、スーナちゃん♪」
「えー私の事は茜『ちゃん』って呼んでくれないの?」
「それは気持ち悪い」
「ひっでー!」
こうして私達だけの女子トークは幕を閉じ、何事も無かったかの様に蓮人達の部屋に戻った。
これは私達だけの秘密だ。
 




