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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
1章 初めての異世界
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No.2 スーナ

挿絵(By みてみん)


2日…え……?

……今、2日っつった?

2日歩くの……?

徒歩で?え、うそでしょ?


「あの…2日って聞こえたんだけど…冗談ですよね?」


恐る恐る俺は少女に聞いた。また声が上ずってしまった。恥ずかしい。


「はい、イクタ村まで歩いて2日で着きますよ♪」


いやいやいやいや、なんか散歩でもするような感覚で言ってっけど、2日て!

このだだっ広い土地を2日間歩くって!…ばかーーーーー!!!

つーか、さっき山賊がどうとか言ってなかった?絶対やられんじゃん!


「いや、いくらなんでも2日歩くっていうのは無茶なんじゃ…それに山賊がどうとか…」


「大丈夫、夜はちゃんと休みますし、山賊対策はできていますから!」


いやー、もはや何を言っているのかさっぱりわからん。あれか、この子は野宿でもするってか。

このだだっ広い所で。山賊云々以前の問題じゃんか。

何が大丈夫なのか、欠片も分からなかったが、屈託の無い笑顔で言う彼女は、

とてもでたらめを言っているようにも思えなかった。

まぁなんにせよ、その村に行かないことには現状の打破はできなそうだし、

ここで蹲っていても仕方がない。2日歩き続けることになっても、死にはしないだろう。


「それじゃあ、出発しますね♪」


一点の曇りもない笑顔でそう言った少女と、未だ困惑がぬぐえない俺は、村に向かって歩き出した。



Now Loading……



一体何時間歩いたんだろう…すっかり夜になってしまった。

街灯ひとつないから、満点の星空が広がっていて、思わず見とれてしまった。

さすがに足がくたくただ。もう野宿でいいから地面に寝っ転がりたい気分だ。


「もう夜になっちゃいましたし、今日はここで泊まりましょう!」


あー、マジだ。この子マジで野宿決め込む気だ。いやー、まぁそうするしかないんだけどね。

しかし、こんな所で野宿とか不安以外の何物でもないわ。テントも無いし…。


「あのー、やっぱり今日は野宿する感じなんですか?」


すると、少女の口から意外な言葉が返ってきた。


「いえいえ、そんなわけないじゃないですか。おうちで一泊しますよ!」


はて、この子は一体何を言っているのだろうか。どこに家なんてあるというのか。

それどころか、道中で建物ひとつ見当たらなかったというのに。

もはや頭の中がフリーズ状態だ。会話をする気にもなれない。


「じゃあ家を出すので、少し下がっててくださいね」


そう言うと、少女はおもむろに両手を付け、何やら暗証番号らしき数字を口にし出した。

突然、地鳴りのような音が辺りに響き、足元が小刻みに揺れ出した。なんだなんだ、地震か!?

すると突如、地面から二階建ての建物が姿を現した。

あまりの衝撃で、言葉も出てこない。一体なにをどうしたら地面から建物が出てくるのか。


「さぁ、中に入ってください」


そう言いながら、少女はドアを開けて中に入っていった。

目の前の光景に驚きつつも、俺も中に入った。

中は、8畳…位の広さだろうか。テーブルやらソファーやら生活感満載だ。普通の家と変わらない。


「そんなにかしこまらないで大丈夫ですよ、どっか適当に寛いでてください」


そういうと少女は何やら台所…のような場所へ歩いて行った。

とりあえず、俺はソファーに腰掛けてみた。ナニコレ、ものっすごいフカフカ、癖になる!

ソファーのフカフカに感動していると、少女が液体の入ったコップを持ってきた。


「今日は一日歩いて疲れましたよね。お口に合うかどうかわかりませんが、イクタ村特性の

イクタ茶、良かったら飲んでください」


そういってコップを渡された。匂いは…特にしない。色は茶色、麦茶に近いな。


「ありがとうございます。じゃあいただきます」


一口飲んで、口の中に衝撃が走った。


「んぁ甘んま!!いや、マジで甘っ!!え、なんですか、これ!!砂糖茶!?」


あまりの甘さに思わず、口に含んだお茶を吹き出しそうになった。


「そうなんです、私たちイクタ村の人間は甘いものが好きで、特にイクタ茶が大好物なんです♪」


そう言いながら、少女はおいしそうにクソ甘い液体を飲んでいる。

え、ほんとにこんなの毎日飲んでるの?こんなん飲んでたら糖尿病になるわ!

とてもじゃないけど、俺は飲めないな…。

そういや…ここまで歩いているときはお互い、ほとんど喋らなかったけど、

よく考えたら、俺この子の事、何も知らないんだよな…。

いや、悪い子じゃないと思うんだけど、一応色々聞いておいた方が良いよな。


「そういや、まだお互いに名前…言ってなかったですよね」


そう、驚くことにここに至るまでお互いの名前すら知らない状態なのだ。

どう考えておかしい状況だ。


「あ、そういえばそうですよね。私の名前はスーナ・インジって言います。スーナって呼んでください」


スーナ…変わった名前だな。日本人じゃないのかな?


「俺は李家蓮斗。まぁ呼び方はどちらでも大丈夫です。宜しくお願いします、スーナさん」


「レン…ト?変わった名前ですね。じゃあレンレンって呼びますね!」


いきなりあだ名で呼んでくるとは完全に予想外だった。レンレンなんて一度も呼ばれた事ないわ。


「後、敬語じゃなくても大丈夫ですよ、レンレン。お互いフランクにいきましょう」


「はぁ…わかりました。じゃあ、改めてよろしく、スーナ」


「うん、よろしくレンレン♪」


「えーと、色々聞きたいことはあるんだけど、そもそもここは一体どこなの?」


「??どこっていうのは…?」


あー、聞き方がアバウト過ぎたかなー。


「スーナって、日本ってわかるよね?」


「二ホン…?聞いたことないなー。それはレンレンの住む町の名前なの?」


マジかー、日本知らないのか…。ってことは、少なくとも外国ってことか…?

いやいや、さすがにシャレになんないなーこれ。どーやって帰んだよ。

多分、今頃捜索願いとか出されてるんだろうなー。


「そういえば、レンレンってどうやってここに来たの?周りには何もないはずなのに」


「んー、なんて説明したらいいかなー。気が付いたらここにいたっていうか…」


「ふーん、なんだか神隠しみたいだね」


「まーそんな感じだな。俺もよくわからないし」


「元の場所に帰れるといいね!」


「だといいんだけどなー。まぁなんとかなんだろう」


我ながら何の根拠もない言葉だけど、まぁ悩んでも仕方ない。何事もポジティブだ。


「そういうスーナこそあんな所で何をしてたんだ?山賊がいるんだろ?」


「服を売りに町まで行ってたんだ!私、服を作る仕事してるの!」


「服を作る仕事?一人で?めっちゃ自立してんな!」


「えへへ、それほどでも♪まぁ私、親がいないし一人暮らしだからお金稼がないといけないから」


「そうだったんだ…この家で暮らしてんのか?」


「ううん、この家は移動用ハウスだし、村の人たち共用だから」


移動用ハウス…外国にはそんなトンデモ技術があんのか…便利な世の中になったもんだ。


「私の家は村のはずれにあるんだー。ここよりももっと大きいし、広いお庭もある自慢の家だよ♪」


「へぇー、その家は一体どうしたんだ?両親の形見…みたいなもんか?」


急にスーナが悲しそうな顔を見せた。しまった、さすがにデリケートな領域に足を踏み入れ過ぎたか?


「あ、悪い、無理に答えなくていいからさ」


「ううん、大丈夫だよ!…私、実は捨て子だった所を、村の村長さんに拾ってもらったんだって。

だから、お父さんとお母さんの事は何も覚えてないの」


「そうだったんだ…」


「あ、でも村長さんをはじめ、村の人たちはみんな良い人だし、寂しいとか思った事ないよ!」


スーナは笑って見せてくれたけど、どことなく無理して笑っているように見えた。


「レンレンはお父さんとお母さんと一緒に暮らしてるの?」


「いや、母さんは俺が生まれて間もなくいなくなったんだ。父さんは2年前に病気で亡くなった。

まぁ今は、ばあちゃんとじいちゃん、妹の四人で暮らしてるから、なんとか大丈夫かな」


「そっか…じゃあおじいちゃんたち、レンレンの事、心配してるかもね」


「いや、それ以上に滅茶苦茶怒られんじゃないかな…。もーじいちゃんがおっかないのなんのって」


「そ、そんなに怖いの??」


「ほんと怖いんだよ。この間なんかさー…」


それからしばらくの間、俺たちは他愛もない会話に花を咲かせていた。

俺の家族の話や、スーナの村の人たちの話。ずっと話していても飽きなかった。

考えてみれば、2年前に父さんが死んで以来、こんな風に笑って会話出来たことってなかったかもな。


「もうこんな時間だね。そろそろ明日に備えて寝なきゃだね」


「そうだなー…じゃあ俺はこのソファーの上で寝るから」


「だめだよ、ここは夜になると急に寒くなるし、そんなところで寝たら、風邪ひいちゃうよ。

2階にお布団敷いてあるから、そこで一緒に寝よう」


「あーそうなのか。じゃあお言葉に甘えて……ん?……今、なんて??」


一緒に???


言葉の意味が理解できないまま、言われるがままに2階に向かっていくと、そこには

同じ敷布団に枕が二つに、暖かそうな羽毛布団のようなものが1つ横たわっていた。

いやいやいやいやいや、これはさすがに不味いだろ!

いくらなんでも、年端もいかない男女が同じ屋根の下、同じ布団で寝るとか!

じいちゃんに知られでもしたら、間違えなく殺される!

いや、まぁ言わなきゃバレないんだけどね…じゃなくて!

高校生男子を同じ布団の中に誘うとか、この小悪魔女子め!

よし、ここは紳士として丁重にお断りして、下のソファーで寝るとしよう。


「えーっと、あのさ、スーナ…」


「なんでそんなところでずっと立ってるの??早く寝よう♪」


「あ、あの…はい」


俺に、スーナの無邪気な誘いを断る力はなかったようだ。

いや待て、冷静になって考えてみろ。俺たちは明日に備えて寝るだけなんだ。

あくまで、スペース等の都合上、一緒の布団で寝ざるを得ないだけなんだ。

昔は妹と一緒に寝たりしてたじゃんか。変に意識するからダメなんだ。

よし、ちょっと冷静になってきた。よし、もう大丈夫だ。よし。よし。よし。よししか言ってねえけど。


「じゃあレンレン、おやすみなさい~」


「あぁ、おやすみ」


こんなもん、すぐ眠っちまえばなんてことないだろ。大丈夫、大丈夫。

今日めっちゃ歩いて疲れてるし、すぐに夢の中へ連れてってくれる。

よし、さぁー寝よー……




……

………

…………


ダメだ、全然寝れない。

いや、普通に無理だろ。

隣で女の子が寝息立てて寝てるって考えると、緊張しちまう。

やばい、これじゃ朝まで寝れないぞ。

明日も死ぬほど歩かないとならないのに。

落ち着け、落ち着け…考えるな、考えるな…。

よーし、深呼吸だ。……。


……お、やっと眠くなってきたぞ…。

………よし、このまま………。

……

………

…………


…ん?

……なんか背中に触れた様な…?

…気のせいか……。

……

なんか腕を掴まれてるような…。

…あれー、そーいえば隣にいるのは……。


恐る恐る、俺は後ろを振り返ると、あろうことか、スーナが俺の背中に寄り添い、

抱きついていた。


え、ナニコレ!?この子何してんの!?誘ってんの!?

やばい、完全にパニックなんですけど!


「んー…もう食べれないよー……。んふふふ、でも食べるー…」


びっくりした、寝ぼけてるだけか。いや、寝ぼけてたら良い訳じゃないけど!

と、とにかくこのままじゃ眠るどころじゃない、腕を払いのけて…。

っつーか力強っ!全然離れない!どんだけ力込めて寝てんだこの娘は!


「…わー、こんなにお金くれるんですか?うれしー…」


何、この子、なんちゅー夢を見てんの??

って、いでででででで!!力強くなってる!!

やばいやばい、骨折れるから!!ちょっ誰か助けてーーーーーー!!!




……

………


「ふあー、良く寝たぁー。あれ、レンレンはまだ寝てるみたい。ふふふ、朝弱いのかな」


…いや、本気で永遠の眠りにつくとこでした…。


何とか生還した俺は、その日もひたすら村を目指して歩き続けた。

相変わらず、山賊とやらは現れず、のんびりと歩いていった。

時々、故郷の事を思い浮かべたりもしたが、その度に鬼と化したじいちゃんの顔が浮かぶので、

慌てて考えないようにした。とりあえず、今は帰ることだけ考えよう。

村に行けば、何か変える手段が分かるはずだ。


やがて、日が暮れて夕やけに空が染まっていった。

普段、気にも留めない夕やけ空に見とれていると、前方かすかに建物が見えてきた。


「スーナ、もしかして前に見えてるのって…」


「うん、あれがイクタ村だよ♪」


こうして、俺はついにイクタ村に足を踏み入れるのであった。






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