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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
6章 ゲンガ
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No.196 夜風

俺達がイクタ村に戻ってから暫くが経ち、気付けば新月の前日になっていた。

俺は今日も茜を組手をしたり魔石を使った練習を行っていた。

やはり勘が鈍ってしまうのが怖かったので、体を動かさずには居られなかった。

村の復興の方はほぼ完了しており、途中から駿も自主トレに参加していた。

どうやら駿は魔力量が常人より非常に多く、魔石の力もかなり強いのだが、その分魔石の力のコントロールを苦手としているらしく、何度か駿が放った暴風が村に直撃しかけた。

幸い怪我人等の被害は出なかったが、それ以来駿はビビって魔石を使用した自主トレはしなくなってしまった。


「あー……疲れたぁ……」


明日元の世界に帰る事もあり、俺は早めに寝ようと部屋のベッドに横たわった。

スーナはまだシャワーを浴びている様だった。


「……寝れない」


ベッドで横になると、どうしてもあれこれ考えてしまい、俺の意思に反して目がギンギンに冴えてしまった。

仕方ないので、夜風に当たろうとスーナの家を出た。

少し歩いたところになる岡の上のベンチに座っていると、何やら人影がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。


「誰だ…?」


よく目を凝らしてみると、ゲンガだった。


「なんだお前か」


「君、人の顔を見るなり『なんだお前か』は酷すぎるでしょう」


若干憮然とした顔をしながら、一人分のスペースを空けて、俺の隣に座った。


「ゲンガはこの村には慣れたか?」


「まぁね。ただ…自分から手伝いを志願しておいてこう言うのもなんだけど、随分とこき使われたよ」


「『ゲンガ一派の責任は僕が背負う』とか言ってた癖に」


「まぁこんなんで罪滅ぼし出来るとは欠片も思っちゃいないけどね。なにせグランルゴの人達の時間を何年も奪ったんだ。勿論、地下に閉じ込められた間に亡くなってしまった人達もいる」


「……」


色々と支援してくれてもらっていたグランルゴの人達からすれば、感謝する人こそ居れど、恨む者はいないだろう。ゲンガだってある意味被害者とも言えなくもない。でもそれはゲンガからしたら逃げの言い訳に感じてしまうんだろう。

ついに最後まで自分が初代リーダーであり、初代ゲンガである事を言い出せなかった様だし。


「まぁこれから僕が何をすべきなのかは、これから考えるさ」


「そっか。この村の人達もお前の事を受け入れてくれてるみたいだし、ゆっくりしてけよ」


「でもあまりこの村に長居する気は無い。今回の一件で、僕は事実上轟狐の裏切り者となったんだ。万が一、それを嗅ぎ付けられてこの村に迷惑をかけてしまうのは、絶対に避けたい」


「そっか…」


そこで一旦、話が途切れ、俺達は無言で夜風に打たれていた。

そしてふと、俺は元の世界でのゲンガについて気になってきた。


「お前…元の世界ではなんて名前なの?」


「名前? ゲンガだよ」


「? それはこっちの世界で名乗ってる名前だろ? そうじゃなくて、俺達の元いた世界での名前」


「いや、ゲンガは僕の苗字だよ。(みなもと)(かわ)源河(げんが)って読むんだ。下の名前は(つばさ)


「なんだ、ゲンガって本名だったのか。じゃあゲンガ一派って源河一派になるの? なんかどっかの組みたいな感じになるな……まぁあれも組みたいなもんか」


「偽名でも使おうかと思ったけど、面倒だったからね」


「まぁこっちの世界の人達は、俺達の世界の苗字なんて知ったこっちゃないだろうしな…」


「そういう君はどうなんだ? レントというのは本名なの?」


「本名だよ。李家蓮人(りのいえれんと)。駿達は…明日自分で聞いてくれ」


「いやなんでだよ。別に教えてくれてもいいだろ」


「このご時世コンプライアンスが厳しいんで。勝手に個人情報を漏らしたらあいつらに訴えられるかもしれないんで」


「え、君達そんな希薄な関係性なの?」


そんなくだらない事を言いながら、俺達はのんびりと語らった。

源河とはちょっとだけ仲良くなれた…様な気がした。

1時間位経ったタイミングで俺達は解散した。俺はスーナの家に、源河は村長さんの家に戻って行った。

家に戻るとスーナは既にベッドで寝息を立てながら熟睡していた。相変わらず酷い寝相だ。

俺はスーナが蹴飛ばした毛布を拾い上げると、スーナの体の上にそっとかけた。

するとスーナがなにやらむにゃむにゃと言っているのが聞こえた。


「あれ…もしかして起こしちゃったか?」


俺はそーっとスーナの口元に耳を寄せた。


「レン君……後ろに…いるよ……」


俺は慌てて後ろを振り向いた。

そこには俺の酷過ぎるびびり顔が窓ガラスに映っていた。


「いるよ……沢山の…猫ちゃん……えへへ……」


スーナの無邪気な寝言に、全身脱力しながらへなへなと自分のベッドに向かい、そのまま眠りについた。

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