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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
6章 ゲンガ
192/300

No.192 終幕

「ゲンガ……終わったのか…?」


「うん、終わった。最後は僕がこの薬を飲ませて殺したよ」


「それは…?」


「これはかつてメーとディックから貰った薬だよ。投与すると苦しむことなく数十分以内に生命活動を停止する。詳細な成分やら死に至るまでの仕組みは良く分からないけど……」


「あいつらから…」


「僕達は君達が思っている以上に長い付き合いでね。今日でこそ同じ轟狐に所属しながら事実上、袂を分かった状態だったけど、始めはよく一緒に居たもんだよ。まぁ死ぬかもしれないという極限状態の中で少しでも安心材料を見つけようとしていただけだったのかもしれないけどね」


「何かあったのか?」


「人っていうものは、環境で幾らでも変貌する生き物だからね。影武者とは言え事実上のトップの座を手に入れたダミル。十分過ぎる研究環境を手にして、いつしか化学兵器ばかりに執着する様になってしまったメーとディック。そんな彼に僕が嫌気がさしてしまって、自ら関係を絶っていた。まさか3人が同じ日に死ぬ事になるとはね」


「………」


俺はそれ以上何も聞けなくなってしまった。


「なんで君がしんみりしているんだよ。もはやどうでも良い事だ。さぁ早く自分達のボスが死んだ事を、アジト全体に知らせなくちゃね。僕は色々と準備があるから、その間にその火傷を彼女に手当て貰いなよ。決して軽い怪我じゃないはずだよ」


そう言って歩いて行ったゲンガの後ろ姿は、どこか寂しさを感じさせた。


ここからは全てがあっと言う間だった。

諸々の準備を終えたゲンガによって、アジト全体に表向きのトップが死んだ事が知れ渡った。

多少の暴動や報復は発生するものだと想定していたが、意外な事にそういった混乱は殆ど起きなかった。

ゲンガに言わせると、この一味は『ゲンガ』が絶対的な存在として君臨していた。この一味は元々殆どのメンバーが下っ端で構成されており、絶対的なトップを失った事により巨大な後ろ盾が無くなってしまった奴らは、最早何の力も残っていなかった。

やがてゲンガ一派の頭領の死を以って、事実上の解散状態となった事を知った「POST」と呼ばれる組織の連中がやって来て、残った轟後の連中の捕縛、そして地下深くに閉じ込められた元グランルゴの人々の救出が行われた。


「なんなんだ、あの『POST』とかいう奴らは」


「あぁ、彼らはこの世界における犯罪行為を撲滅する為の組織さ。まぁ僕達の世界でいう所の警察みたいなものだね」


「警察ねぇ……そんな組織があるんだったら、とっくの昔にゲンガ一派をとっちめてねぇといけねぇんじゃねぇのか?」


「彼らは支部だからね。ゲンガ一派の力に為す術が無かった様だ」


「為す術って……支部があるって事は当然本部もあんだろ? だったらそこに連絡して応援を頼めば良かったんじゃねぇのかよ」


「確かに本部の戦力であれば、ゲンガ一派の壊滅は可能だったと思う。だが、ダミルから『連絡したら支部の連中を皆殺しにする』って脅されていたみたいでね。本部への連絡が出来なかったらしい」


「成程ね……それで八方塞がりで何もする事が出来なかったって訳か。まぁ地下に閉じ込められる連中がいる訳だし、下手に刺激して皆殺しにされないとも限らないしな」


「そういう事だね。ただ、後片付けを全部やってくれたからそこは感謝だね」


「今、ここでお前を元ゲンガ一味のトップだって事を教えたら、ビックリするだろうな」


「…すみません、勘弁してください」


それから俺達は「POST」が即席で設置した医療テントに行って、諸々の治療をしてもらった。

俺と茜はスーナが魔石の力で治癒してくれたおかげで、これといった治療は必要無かったが、駿の方は腕一本切り落とされたという事で、かなり入念な治療が行われていた。

流石にスーナでも腕の再生というのは出来なかったが、スーナが適切な応急手当を行ったおかげで、大事には至らなかった。


それから俺達とゲンガは、「POST」に感謝の言葉を述べられた。この件は本部の方にも連絡がいっているらしく、本部の方からも改めてお礼をしたいとの事だった。

色々な事が終わり、一気に体の力が抜けたせいか、疲れがどっと押し寄せてきた。

近くのホテルに部屋を借りて、俺達は死んだように眠ってしまった。

次の日の朝を迎えた俺達は、移紙を使ってイクタ村に帰る前に地下に閉じ込められていたグランルゴの人達が保護されている建物に立ち寄った。


「あ、おはようございます」


「おぉ……これはこれは……この度は私達を再び地上に戻していただき、誠に感謝申し上げたく存じ上げますぞ!!」


元グランルゴの王様が深々と頭を下げて、感謝の言葉を述べていた。


「あ、いえ……俺達は何も………」


「いやいや…此度のそなたらの行動が無ければ私達はまだ薄暗い地下の中での生活を強いられていたかもしれない……本当に感謝致す!」


「まぁ…なんつーか…出られて良かったですね」


「そう言えばそなたら…細身の青年のことをご存じないか?」


「細身の青年って……ちょっと情報が少なすぎる気が……」


「これは失礼。実は我々が地下深くでの生活を強いられている間、密かに援助をしてくれた青年がおりましてね。我々が今日まで生き永らえたのも彼のおかげなのだよ。是非とも礼が言いたくで探しているのだが……」


成程、そういえばゲンガがそんな様な感じの事を言ってたのを思い出した。

奴ならPOSTの連中から事情聴取を受けている所だが、言った所でゲンガは礼なんて要らないとか言いそうだ。


「その人物でしたら、自分達に心当たりがあるので、今後会った時に伝えておきます」


「お手数をおかけする……宜しくお頼み申します!」


こうして俺達は元グランルゴの人達から改めてお礼の言葉を受け取ると、その場を後にした。


「あの人達これからどうするのかな? また地上で暮らすっつっても、住む家は轟狐達が全部焼き払っちまってるし……」


「しばらくの間、POSTの方で保護してもらうって。その間に国の再建に取り組むみたい。まぁここら辺は私達が心配しても仕方ないしね」


「へぇー…でも一からってのは随分と気の遠くなる話だなぁ」


「でも…私、あの人達ならもう一度立ち直れると思います。とても強い人達だと思うので…」


「だと良いな!」


俺達はゲンガの居る所へ戻って来た。どうやらPOSTからの事情聴取が終わった様だった。


「事情聴取はどうだった?」


「あぁ、僕自身に轟狐としての表立った活動が無かったおかげでどうにか誤魔化せたよ。とりあえずはゲンガ一派に捕らえられた可哀想な青年って事にしといた」


「そうかいそうかい…で、お前これからどうするんだ? もう今から旅に出るのか?」


「そうしたい所だけど、旅立つにも色々と準備がいるからね。今すぐって訳にはいかないかな。それで君達に相談があるのだけど…」


「相談?」


「僕を君達が居た村に連れて行ってくれないか?」


「イクタ村にぃ?? お前もしかしてイクタ村に新しい轟狐の一味を作るとか考えてねぇよな!?」


駿が冗談交じりにゲンガを疑ってかかった。どうにもこの二人は相性が悪そうだ。


「そんな訳ないだろ。話を聞くに君達の村も轟狐の襲撃を受けたらしいが、恐らくそれはゲンガ一派が突発的に行ったものである可能性が非常に高い。であれば村襲撃の責任は僕にもある訳だから、復興の手伝いをしたいと思ってね。そして並行して旅立ちの準備をその村で行って、一区切りついたら村を出立しようと思っている。勿論、素性を全て明かす訳にはいなかいけどね」


「…だってよスーナちゃん、どうするよ?」


「はい、是非ともイクタ村にいらしてください! 復興のお手伝いをして頂けるのであれば、とても有難いです♪」


「すまない、恩に着るよ」


「有難いっつっても、元はといえばこいつが原因だけどなぁー」


「駿、あんまりねちねち言ってるのうざいから止めて」


「わーったよ…」


「じゃあ話は纏まったな。じゃあみんな準備は良いな? 行くぞ」


俺は移紙を使い、イクタ村へ旅立った。

こうして俺達の最初の冒険は、一応の終わりを迎えるのだった。


























この時は誰もがそう思っていた。


























俺達がグランルゴの土地を出立してから、約1週間後



























元グランルゴの連中全員、及びその保護を担当していたPOST支部の連中全員が皆殺しになるという前代未聞事件が発生。

犯人の正体は不明でそのまま、逃走


























俺達がその一報を聞いて、絶句するのはもう少し先の話である。

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