No.191 旅立ち
「蓮人…別に火炎弾を蹴っ飛ばして攻撃しなくても、直接風の力纏った蹴りとか色々あっただろう? わざわざ痛い思いして水まで被って……」
「いやぁ…さっきの火炎弾食らった時、死ぬ程痛かったからさ。あいつにも同じ目に合わせてやろうと……」
「そんな理由かよ……ってか、今度こそ倒した……よな?」
「う…ん…ピクリとも動かないし……あれ、もしかして私達殺しちゃった?」
「そんな事よりスーナは大丈夫か!?」
「そんな事っておい!!」
俺はスーナ達が居る所で直行した。どうやら怪我らしい怪我は負っていない様だった。
「心配しなくても大丈夫だよ。僕達はこの通り無傷だ」
「そうか…というか、お前あんだけずっと水のバリア張ってた割には、思ったより全然元気そうなんだけど」
「あぁ…先程のバリアは殆どフェイクみたいなものだよ」
「…はっ?」
「君の言う通り、水のバリアなんてもの張り続けていたら、僕の魔力量ではあっという間に底を尽いてしまうからね。実際はものっすごく薄い水の膜を張っていただけだよ」
「てめぇもしそれでアイツの攻撃が直撃して、スーナが怪我したらどうするつもりだったんだ、コラ」
「きゅ、急にガラが悪くなったな。もし攻撃が直撃しそうになった時は、水のバリアを張るつもりだったから問題ないよ。……いや本当だって、そんな怖い顔で睨まないでくれよ」
「れ、レン君私は大丈夫だよ! だからその、許してあげて?」
「まぁ…スーナが言うなら仕方ないか…」
「はぁ…さてと……」
ゲンガは一安心すると、そのままダミルが倒れている所へ向かった。
ダミルは意識こそあれど、俺達の攻撃がだいぶ効いたらしく、動けずにいた。
「やぁダミル。すまないね一方的に戦いをふっかけて、ボコボコにしてしまって」
「……今は…ダミルじゃねぇって……言ってんだろうがぁ………それにお前は何もしてねぇだ…ろ……」
「そうだったね。まぁ何かあれば最悪僕が仕留めるつもりだったよ。ただ、僕が魔石を使った反動で動けなくなってしまうのは避けたかったからね。彼らに任せたんだ」
「……あいつら…何者だ………てめぇが雇ったのか………」
「まさか。たまたま彼らがこのアジトに侵入していた所を出くわしたから、協力してもらっただけさ。色々と幸運が重なり、この一味を消滅させるチャンスだと思ってね」
「……食えねぇ野郎だ……あいつら………普通の動きじゃ無かった………な……俺とした事が……この様だ………」
「何言ってるんだよ。君別に影武者でゲンガを名乗っているだけで、別に戦闘のプロとかでも無いだろ? さっきも魔力の事も考えずに、魔石頼りの拙い戦法だよ。彼らだって動きに無駄が沢山あったし、特段強いって訳でも………痛い痛い、シュン君足を蹴るのは止めてくれない?」
「………ははは……要は影武者になって図に乗った俺が………大して強くもねぇ餓鬼どもにのされちまったってだけの話って事か………」
「まぁそういう事だね」
「…はっきり言ってくれるじゃねぇか………それで……俺をどうする……ここで始末するのか……?」
「……そうだね…その後でその事実をアジトに居る全轟狐達に知らせた後、この一味を解散させる」
「……そうか……」
「君を生きたままにしていたら、連中が取り戻そうと行動を起こすだろう。そうしたらまた関係の無い人達を巻き込みかねない」
「……そうだな」
「……君は影武者という立場を忘れて私利私欲の為…自分の力を示すために好き放題指示をする様になった。その結果罪の無い人々を傷つけ、命を奪った……君はその命を以って償うべきだ。取るに足らない命だけどね」
「てめぇはどうなんだぁ……? てめぇだってこの一味を作った発端で……俺を影武者に祀り上げた張本人だぜ……? お前はこのまま何事も無かったみてぇに…のんびり暮らすってかぁ…?」
「僕の意思とは関係無かったとはいえ…君の言う通り、僕も同じ罪人みたいなものだ。だから僕はこれからこの世界で贖罪の旅に出るつもりだ。今まで迷惑をかけてしまった分、一生をかけて償うつもりだ」
「引きこもり野郎が贖罪の旅……ねぇ……」
「僕だって本当は人里離れた所にでも家を建てて、そこで静かに暮らしていたいさ。でもそれは今の僕には許されないだろうからね」
「……てめぇ体の良い事言って………死にたくねぇだけじゃねぇのか…?」
「死をもって償う者…一生をかけて償う者……役割分担は大事だろ?」
「……つくづくムカつく野郎だぜ………」
「…そうだね……」
ゲンガは懐から何か薬の様な物を取り出した。
「…なんだぁ…そりゃあ…」
「…体の生命活動を停止させる為の薬さ……以前メーとディックに作らせたものだよ」
「…あぁ……あいつらか………暫く会ってねぇな………あいつら……元気か…?」
「…あいつらは………死んだよ…」
「…餓鬼どもが殺したのか………?」
「いや……彼らが言うにはレレイに殺された様だ」
「……あのイカレ頭か………」
「君だって大概だろ?」
「うるせぇ…! どうせ俺はもう動けねぇ……殺るならとっとと殺れ………」
「………あっちに行ったら………メーとディックに宜しく頼むよ…」
「あぁ……あいつらと一緒に……お前が死ぬまでお前の悪口言い続けてやらぁ……」
「はは……陰湿極まり無いな」
ゲンガは笑いながらダミルに薬を飲ませた。
「てめぇにゃあ……負ける………けど……なぁ……」
そう言い残すと、ダミルは静かに、そして眠る様に息を引き取った。




