No.189 双拳
「てめぇらにゃあ何の恨みは無ぇが、まずはくたばってもらうぜぇ!!!」
「来たぞ!! ってあいつ何の魔石使ってくんだ!? …そもそも魔石使ってくんのか!??」
すると先手必勝とばかりにダミルは魔石を取り出し、無数の火炎弾を放ってきた。
俺と駿は紙一重で避けた。火炎弾自体にそこまでスピードが無かったのが救いだった。
「ダミルは火の魔石を使ってくる。火傷に注意してくれ」
「要らねぇ!! その情報今更要らねぇ!! 道中でその話出来たよね!?」
「駿、茜、次来るぞ!!」
休む間もなく火炎弾が俺達に襲い掛かって来た。
いくらスピードが遅いとはいえ、こう連発されると流石にしんどいものがある。
「くそ、キリねぇな」
「おいおいおいおいおい、威勢の良い事ほざいておいて、大した事ねぇな!!」
「っ……俺達は一言も言って無いんだけどな」
しかし、こうも立て続けに攻撃が続くと、いつまでこちらが攻撃に転ずる事が出来ない。
スーナはゲンガが放った水のバリアでなんとか無事の様だが、あの魔力量では数分が限度って所だろう。
何か奴の隙は無いものだろうか。
「おい、蓮人!!」
「??」
駿は一瞬のタイミングで俺のそばに来て、耳打ちをした。
「…確かに言われてみれば」
「なんとかつけいる隙は無ぇかな!?」
「…だったらさっき青白い炎の男と戦闘になった時の奴が効くんじゃない?」
「分かった! じゃあ……」
「なぁぁぁぁぁぁぁに、コソコソと企んでやがんだぁ!!? とっとと丸焦げになって死にやがれぇぇ!!!」
ダミルはより一層激しく、火炎弾を打ち放ってきた。
「よし、行け!!」
駿は爆風を発生させ、俺と茜を天井目掛けて吹き飛ばした。
「駿の馬鹿、爆風の勢いが大きすぎる!!」
駿はこれまでの戦いを経て、魔力量と魔石から発生させた時の風の威力が倍増していた。
その反面、その威力のコントロールも不安定になっていた。
俺と茜はなんとか体勢を建て直しながら、ダミルの背後を取った。
「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!?」
ダミルは背後を取られた事に対して、予想以上に動揺していた。
俺と茜は共に腰を深く落とし、魔石の力を拳に込めた。
「はっっ!!!!」
これまたほぼ同時に俺と茜はダミルの背中に、渾身の正拳突きをぶちかました。
「どぅぐぅあ!!!!?」
ダミルは呻き声の様なものを漏らしつつ、そのまま部屋の壁に吹き飛んでいき、叩きつけられた。
拳には確かな手ごたえがあった。
ダミルはずるずると床に落ちて行った。
「うっし…まずは一発入った」
「またうまくはまったね」
駿が気付いたのは、ダミルの放つ火炎弾は正面ばかりで、ダミルの真上と背後には打てないという事だった。
背後を取られるという事を想定してなかったからなのか、そもそも打てないのかは分からない。
「所詮影武者って事か。戦いの経験なら俺達の方が場数を踏んでるかもな」
「そうかもね。…そういえば、あんだけ火炎弾を部屋中まき散らしてたのに、全然燃え広がってないね」
「言われてみれば…他の部屋と造りが違うのか?」
まぁ仮に他の部屋と同様に延焼していたら、すぐに足場が無くなって追い詰められただろうから、結果的には助かったのだが。
「この部屋はダミルが影武者になった後に、ダミルが指示して改装させているからね。耐久性が非常に高くなっているんだよ」
「あー…どうりで壁に叩きつけたのに、壁が壊れない訳か」
「いや、普通は壁に叩きつけたからって、簡単に壁が壊れたりしねぇから! お前ら感覚麻痺してるぞ!」
するとダミルがゆっくりと立ち上がって来た。
見た所、そこまでダメージを負っている様子では無さそうだ。
「…てめぇら……随分と舐めた真似をしてくれんじゃねぇかよぉ……!!!」
「あれぇ…結構良いの入れたと思ったんだけどなぁ…。『所詮影武者』って考えは流石に舐め過ぎだったか…」
「てめぇら如きカスに見せるまでもねぇと思っていたが……良いぜェ、見せてやるよ!!! 俺様の真価って奴をよぉ!!!」
 




