No.185 最短距離
駿の爆風の威力は凄まじく、もはや俺が発生させられる風の数倍もの規模になっていた。
その勢いに乗って、一気に扉の前まで来た。
「茜ぇ!! 扉を頼む!!」
「りょーっかい!」
そう答えると、茜は扉に向かって思い切り蹴りをお見舞いした。
扉は派手な音を立てながら吹っ飛んで行った。
「つっこめぇ!!」
俺達はそのまま出口に突っ込み、地上に出た。
俺達を乗せていた木の板は、役目を終えた様にそのまま下に落ちて行った。
水位の方はだいぶ下の方で止まっていた。
「おい、これ水位全然足りてねぇじゃん!!」
「その様だね。やはり机上の計算だけでは駄目だったか…。あるいはどこからか水漏れが…?」
「お前、よくそんなもんあんな自信満々で使う気になったな! 後で覚えてろ…!」
駿がゲンガに憤っている間に俺は、自分達がおかれている状況を把握した。
「あれ、これ俺達囲まれてね?」
周囲を見渡すと、周りには大勢の轟狐が集まっていた。みんなビックリした表情でこちらを見ていた。
「おい……この部屋なんだ?」
「ここは…一味の食堂部屋だね。いつも一定以上集まっている事が多い」
「いや、お前馬鹿じゃないの!! なんで隠し通路の出口をそんな人目に付くような場所に作ってんだ!! 俺達いきなり囲まれたぞ!!」
「落ち着いてくれ。奴らの様子がおかしい」
ゲンガは俺を宥める様に言った。確かにすぐに襲っては来ず、何なら若干戸惑ったまま動けないでいる様だった。
「恐らく、ここにいる連中には君達がアジトに侵入した事が伝わっていないのかもしれない。これはチャンスだ、このまま部屋の外に…」
「何ぃ!!!? 貴様ら侵入者か!! おい、こいつらをひっ捕らえてぶち殺すぞぉ!!」
「あ、やべ、しまった」
「え、お、お前何自分からバラしてんの?? もしかして俺達の事騙してここに連れて来たんじゃないだろうな!」
「いや、ちが、あの、普通に…あれ、言っちゃった。やばい、これ…あぁ、どうしよう」
「どんだけテンパってんだお前!! さっきまでの余裕はどこ行った! キャラ崩壊してんじゃねぇか!!」
「蓮人!! お喋りしてる暇無いよ!」
「分かった! 駿、魔力残ってるか!?」
「あぁ、大丈夫だ、任せろ!!」
「よし! あそこに部屋の外に出れる扉がある!! あそこまで最短距離で突っ切ろう!!」
流石にここの連中を全員相手にしていたら、あっという間に体力と魔力が尽きてしまう。
影武者との対峙を考えると、戦いを最小限にしてここを出る必要がある。
「ここから出すわけねぇだろう!! やっちまえぇ!!」
「やべぇ、俺武器を部屋に置いてきちまった!」
「お、俺も魔石持って来てねぇ!!」
「バカ野郎共、何してやが…って俺も無いぃィぃ!!」
「チャンスだぞ、奴ら殆ど丸腰の様だ」
「みたいだな!!」
俺は再び混乱し始めた轟狐の連中を爆風で吹き飛ばしつつ、扉までの通路を確保した。
どうやらここにいる連中は殆どが下っ端同然の轟狐らしく、蹴散らすのは容易かった。
「茜、スーナ、あと馬鹿は先に部屋を出てくれ! 俺と駿でフォローする!」
「分かった! スーナちゃん、行くよ!」
「はい!」
茜達は扉に向かって走って行くと、一人のデブ轟狐が行く手を阻んだ。
「へっへっへ、外には出さねぇぞ! 俺ぁ他の軟弱者どもと違って力には自信が」
「じゃ・まっ!!!」
相手が喋り終わる前に茜は、風を纏った強烈な蹴りを轟狐の顔面にぶち込んだ!!
「あぶぁがぁ!!!!」
そのまま、太った轟狐は扉ごと部屋の外に吹っ飛んで行き、壁に叩きつけられた。
凄まじい蹴りを食らったデブ轟狐はピクリとも動かなかった。
そして茜とスーナ、ゲンガは何事も無かったかのように部屋の外へ出て行った。
「お、おっかねぇ……」
俺と駿は茜の攻撃力に心底ビビり倒しながら、部屋の轟狐をけん制しつつ、茜達の後に続いた。




