No.181 水鬼
「うわぁ…まだ生きてんのかよあいつ…」
片足を失ってもなお、あの狂気に満ちた雰囲気を纏っていた。
何がこの男をここまでさせるのだろうか。
「マリアか…相変わらずの戦闘狂だね」
ゲンガが呆れた様に呟いた。
「なんだい君はぁ…!!? たかだか下っ端無勢が許可なく呼び捨てしてくれるなよぉ…!」
「お前ってそういう上下関係気にする様な性格だったの? 意外だねぇ」
「喧嘩売ってるのか…?」
ゲンガは相手を逆なでする様な言葉を連発し、マリアの表情が一層邪悪さを増した。
「ば、ばかお前、何アイツを挑発してんだよ! つーかなんでこいつ、こんなに偉そうなの!?」
「えーと…まぁ話を要約すると…こいつの正体はゲンガだ」
「……いやごめん、何言ってるのか分からない。蓮人なんかあったの?」
「別に頭打ったとかじゃないから。まぁ完全に信用した訳じゃないんだけど」
「信用するも何もなんであんなヒョロヒョロ野郎がゲンガって事になるんだよ! つーか俺達このアジトの外でゲンガの事見てるじゃん!! じゃああいつはゲンガじゃ無けりゃあ誰なんだよ!」
「悪い、そこら辺の説明は後でアイツからするから、今はあの化物の対応に集中する! スーナ、駿と茜の治療頼めるか?」
「うん、大丈夫! 魔力も少し回復したから! シュン君とアカネちゃん、体の力を抜いてくださいね」
スーナが二人の体に手をかざし、治療を開始した。
「なぁにこそこそしてんだい!!? 無駄だそんな事ぉ!! なんたって君達は僕がここで嬲り殺してやるんだからさぁ!!」
マリアは発狂しながら鉄球の様な物をぶんぶん振り回し始めた。
鉄球が高速で回り始めると、周囲に強烈な風が発生し始めた。
「げっ…あいつの体力底なしかよ! あんなの避けられない…いや、避けた所でみんなが巻き添えくっちまう…!!」
「マリアの奴、以前にも増して強くなってるね。よくもまぁこんな奴相手に君達は生き永らえたもんだ」
「そんな悠長な事言ってる場合じゃ……でも褒めてくれてありがとう!」
「ごちゃごちゃと五月蠅いなぁ!! まずは僕に舐めた口を効いた下っ端からご退場願おうかなぁ!!!」
マリアは凄まじい爆風と共に剛速球の鉄球をゲンガ目掛けてぶち込んで来た。
「ゲンガ!!」
俺は反応する事すらままならず、一言ゲンガの名前を呼ぶのが精いっぱいだった。
しかし、次の瞬間俺は信じられない光景を目の当たりにする事になる。
ゲンガは軽く手を前に翳すと、泡の様な物を出現させた。
そして飛んできた鉄球がその泡にぶつかった瞬間、鉄球の勢いを完全に殺してしまい、そのまま鉄球を泡の中に包み込んでしまった。
「成程…随分と重い攻撃だね」
そう言いつつもゲンガ自身は居たって涼しい顔をしていた。
「き、貴様ぁ……なにを……一体何をしたぁ!!」
「何をって…見て分からないのかい? 君の攻撃を防いだんだよ」
「防いだ…!? そんな泡如きで僕の全力攻撃が防がれた……!!?」
流石のマリアも全力全身の攻撃をこうも簡単に無力化されてしまった事について、かなりの衝撃を受けている様だった。しかしそれは俺達も同様だった。特に駿は口をあんぐりしたまま固まってしまっている。
「じゃあ…もういいかな?」
そう言った瞬間、ゲンガは手刀を振り下ろす様な仕草をすると、突然巨大な刃の様な物が出現して凄まじい勢いでマリアの体をすり抜けていった。
「な…なんだ今の…」
そう駿が言いかけた瞬間、マリアの上半身が徐々にズレていき、やがてドシャッという音を立てて地面に落ちてしまった。
なんとゲンガの一振りでマリアの体はいとも簡単に真っ二つにしてしまった。
「あいつ…自分の仲間を殺しやがったぞ……しかもあんなに強い野郎を……」
一仕事終えたゲンガは何事も無かったかの様にスタスタと歩いて行った。
「その二人の治療が終わったら、計画に移ろうか」
 




