No.176 消耗
駿の最後の力を振り絞った爆風のおかげで、俺達はなんとか闘技場を抜け出し、薄暗い通路に避難した。
その瞬間、闘技場は物凄いをたてながら、跡形も無く崩れ去って行った。
「あ…危なかった…間一髪間に合った…」
俺は一旦の危機を脱した安心感からか、その場にへたり込んでしまった。
「へへ…どうだ蓮人……たまにゃあ俺も役に立つだろ…?」
駿はボロボロになりながらも、俺に向かってむかつく笑顔をして見せた。
応急手当ながらスーナが魔力で治療してくれたおかげで、命に別状は無さそうだった。
「そんなに減らず口が叩けるなら問題なさそうだ。さっさとここを抜けよう」
「……俺、腕片方無くなってんだけど…」
「蓮人の言う通り、ここでもたもたしてても仕方ないし、先に進もう」
「あ、茜までそういう事言うか!」
「だって早く前に進まないとまた、変なのに捕まるかもしれないじゃん」
「そ…それはそうだけどさぁ…」
「まぁ…でも」
茜は駿の顔から目を反らし、照れ臭そうにしながら呟いた。
「さっきのは…その…本当に助かった……ありがとう…」
「…お、あ、あぁ…」
普段の茜らしかなぬ反応に、駿はどもってしまった。すると茜は顔を背けたまま、駿に肩を差し出した。
「…茜?」
「ほら…肩貸してあげるから、さっさと立って」
「あ…ありがとう…」
駿も照れ臭そうにしながら、茜に言われるがままに自由が利かない体を茜に預けた。
「蓮人、俺はこの通りいつでも大丈夫だ! 出発しよう!」
「分かった。スーナは体大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ!」
「よし、じゃあ行くか」
こうしてみんな満身創痍ながら、先に進むべく再び歩き出した。
勿論、この通路にも何か罠や仕掛けがあるかもしれない可能性を考慮し、警戒を怠らない様に注意しながらであった。
「ねぇ蓮人…この先にゲンガ一派のボスがいるのかな?」
「…うーん正直どうだろうな。この土地に到着した時はゲンガの奴が建物の前で良く分からんパフォーマンスしてたし、このアジトにいる可能性は高いと思うけど…」
「私達…本当にこんな状態でゲンガ一派を鎮圧出来るのかな…」
普段飄々としている茜が弱音を吐くのも無理は無かった。
俺達の予想を遥かに超えたゲンガ一派の戦力数、そしてゲンガの直属の部下と思われる強敵の数々…。
特に闘技場では銀髪の男とマリアには殺されかけた。
そしてそんな猛者たちをまとめ上げるのが、リーダーのゲンガという事実。
ゲンガに辿り着く前にこんなにボロボロの状態で、本当に奴を抑える事が出来るんだろうか…。
もしかしなくても、俺達の考えは甘かったと言わざるを得なかった。
暫くの沈黙が続いた時、ふとスーナが立ち上がった。
「だ、大丈夫だよ! 私、3人が強い事知ってるし…だからこそここまでなんとか来れたんだし! …えっとその…弱気になっちゃったらダメ…だと思う! 私、3人の事信じてます!」
思いがけないスーナからの激励に俺と茜、駿は顔を見合わせてしまった。
「プレッシャー半端ないな、スーナちゃん」
駿は苦笑いした顔でスーナを見上げた。
「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃ……」
「冗談だよ! そうだよな、どの道ここまで来たら前向いて進むしかねぇんだし」
そう言って駿はゆっくりと立ち上がった。
「そうだよね、ごめんスーナちゃん、私ちょっと弱気になってた。でももうこれで終わり!」
駿が立ち上がるのに合わせ、支えながら茜も一緒に立ち上がった。
俺は立ち上がった3人の顔を見上げた。
先程までの暗い表情はどこへやら、今は根拠のない活力がみなぎっていた。
「…ありがとうなスーナ…」
俺は立ち上がると、そっとスーナの頭に手を乗せて、軽くゆっくりと撫でた。
「…やっぱり、レン君は前向きな方が良いな♪」
「…俺元々そんな前向きな性格でも無いんだけどな…」
すっかり活力を取り戻した俺達は再び歩みを再開しようとした時、向こうから何やら人影の様な物が見えた。
「誰か来る……!!」
辺りに一気に緊張感が走ったが、やがて見知った顔である事を察した。
「尋常じゃない音が聞こえたので来てみれば…やっぱり君達か」
「お前はあの時の…」
現れたのは、先程別れたばかりの轟狐のはぐれ者だった。




