No.171 憤怒
「あぁ………ああああああああああああああああああああぁあぁ!!!!!!!」
苦悶の表情を浮かべながら、駿は崩れる様にその場に倒れてしまった。
「駿んんん!!!!!」
俺は急いで駆け寄ると、斬られた腕の断面からおびただしい量の出血をしていた。
「シュンさん!!」
スーナが駆け寄ると魔石を取り出し、駿の左腕の傷口にイメージを集中し出した。
「スーナ、駿は…駿は大丈夫か!?」
「分からない…でも止血さえ出来ればなんとか命は取り留めると思う!」
「…分かった!! 頼む……!!」
「うん、絶対にシュン君を助ける!!」
正直、目を覚ましたばかりのスーナは十分に体力が戻り切っておらず、魔力も消耗している状態だったが、今この状況で駿を助けられるのはスーナ以外にはいない。ここはスーナに任せるしかなかった。
「わ…悪ぃ…みんな………」
駿は死にそうな声で謝罪の言葉を口にしていた。
「大丈夫だ、お前は黙って治療されてろ!」
「…分かった…」
そう言って、駿は目を瞑って肩で息をしながら痛みと戦っていた。
「蓮人、駿は……駿は大丈夫なの!?」
「あぁ…今はスーナが魔石の力で治療してくれてる!」
「そっか…!」
「お話は済んだかい? 何やら小賢しい事してんじゃないの」
男はいつの間に俺達の背後にやって来ていた。
「どうせ君達、俺が全員殺しちゃうんだから、無駄なあがきしてないで大人しぃぃ!!!?」
俺と茜の同時ストレートが男の顔面にクリーンヒットし、再び男はぶっ飛ばされた。
「るせぇよ…こっちは立て込んでんだよ、殺すぞてめぇ…」
「ふふふふ…随分と荒々しい口調じゃないか…彼の腕を切り落としたのがそんなに気に障ったかい?」
「…アンタみたいな友達一人いなさそうな変態には一生分かんないでしょうよ」
俺も駿が傷付けられて相当キてたが、茜も茜で見た事も無いような鬼の形相で男を睨み付けていた。
「友達…それについては否定しないよ。なんせこの僕の性癖について行ける人なんか誰もいないからねぇ! あぁ…唯一レレイとは気が合いそうだったけどね。彼には普通に嫌われる。でも…」
「…?」
「友達なんか僕には必要ないんだよ!! 僕を楽しませてくれる可愛い可愛い玩具さえあれば、それで十分なのさぁ!!」
再び男は猛スピードで俺の目の前に瞬間移動し、攻撃を繰り出して来た。
俺は再び咄嗟に反応して、攻撃をはじき返した。
「…!」
大体わかって来た、こいつの攻撃パターン。
①最初に俺を吹き飛ばした時の、至近距離からの強力な打撃。
②中距離からの斬撃。魔力は微塵も感じないし、恐らく奴はリーチの長い刃物の様な武器を持ってるな。さっき駿の腕を切り落としたのもそれか。魔石を一切使ってこない辺りは何かポリシーみたいなもんか。
俺は小声で茜に耳打ちした。
「…それ本当に大丈夫? 私死ぬんじゃない?」
「大丈夫だって、俺が必ずフォローするから。いつもみたいに」
「いつもみたいに…って、あれゲームの話でしょ」
「じゃあ行くぞ!」
まずは茜は一斉にダッシュして男に向かって行った。
「あれぇ、お嬢ちゃん自棄になっちゃったか!? なら遠慮なく…」
男が攻撃態勢に入る瞬間、俺は魔石から放った風で茜の体を浮き上がらせた。
男の攻撃は見事に外れて、茜はそのまま男の背後を取った。
「ありゃ!?」
茜は先程の銀髪の男との戦いを彷彿させる、渾身のジェットパンチを背中にぶち込んだ。
「ごはぁ!!?」
そのまま男は闘技場の客席に吹き飛んで行った。
「まずまず入ったかな」
茜は手の甲をぽきぽきと鳴らせながら、佇んでいた。
まずはでっかい一発をあの糞ったれにお見舞いしてやった。




