表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
3章 スーナの異世界生活
17/300

No.17 アイスクリームと五月の風

「何をそんなに驚いてんのさ?それより隣にいる美少女さんはどなた?」


やばい、いきなりクラスメートに見つかった…。

いや、冷静に考えれば、遭遇する確率は十分にあった。俺が迂闊過ぎただけだ。

しかし、なんで茜がこんな所にいんだ?


「えっと、レン君、美少女って誰の事…」


「いや、話の腰を折るな!今、この状況を打破しようと必死なんだから!ちなみにスーナの事だと思う!」


「んー何こそこそ喋ってんの~?質問に答えてよ~」


「えーと、この子はスーナって名前の子で…、ほ、ホームステイでうちに来てんだよ!」


よし、これならなんとか誤魔化せるし、決して嘘ではない。


「レン君、ほーむすていって何?」


「スーナ、頼む、一瞬黙っててくれ。後でアイス買ってやるから」


「ほほー、蓮人の家にホームステイね~。で、そのホームステイの子を外に連れ出して街の案内でもしてるって訳?」


「まぁ…そんな感じだな」


「ふーん…」


茜がなぜかジト目でこちらを見ている。え、なんか怪しまれてる?


「まぁいいや、じゃあそこの美少女ちゃんの案内、頑張って~」


「あのな、あんまりからかうんじゃ…」


と、俺が言いかけたタイミングで、何故か茜から軽く蹴りを食らった。


「っつ!?え、なんで?なんで今蹴ったの?俺、何かした?」


「ちょっとムカついただけだよ。じゃあまた来週な~」


「ムカついたって何?ってか、ムカついたからっていきなり蹴んなよ!」


俺が言い終わる頃には、茜はとっとと行ってしまっていた。


「なんだったんだ、あいつ…」


「レン君レン君!」


「あ、あぁスーナ。さっきは悪かったな。どうした?」


「あの、あいすってなぁに?私の推測だと、それはとても美味しい食べ物な気がするのですが…!」


「…スーナはぶれないな…」


約束通り、アイスクリーム屋に行って、俺はスーナにアイスを買ってあげる事にした。


「どれでも好きな味を選んでいいよ」


「レン君、これって何が書いてあるの…?」


「あぁこれはバニラ…って言っても、スーナには分からないか…。よし、俺が選んでやるよ」


俺はチョコとバニラのミックスを一つ頼んだ。

この店は俺が生まれる前からやっていて、いつもコーンいっぱいにアイスを盛ってくれるのが好きだった。


「あいよ、蓮ちゃん!一個でいいのか?」


「いや、今日は一個でいいよ。ありがとう!」


「しっかし、あのちっさかった蓮ちゃんがまさか、こんな可愛い女の子を連れてデートとはなぁ」


「で、デート!?」


「そりゃあそうだろ、どっからどう見ても仲睦まじーくデートしてるようにしか見えないぜ!」


「いや、その、この子はうちにホームステイに来てる子で…デートとかじゃ…」


「はははは、分かった分かった!からかって悪かったよ!じゃあ楽しんで来なよ!」


ったくこんな人の多い所で、あんな大声で…。


「あ、悪い、忘れてた。はい、これ」


「ナニコレ?なんだかひんやりしてる…。それに不思議な形…」


「とりあえず、騙されたと思って一口食べてみ?」


スーナは恐る恐るアイスクリームの先端を口に含めた。その途端、スーナの目が輝きだした。


「美味しい!すごく冷たくて口の中がヒヤッとして、後、甘い味が口の中でじゅわーってして!」


「そっかそっか、まぁ要するに美味しかったって事だな」


「うん、そういう事!」


スーナは美味しそうにアイスを頬張っている。気に入ったみたいで良かった。

そういえば、イクタ村の人達はみんな甘党なんだっけか?じゃあ口に合って当然か。


「はい、レン君も一口どうぞ♪」


スーナが突然、食べかけのアイスクリームを差し出してきた。


「え、いや俺はいいよ。スーナが全部食べな」


「ダメだよ、こんなに美味しいものを独り占めなんてできないよ!レン君も食べて!」


…こんなに気押されながら、アイスクリームを食べさせられるのは初めてだ…。

しかもこれって、要するに間接キッ…。

いやいや、あんま考えすぎんな、スーナだってそんな事意識してないに決まってる。

ごく自然に俺にアイスクリームを食べて欲しいだけなんだ。

ここはスーナの好意に甘えるのが正しいんじゃないか!?


「じゃ、じゃあ一口…」


俺はスーナが食べかけた箇所をなるべく避けつつ…と思ったが、スーナ、結構満遍なく口付けてたので、

結局、普通にスーナの食べかけた所を頂いた。スーナがずっとこちらを見ているので、非常に食べ辛い。


「どう!?美味しいでしょ!?」


「いや、俺はアイスクリームが美味しいのは知ってるよ。よくここで食べてたし…」


「そっか、レン君こんなに美味しいものをよく食べてたのか…ずるい!」


「ずるいって何だよ」


「えへへ、冗談だよ~。でも美味しかった!ありがとう!」


「喜んでくれたんなら良かった。じゃあ行くか」


その後、俺たちは商店街でのショッピングを楽しんだ。

スーナは特に電化製品に興味を示し、中々電気屋から離れようとしなかった。

おかげで店員に商品をお勧めされかけた。


ひとしきり楽しんだ俺らは、昨日の夜来た公園に寄って、ベンチに座った。

昨日の夜とは打って変わって、子供の元気な声が飛び交っている。


「ふぅー、今日は楽しかったなぁ」


「おーい、まだ今午前中だぞー。何もう一日が終わった感じになってるんだ」


「えへへ、それだけ密度の高い時間だったから」


「まぁ楽しかったんなら、良かったよ。案内した甲斐があったってもんだ」


「アイス…また食べたいなー…」


「スーナはあそこのアイスが気に入ったみたいだな」


「だってあんなに冷たくて、甘い食べ物食べた事なかったんだもん」


「確かにあそこのアイスは絶品だよな。あそこより美味しい店は知らない」


「だよねー。毎日通いたい位!」


「毎日かよ!アイスってのはたまに食べてこそのアイスなの」


「そういうものなの…?」


「そういうものです」


五月の心地いい風が吹く。


「なんか…レン君の住む町って良いな」


「ん?何が?」


「色んな珍しいものがあって、人がいっぱいいて、美味しい物もたくさんあって…」


「何言ってんだ、イクタ村だって十分素敵な所だろ?」


「うん、勿論わかってる。村長さんや村の人もみんな良い人…でも…」


「でも…?」


「ううん、やっぱりなんでもない!レン君、帰ろう!」


「…そうだな!」


その先、スーナは一体何を言おうとしたのは分からない。

でも俺は喉元まで出かかった『何か悩み事でもあるのか』という陳腐なセリフを飲み込んだ。

スーナにも何らかの事情があるのは分かっているけど、それを無理やり聞く事は俺にはできなかった。

五月の風は暖かくて、そして優しく俺たちを包み込んでいった。

風で揺れるスーナのペンダントの射光が、宝石の様に輝いて見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ