No.169 水の抑止力
「俺の炎が…全て消しとんだ…だぁ!?」
水の花びらで付けられた無数の切り傷から血を流し、銀髪の男は天を仰いでいた。
「アンタに渡した魔石に、予め弱点を仕込んでおいた」
「…弱点…それがてめぇらが使った水の魔石の力って訳かい…」
「そうだ…俺が持つこの魔石で作られた水を触れると、その炎が消滅する様になっている」
「へぇ…理屈は分かったけどよぉ…なんでそんなふざけた事をしやがった…?」
銀髪の男は上体を起こすと、メーとディックを冷たい眼差しで睨み付けた。
「来たる日の為の抑止力さ。きっと魔石の闇に魅せられたアンタは破壊衝動が抑えきれなくなる。そうなった時、完璧な魔石なんか渡してたら誰にも暴走を止められなくなるからな」
「…そりゃあアレだな、俺がまるで魔石に自我を飲み込まれちまうみたいな言い方に聞こえんだがよぉ
…?」
「実際そうだ。俺達はずっと強力な魔石作成の研究をしてきたが、強力な力を宿す魔石であればある程、魔石の力に持ち主が飲み込まれてしまう副作用が強く発生しちまう。事実、アンタはこの魔石の力を強く引き出そうとする時、我を忘れた様な攻撃をする様になってるだろう?」
「あははは、ありゃあ自我が飲み込まれてる時の感覚だったっつーことかよ!! 俺ぁてっきりある種の興奮状態にいるだけだと思ってたぜぇ!」
「…自我を失いつつある事すら自覚できてない様だな。もはや魔石の暴走も遠くない未来か…」
「もし俺がぁ…魔石の暴走に飲み込まれたらどうするんだぁ…??」
「そんな心配をする必要はない…何故なら…」
メーはまたイメージに集中して、先程よりも数倍はあろうかという巨大な水玉を産み出した。
巨大な水玉はやがて、巨大な剣に変貌を遂げた。
「そうなる前に、今ここでアンタを始末するからだ! この組織の為にもアンタの為にもなぁ!!」
そして、巨大水剣が銀髪の男目掛けて突っ切って行った。
一方その頃、俺達は再び建物の奥へと進んで行っていった。
「あいつら…きっと大丈夫だよな!?」
駿は心配そうな顔をしながら俺の顔を覗き込んで来た。
「…そこは信じてやるしかないよ、あいつらの事を」
「…そうだよな、別に自決する為に残った訳じゃないもんな!!」
「あぁ」
「みんな、先に何か見えてきたよ!」
「ホントだ、でけぇ扉だ!! どうする蓮人、突き破るか!?」
「いやいや待て、中で轟狐達が待ち伏せしてる可能性もあるから様子を見て…」
「三人とも、そこどいて!!」
そう言って茜は扉の前に向かって走って行き、魔石から発した風に乗せ、扉に強烈な蹴りをお見舞いした。
扉は為す術無くぶっ壊れ、部屋の中の奥の方までぶっ飛んで行った。
「よし、行こう」
「いや、『よし行こう』じゃないよお前! いきなり敵地の部屋の扉吹っ飛ばすとか…」
「何躊躇してんのさ。どうせ後ろにはあの炎の奴がいるんだし、前へ進むしかないでしょ?」
「そうだけどもうちょっと…なんかこう慎重に……まぁ良いか」
「いや、良いのかよ!!」
「うん…もうやっちまったもんは仕方ない。中へ進もう」
こうして俺達は派手にぶっ壊した扉の残骸を横目に、部屋の中に入って行った。
中は想像以上に広く、周りには沢山の客席の様な物が見えた。
「なんか…ここ野球場のドームみたいな所だな…」
駿の言う通り、何かの見世物でも披露するかの様な作りになっていた。
「ここ…この建物の地下深くにあった闘技場に造りが似てない…?」
「あ…確かに…というか全く同じか…??」
「その通---り!!! 君たちかい? 我らゲンガ一派のアジトに丸腰で侵入したっていうお馬鹿さん達は」
「…!! 誰かいる!!?」
俺達は声のする方を見上げると、丁度客席の所に腰掛ける謎の男が座っていた。
「よーーーこそ、我が闘技場『デスマリア』へ! 僕はゲンガ様直属の部下である『マリア』!! 以後、お見知りおきを……嗚呼、お見知りおきをぉぉぉぉぉぉ!!!!」
……なんだこいつ?




