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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
6章 ゲンガ
158/300

No.158 窟

※次の更新は3月10日(水)の夜頃となります。

「いやー…ホントにでっけぇ穴だなぁ…。どうやったらこんな風になんだよ!」


「確かに…周りに罅一つ入ってないな…」


近くで見るとより分かるが、本当に綺麗な円で壁がくり貫かれている。とてもじゃないが人間業ではない。恐らく魔石の力を使ったものだろうが、一体どんな能力なのだろうか。


「なんかここら辺、水浸しなんだけど…水漏れ…?」


駿は至る所にある水たまりを触りながら言った。よく見ると天井からもポタポタを水滴が滴っていた。ここで水遊びでもしていたのだろうか。


「確かに上も水浸しだけど…なんでここだけ? 水道管が破損したとか?」


「いやいや、それ滅茶苦茶やばいじゃんか! 早くしねぇとここ沈むんじゃうぜ!」


「こんな所に水道管があるとは思えないけどな…まぁもたもたはしてられないし、急ごう」


俺も水浸しの事は自分も気になったが、今は進むしかなさそうだ。

暫く進んでいくと、徐々に穴が拡がって行き、やがて大きな空間が目の前に現れた。

先程の闘技場よりもひんやりとした空気で覆われており、肌寒さすら感じた。


「もーなんなんだよここはよぉー。ぐねぐねぐねぐね不思議空間が広がってて訳分かんねぇよ」


駿が半べそをかいていると、なにやら前方に人影が見えた。


「ん? 誰かいるのか!?」


人影に向かって叫んでみたが、返事は無かった。聞こえていないのか、そもそも見間違いなのか…?


「蓮人、誰か居たのか?」


「いや、なんか人影っぽいのが見えたから、てっきり誰か居んのかと思ったんだけど…」


「なんだよ、手っ取り早くこう…」


そう言うと、駿は魔石を取り出すと、なんと人影が見えた方を目掛けて、思いっきり暴風をぶっ放した。

思っていた程この空間は広く無かった様で、駿が考え無しに放った風が、壁にぶつかって跳ね返り、こちらに向かって来た。


「ちょっちょ…!」


俺は咄嗟に風を放ち、なんとかかき消した。


「あ、あぶねぇー…」


「いや、こっちの台詞だわ!! 何も考えないで風ぶっ放しやがって!!」


「だ、だってこうした方が手っ取り早いと思って…」


「メーとディックに直撃したら、あいつら即死だから! もうマジで頼むよ!」


俺が駿にマジ説教をしていると、先程の人影とは違い、確かな足跡が聞こえて来た。


「はぁ…随分と乱暴するじゃないか…。僕が何をしたっていうのやら…」


やれやれと言った感じで、例の青年轟狐が歩いて来た。見た所これといった外傷は無さそうだった。


「こんな所に居たのか…。っていう事はあの大穴も、この空間もお前が…?」


「…まぁね。ついでに言うと、さっき君達が戦ってた死刑場も僕が作ったものだよ」


「いや、あれ死刑場だったのかよ! なんちゅーもん作ってんだお前は!」


「結果的にだよ。僕はただただ空間を作って提供しただけだし、勝手に死刑場に使われただけの話だ。最も今は殆ど使用されていないみたいだけどね」


どうやらここを含めた地下空洞は、この男が作り出したものらしい。という事は地下にあった神社を含めた巨大空洞もこの男が作ったのだろうが? いよいよもってどんな能力…というか魔石の持ち主なのだろうか。


「おい、お前! メーとディックはどこに行ったんだよ!?」


男は少し首を捻りながら虚空を見つめていた。


「メーとディック…? あぁ、あの二人か。彼らならそこで眠っているよ」


男が目をやった方向を見ると、壁際に横たわっているメーとディックの姿を確認した。

駿は急いで二人の元に駆け寄った。


「良かった、生きてる…!」


駿は安堵の表情を見せた。逆にそんな駿の様子を見た男は呆れた様に溜息をついた。


「君ねぇ…あんだけ『死なせない』なんて大層な事を口にしておいて、彼らの扱いが雑過ぎるでしょう。本当に生かす気あるの?」


俺は男の至極真っ当な発言に同意する他無かった。いや、俺も人の事は言えなかったが…。


「ううん…あれ…ここは?」


俺に背負われていたスーナがようやく目を覚ました。


「スーナ大丈夫か? どこか具合悪い所は無い?」


「うん、ちょっと疲れて気を失っちゃったけど、大丈夫だよ! レン君も元気そうで良かった」


目を覚ましたスーナは一先ず大丈夫だったので、一安心した。


「そちらさんも目を覚ました様だね」


男はスーナが目を覚ました事を確認すると、岩の出っ張りで出来た天然の椅子に座り込んだ。

いや、正確にはこの男が作り出した即席のものか。


「さて…まさかとは思うけど…」


そう言うと、男はとあるものを取り出した。それはこちらの世界には無いはずの「本」。

そうだ考えてみれば、この男に会った時に読書している時点で気付くべき点だった。

しかも表紙には日本語らしきものが書かれている。


「やっと気付いたんだ。初対面の時点で気付かれたかと思ったんだけど…」


男はまた呆れた様な顔で呟いた。どうやら「そうだったのか!?」的な表情が顔に出ていた様だった。


「僕は君達と同じだよ。ここじゃない所…つまり君達の居た世界の住人さ」


男はこちらを見透かすかの様な冷たい目でこちらを見ながら、そう言った。

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