No.150 激情
ガルダがぶっ飛んで行ったと思われる壁には、それはそれは見事な穴が空いていた。
「これ…駿がやったのか…?」
俺は駿の方を見た。
「これ…俺がやったのか…?」
言ってる事が俺とほぼ一緒だった。どうやら無我夢中で放った一撃だったらしいが、その威力は俺の魔力による攻撃を遥かに上回る威力だった。なんにしてもガルダを退けられたのは大きい。
「駿、茜、今の内に逃げるぞ!」
すると茜はやれやれと言った風に負傷しているディックに肩を貸した。
「おい女…てめぇ何のつもりだ…」
「勘違いしないで…私だってあんた等を助けるなんて不本意中の不本意。でも助けるって言って聞かない奴がいるからさ。とりあえずは黙って助けられててくれない?」
「茜…」
「私のこれは本心じゃないからね。駿の我が儘に付き合ってやるだけなんだから、何かあったらちゃんと責任取る事、いい?」
「分かった、ありがとう! じゃあ行こう!!」
そういうと駿と茜はこちらに向かって走り出した。俺は二人の甘さに若干呆れつつも、変な所でお人好しな駿らしいなとも思った。
「こっちだ、急げ!! スーナ、ちゃんと掴まってろよ!」
「うん、ごめんね!!」
腰を抜かして動けなくなってしまった、なんという事でしょう状態のスーナを抱きかかえて、俺達も走り出した。
「あだだだだだ!! ちょっと待て、てめぇら! さっきから何度も言ってるが、足だけ持って走るんじゃねぇ!!」
振り向くとディックとメーの足だけ持ってこっちに向かってくる駿と茜、そして足だけ掴まれてズタボロになっているディックとメーの姿があった。
「おい女、さっき普通に肩を貸してくれてただろうが!! なんで気付いたら足だけ掴んで引き摺ってやがんだ!!」
「思ったより重かったし、なんかちょっと臭かったから」
「ふざけんじゃねぇぞ、だったら早く足離しやがれ!!」
「ここであんた達置き去りにしたらあんたら処分されちゃうでしょ? それは駿が認めないからね~」
「いや、こんな引き摺られ方されたら、どの道死んじまうわ!」
ディックとメーの悲痛な叫びも虚しく、暫く二人は無自覚の悪魔達によって引き摺られ続けていった。
やがて倉庫らしき部屋に辿り着き、一旦みんなでそこに身を潜める事にした。
「はぁ…はぁ…上手く撒いたか?」
無我夢中で走っていた為、ここが建物のどこなのかはよく分からない。
「なんだこいつら、気絶してんな。さっきの怪我がまた悪化しちまったのか…?」
「100%お前らがビックリする位雑に引き摺って来たせいだろうが。助けたいのか息の根を止めたいのかどっちだよ」
それから少し落ち着くと、俺は改めて駿に問いかけた。
「さっきあのデカブツを吹き飛ばした暴風だけど…あれ、狙ってやったのか…?」
「いやいや、んな訳ないだろ! ただ…自分の感情に身を任せて、無我夢中で魔石を使ってたって感じだった。気付いたらあのおっさんが目の前から消えてたっつーか…」
まぁ狙ってやったのなら、あんな唖然とした顔にはならないか。
駿の話と状況だけで推測すると、魔石を使う時、感情が高ぶったりすると威力が増すのだろうが。
ふと見ると、茜が何かをじっと見つめていた。
「茜、何見てんだ?」
「いや…」
そう呟くと、すっと指を差した。
「あれ、誰?」
俺達は茜の指差す先を見ると、物陰に隠れて読書をしている青年が居た。
青年はこちらをギョッとした顔をしてこちらを見ていた。
「君達こそ…誰?」
※次の更新は2月19日(金)の夜頃となります。




