No.148 逃走
「え、え、逃げるって!? 」
俺の言葉を理解し切れなかった様で、駿は素っ頓狂な声を上げた。
「言葉の通りだって!! こっから逃げるぞ!!」
「なんでだよ、なんか勝てそうな雰囲気じゃん、なんで急いで逃げる必要が…!」
「いやいや、絵的にはそう見えたかもしんないけど、全然効いてないの! もう途中から心折れそうだったから!!」
「えぇぇぇ、急になんか弱気!!」
すると俺の猛攻(笑)を受けたはずのガルダは、更に心が折れそうになる位に余裕な表情で立ち上がった。
「っつ…随分と浅せぇ攻撃をバカみてぇに繰り出しやがっ…」
間髪入れずに俺はガルダに負け惜しみの一撃を顔面に食らわせ、吹き飛ばした。
「ホラ、全然効いてないの分かったろ!? 今の内に逃げるぞ!!」
「に、逃げるったってどうやって部屋から出んだよ! 周り炎で囲まれてんのに…!」
俺は駿に言われるまでも無く、拳にありったけの風を込めて壁に叩きつけた。
壁は思った程分厚くは無かったらしく、直径2メートルの見事な穴が出来上がった。
「よし、上手く穴が空いた!」
「いや、出来んなら最初からやれよぉぉぉ!!!」
「だってアイツ位なら倒せると思ったんだよ!! 思ったより頑丈だった! 案外強かった!」
「あ…当たり前だ…! 貴様いくら何でもガルダ様を舐め過ぎだ…!!」
いつの間にか目を覚ましていたディックは呆れ顔でこちらを見ていた。
更にガルダもゆっくりと体を起こし始めた。
「時間が無い! スーナ、駿、茜!! 早くこっちに!」
俺はスーナを抱え、何故か駿はディック、茜はメーをそれぞれ抱えて穴に向かって走り出した。
なんとか部屋を脱出した俺達は、訳も分からず廊下を走って行った。
「えっと…そいつらも連れてくのか?」
俺はイマイチ駿がこの二人を助ける意味が良く分からなった。
「ここに置いてったらこいつ等、炎で焼け死ぬし…そうでなくてもこいつ等は裏切りもんだ、あの化物に殺されちまうじゃんか!」
「…おいどういうつもりだてめぇ…無駄な情けを俺達にかけんじゃねぇ…置いて行きやがれ…!」
「おい、お前ら暴れんなよ!!」
「だから言ったでしょ駿、別にこいつまで助ける事無いって! それに言っとくけど、こいつら轟狐なんだよ?」
「…そこの女の言う通りだ…俺達は轟狐…てめぇらの助けなんざ恩に着るつもりはねぇし…必要とあらばてめぇらだって殺す事も厭わねぇぞ…!!」
「うっせぇ、黙って抱えられてろよ馬鹿共!!!」
今まで一度も聞いた事も無いような駿の怒号が廊下中に響いた。
「あ…あの駿、敵地であまり大声出すと…」
俺は何故か恐る恐る駿の顔色を伺いながら言った。まぁ思い切り壁をぶち壊した俺が言えた台詞でもないけど…。
「お前らが轟狐だって事は百も承知だよ!! だからって『死んではい終わり』なんて逃げ言、俺は認めねぇぞ! 今までしてきた悪行の分だけ償うんだよ! 勿論お前らだけじゃねぇ! 轟狐の連中全員だ!」
駿から発せられた思いも寄らない言葉に、その場の全員が唖然としてしまった。
※次の更新は2月14日(日)の夜頃となります。




