No.144 メーとディック
「え、待ってこれ、めっちゃ警報なってますけど」
「ねぇ、なんか足音が聞こえて来るんだけど…。ここに向かってきてない?」
「まずい、どうしよう!! と、とりあえず部屋の中に隠れよう!」
俺達は急いで爆発のあった部屋の中に入った。
中は物凄い煙と焦げ臭い匂いが充満していた。
ここでは化学薬品でも扱っていたのだろうか、フラスコや顕微鏡の様な物が沢山置いてあった。
最も、爆発の影響で殆ど使い物にならなくなっていたが…。
「うぅ…煙がすげぇ…」
「駿、極力煙を吸わない様に!」
「分かってるよ…。しっかし、ここは何をする部屋なんだ全く…」
そもそも、この世界の化学水準がどの程度か分からないが、何かを研究する部屋だったのだろうか?
だとしたら、一体何の為の研究だ…?
「てめぇらか、こんなひでぇ事しやがって…」
声の主は、先程会話をしていた内の一人だった。
案の定、爆発に巻き込まれてしまったらしく、大怪我を負っている。
「いや、爆発はそっちがなんか落としたせいだろ?」
「落としたって事を知っているって事は、俺達の会話を盗聴してたって事か? どのみち、敵って事だろうが…!」
男は懐から、何やら薬品の様な物を取り出した。
「俺も…もうもたない…だが、せめててめぇを巻き沿いしてやる…」
そう言って、取り出した薬品を投げようとした瞬間、あの駿が素早く反応し、男を羽交い絞めにした。
俺は予想外の展開に若干動揺しながらも、すぐに察して男が持っていた薬品を奪うと、部屋の外目掛けて放った。
そして魔石から放った風で、出来るだけ薬品を遠くに吹き飛ばした。
すると、遠くの方から爆発音と共に、人の悲鳴が聞こえてきた。
「ぐあああぁぁぁ!! なんか急に爆発しやがったぞ!!」
「くそおぉぉぉ!! 早く負傷者の手当てを!! 賊どもめ、許さねぇぞ!!」
「いや、俺達も賊側なんだけどね。ってか、これメーとディックが開発してた薬品じゃね?」
「なんだと、あいつら裏切ったって事か!? 許さねぇ、賊共々ひっ捕らえろ!!」
なんだか、余計に騒々しい事態になってしまった様だった。
しかも意図せず、この男も何故か狙われる身にしてしまった。
「なんかアンタも狙われの身になっちゃったね。ドンマイ」
茜は心の欠片もこもっていない言葉を、男に投げかけた。
「ねぇ、ここから奴らを巻く逃げ道とか無いの?」
茜は男に続けた。
「バカが…誰が侵入者にそんな事を教えるか…」
まぁそりゃ当然だろうという返事が返ってきた。
すると茜は「うーん、困ったなぁー」と言う様な顔をしてみせた。
「えー、じゃあアンタも一緒に、仲間達に殺されちゃうかもよー? だって、今完全にアンタ裏切り者扱いされてるし、きっと死ぬより苦しい拷問を受けるかもよー?」
「き、貴様…」
「ホラホラ、まだアンタも死にたくは無いでしょー? だったら、ここは一つ協力しようよー。それだけで生き延びれるんだから、安いもんでしょー?」
茜から発せられる言葉は、文章だけで見ると何て事ないものだったかもしれないが、その時の茜の表情が何とも言えず、サイコパス染みていた為、軽く恐怖を覚えた。
勿論、演技だとは思うが、今後茜をあまり怒らせない様にしようと固く心の中で誓った。
「…この部屋の奥に、別室に通じる隠し通路…というか脱出通路がある…」
そう言って、部屋の奥にある不気味な銅像を指差した。
どうやら銅像をどかすと、脱出口が現れるらしい。
「サンキュー! じゃあ行こうみんな!」
「おい、ちょっと待っててくれ」
「? 何やってんの駿、追手が来ちゃうでしょ?」
茜の言葉に振り向きもせず、駿は男を担いだ。
「貴様、何を…?」
「お前、俺達に道教えたは良いけど、そのケガでどうやって逃げるつもりだったんだよ…。お前は確かに敵だけど、別に殺すつもりは無いし、ここで死なれてもちょっと夢見が悪ぃしな。仕方ねぇから連れてってやるよ!」
「…この俺に情けを?」
「良いから、黙って担がれてろ!」
「分かった…。だったら…」
そう言って、男は、部屋で倒れているもう一人の仲間の方を指差した。
「あいつも連れて行ってくれ。あんなんでも、轟狐の中で数少ない友人だ…」
「…分かった。じゃあ蓮人、そいつを頼む?」
「え、俺? …分かったよ」
俺は渋々倒れている方の男を担ぐと、部屋の奥へ進んだ。
「あんたら、本当にそいつらも連れてく気? 一応敵だよ?」
「バカ野郎、目の前で倒れてる奴をほっとけねぇだろーが!」
「はぁ…この期に及んで呆れるわ…。まぁ駿らしいんだけどね」
茜は呆れながらも、苦笑いをしながら銅像をどかしていた。
「スーナはこいつらを連れて行くの、嫌か?」
「ううん、シュンさん達が決めた事なら大丈夫だよ♪」
スーナはそう言って笑って見せた。
多分、心の中では複雑な思うだろうが、一切顔には出さなかった。
「あ、ホントに隠し通路があった。嘘じゃなかったんだ」
「いいから、先へ進め。仲間が直に追ってくる…。後、中に入ったら、必ず銅像を元の位置に戻せ…」
「戸締り確認をする母ちゃんかっつーの…。よし、じゃあ行くぞ」
こうして俺達は隠し通路へと進んで行った。
勿論、戸締りも怠らずに。




