No.143 えぇ…?
「えーっと…君達…誰?」
俺達の目の前に現れたのは、長身で色白、眼鏡をかけた、如何にも大人しそうな男だった。
こいつは轟狐なのか…?
にしては、覇気が無いし、俺達を見ても仲間にすぐに知らせる様子が無かった。
「………」
若干冷静さをかいていたせいか、何を言えばいいのか分からず、沈黙してしまった。
但し、余計な情報を喋ってしまうのを回避したと考えれば、結果オーライだろうか。
「うーん…やっぱり見ない顔だねぇ…。新入りぃ…? 全く、メンバーが入ったんなら僕に教えろってんだよなぁ…。ただでさえ、轟狐はでかくなっちゃってるんだから」
なんだか覇気の無い喋り方をしているが、案外位は上の方の人間なのか…?
それに、今ハッキリと轟狐って言った。やっぱりここはカジノの建物で間違いなさそうだ.
「じゃあ君達も仕事頑張ってねぇー。あ、そうそう、俺がここに居た事みんなに言っちゃ駄目だよ。俺のまた連れ戻しに来て、面倒だからー」
そう言って、男は再び闇の中に消えて行った。
一先ず、危機は回避できたので、俺達は安堵した。
「あ、危ねぇ…。流石にダメかと思ったわ…」
「いざという時は戦ってたけど…余計な騒ぎを起こさずに済んだし、とりあえず、行ってくれて良かった」
「なんかまた、随分と覇気の無い奴だったけど…あんなのも居るんだね」
「まぁガラさんみたいなのも居るんだしな」
「なんだ、ガラって…?」
「俺とスーナがワガマタで会った、元轟狐の人だよ。すっごい暗い部屋に居てさ」
「ふーん、轟狐にも色々な奴が居るんだろうなぁ…」
「でも…」
「茜?」
「さっきの男だけど、なーんかどっかで見た事ある様な…」
「どっかで? 俺達がここに来てから、今までにすれ違った奴らの中に居たって事か?」
「うーん…どうかな。まぁ私の気のせいかもしれないし、気にしないで」
「なんだようー、んな事言われると気になるじゃんかぁー」
「気にすんなっつってんでしょ。ホラ蓮人、とっととここを出て、先に進もう」
「そうだな、いつまでもここに居ても仕方ないし…」
俺達は周囲を警戒しつつ、部屋を出た。
部屋の外もなんだか薄暗く、視界があまり良くなかった。
「ここに住んでる奴は、暗いのが好きなのかよ? ここの建物、カジノのフロア以外、基本暗いぜ?」
元来、暗いのがあまり好きではない駿は、文句を垂れていた。
勿論、文句を言った所で、明るくなったりはしないし、逆に自分は落ち着く位である。
「お、先の方に扉があるぞ。そこ以外には扉らしきモンは無さそうだな…」
「あの扉開けんのか…。なんか如何にも罠でも仕掛けてありそうな扉じゃんか」
確かに罠である可能性は十分考えられる。
この前も不用意に部屋に足を踏み入れたばかりに、地下深くまで転げ落ちてしまっているし、慎重にいかなくては…。
扉のすぐそばまで来たが、一見すると怪しそうな気配はしなかった。
「どうする、蓮人、入るか?」
「いや、前の失敗がある。ここは…」
俺は魔石を手に取ると、地を這うイメージで風を発生させ、床と扉の間にある僅かな隙間に侵入させた。
「何やってんだそれ…」
「いや、前見たく落とし穴が仕掛けられてるかもしれないし、部屋の床に対して風を送りこんで、罠が反応するか調べる」
「いくらなんでも、そんなのに反応するか…?」
すると部屋の中から何やら話し声が聞こえてきた。
「いやー、しっかしこうもビジネスが上手くいくと、逆に退屈になってくんなぁ」
中に轟狐の連中が居たのか。
全く物音が聞こえてこなかったから分からなかった。すぐに部屋に入らなくて良かった。
「あれ、お前知らねぇの? 先日、ここに侵入者があったらしいぜ」
「マジかよおい、ここに侵入するたぁどんな神経の太ぇ野郎だよ」
「しかも、目撃情報によると4人で来たらしいぜ?」
「4人!? 堂々としてやがんなぁ!」
やっぱりと言うかなんというか、俺達がカジノに侵入した事は、殆どの轟狐達に知れ渡ってるみたいだ。
「んで、どうしたよその4人は?」
「それがまだ捕まってないらしい」
「え、逃がしたってのか!?」
「いや、今は建物の周囲を見張らせてるらしいが、外に逃げたという情報は無いみたいだ」
「じゃあまだ中に居るっつー事かぁ?」
「そうみたいだ」
成程…まぁ想定してなかったワケではないけど、だいぶ警戒態勢が敷かれてるみたいだ。
逆に言うと、建物の外の警戒に人員を割いてる分、中の方は若干手薄になってる可能性が高い。
「やっぱり、俺達がここに侵入した事、大事になってんな…」
「そんな事、今更でしょ?」
「まぁ…」
茜に言われ、駿は何も言えなくなってしまった。
「うぉ!!?」
突然部屋の中から、男の叫び声が聞こえた。
もしかして、俺達が部屋の前に居る事がバレたか?
「なんか足元から風みてぇのが!! え、なにコレ…あっ!」
「おい、バカそれ落とすな!!」
そして、何かが床に落ちて割れる音がしたと思ったら、次の瞬間部屋の中で爆発が起こった。
「おおい、みんな部屋から離れろ!!」
俺達は猛ダッシュで部屋から離れると、なんとか難を逃れた。
「え…何々、なんで爆発した? 何が起こった?」
すると中からボロボロになった男が出てきた。
「お…お前らか…床に怪しげな空気を送ってやがったのは…ひでぇ事しやがる…!」
いや、お前がなんか落としたせいで爆発したのでは?と思ったが、今はそれを言う雰囲気ではなかった。
すると、男は手元の怪しげなボタンを押した。
「今…建物中に緊急招集通知を発信した…。今からここに仲間達が集結してくる…せいぜい…後悔しやがれ…」
如何にも小物が言いそうな捨て台詞を掃き、男は倒れた。
まもなく、建物中に物騒なアラート音の様なものが響き渡り始めた。
何やら大勢の足音が迫ってくるのが分かった。
「…えぇ…?」




