No.14 こんな日には、夜の散歩をしよう
眠りについた…ハズだったが、目が覚めてしまった。
時計を見ると21時00分を指していたになったばかりだ。
まだ15分しか経っていない。
「はぁ…外でも歩くか」
部屋を出て、玄関に向かう途中、今からスーナ、ばあちゃん、夏美の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
一時はどうなることかと思ったけど、とりあえず大丈夫そうだな。
俺は少し安心すると、そのまま玄関で靴に履き替え、外に出た。
ひんやりとした夜風が気持ちいい。
6月を前に、だいぶ日中は暑く感じるようになってきたが、朝晩はまだまだ冷え込む。
そういえば、今まであんまり意識してなかったけど、あちらの世界は季節的にどの辺りなのだろう?
気温的にはこっちと同じ位に感じたけど、なんせスーナの口から季節に関する話題が、乾期とか雨季のみだ。
もしかしたら、気温の変動が少ない土地なだけかもしれないけど。
「あれー、蓮斗?どしたのこんなとこで」
声の主はクラスメートの駿だった。
「いきなり、背後から声かけんなよ。びっくりするだろ」
「いや、別にそんなにびっくりする事なくない?」
「まぁそれもそうか。お前はこんなところで何してんだよ?」
「俺は夜のランニングさね。今はもう帰る途中だけど」
「お前、ランニングとかやってたんだ」
「夏に向けた体作りだな!蓮斗こそどしたの?神社で寝んのか?」
「よーし、まず先にお前を寝かせてやろうか。永遠に」
「怖いこと言うなよ~、冗談だってさ。じゃあまた明日学校で会おうぜ~!」
「いや、明日土曜日だから」
「ありゃ、流石にバレましたか」
「お前、いよいようぜーな!いいからとっとと帰れ!」
「怒らない怒らない!じゃあまた来週~!」
全く…こんな真っ暗の中、神社なんか行くわけねーだろ。
はぁ…なんだか分からんけど、疲れた…。帰ろう。
家のドアを開けると、丁度玄関で外出の準備をしていたじいちゃんに出くわした。
「わぁビックリした!…なんだじいちゃんか。ゾンビかと思った」
「おーおー、お前、顔見るなり色々と待てや」
「なんだ、こんな時間にどっか行くのかよ?」
「健三に呼ばれてな。今から一杯引っかけに行ってくる」
「健じいと?この間飲んだばっかじゃん」
「バカヤロー、3日も前の話してんじゃねーよ」
「3日前を昔話みたいに言うのやめてくんない?ったく、飲みすぎんなよ」
「分かってらぁ。そういやおめぇがどっか行くもんだから、スーナちゃん不安がってたぜ」
「スーナが?…全く、そんなに不安がる事ないのに…」
「だからおめぇは鈍感だっつってんだ」
「…何がだよ?」
「いくらうちの連中が親切だからっていっても、あの嬢ちゃんにとってここは、初めてくる場所、初めて会う人たちだらけな訳よ。唯一、お前だけが嬢ちゃんにとって安心できる存在なんだよ。それがお前、何も言わずに外ほっつき歩きやがって」
「わ…悪かったよ…」
「分かりゃあいい。全くそういう所も含めて、おめぇは亮介に似てんだな。そこは反面教師で頼むぜ」
「反面教師の生みの親に言われたかないんだけどな。じゃあ健じいに宜しく」
「おう。おめえもスーナちゃんをよろしく頼むぞ」
じいちゃんは鼻歌交じりに家を出ていった。全く、いくつになっても口の減らないじーさんだ。
どうやら俺は人の気持ちを察する能力が低いらしいな。こんだけみんなに言われりゃそうなんだろう。
「あ、レン君!」
スーナは俺の顔を見るや、パタパタと駆け寄ってきた。
「レン君どこ行ってたの?」
「ちょっと涼みに外歩いてただけだよ。その…悪かったな、黙って外出てて…」
「ホントだよー、私も誘ってくれれば良かったのに~」
スーナは冗談半分にふくれて見せた。やっぱりじいちゃんの言う通り、不安だったのだろうか。
「よし、じゃあ今から夜の散歩でもすっか?」
「え、だってレン君、今帰ってきたばかりじゃないの?」
「まぁ気にすんな。おーい、ばあちゃん!今からスーナと涼みに行ってくっから!」
「今から!?あんまり遠く行かないようにね!」
「うーい。行ってきまーす」
「全く、じいさんといい蓮人といい…」
ばあちゃんの小言で送り出された俺とスーナは、家の近くの公園に向かって歩いて行った。
「なんか…あれから全然喋れてなかったけど…今日は色々大変だったな、お互い」
「えへへ、そうだね、まさかレン君のおうちに来ることになるなんて思いもしなかったよ」
「今までと逆の立場になっちまったな。まぁばあちゃんも言ってたけど、自分の家だと思ってしばらくゆっくりして大丈夫だから」
「うん、ありがとう…その…」
「ん…?」
「レン君の家族…みんな温かくて優しくて…羨ましいな…って」
「そう…か…。…なんか家族の事を褒められると照れるな…」
「きっとあの家族に囲まれて育ったから、レン君も温かくて優しいだなぁって思ったよ」
「ちょっ、やめろ、ホントに照れるから!」
思わず俺はスーナから顔を背けてしまった。
「あはは、照れてるレン君可愛い♪」
「可愛いってなんだよ…」
「ちっちゃい頃から変わんないなーって」
「…?なんでスーナが俺のちっちゃい頃を知ってんだ?」
「レン君のおばあちゃんと夏美ちゃんに見せてもらったよ」
「全く、人のアルバムなんか見せんなっつーのに…」
「レン君のお父さんも映ってたね!とっても優しそうな人だったよ」
「そうだなー、父さんは優しい人だったよ。俺の自慢だったし、今でもそうだよ」
「お父さんの事、大好きだったんだね♪」
「大好きって程でもないけど…まぁ違わなくはないのかな」
「ふふふ、また照れてる~」
「照れてません~。ほら、ここが公園だ」
俺たちは公園の中に入っていった。
敷地の中には誰もおらず、俺たちしか居ない。
「なんか見たことない物が沢山置いてあるね!」
「そっか、イクタ村には公園とか無かったもんな」
目には入るもの全てが新鮮なのだろう、あちこち歩き回ってキョロキョロと公園の遊具を観察してる。
「レン君、これなぁに?」
「それは鉄棒って言うの」
「テツ…ボウ?」
「鉄棒って言うのは…って説明するより、実際に見せた方が良いか」
俺は鉄棒の前に立ち、軽く手足の運動をして、鉄棒に手を乗せた。
「これが逆上がりっと!」
まずは逆上がりをして見せた。呆気に取られているスーナの顔が妙に面白かった。
「そしてこれが空中逆上がりっ!」
若干勢いが足りなかったが、なんとか空中逆上がりも決めて見せた。
「久々にやったけど、なんとかできた。まぁ今みたいな事をするのが鉄棒」
すると、スーナは興奮した様子で俺に盛大な拍手を贈った。
「すごい、レン君!とってもかっこ良かったよ♪」
「あ、ありがとう。まさかこんなにに褒められるとは…」
「だって私にはとてもじゃないけど、できないもん」
「そうかな?スーナだって練習すれば出来るようになるよ」
「ホントに?じゃあ私明日からここで練習する!」
「出来るようになるまでここに通い詰める気かよ!」
「だって出来るようになってレン君に見せたいんだもん」
そこで俺の名前を出されると困る…。
「とりあえず、あんまり長い間外にいると体が冷えるからそろそろ帰ろうぜ」
「えーと、うん」
スーナは名残惜しそうに公園の遊具を見ている。
遊び足りなくて、中々帰ろうとしない子供の様だ。
「また明日も来ような」
「うん!」
スーナの顔はパァっと華やいだ。どんだけ分かりやすいのだろう。
急に風が強くなってきた。
「今日はもうお帰り」とでも言うかのように風に撫でられた俺たちは、公園を出て、家路に着いた。