No.138 あまりに巨大
「移紙…使えないのここ?」
想定外の事態に頭が真っ白になってしまった。
移紙が使えないのでは、期間内にイクタ村に戻る事が出来ない。
いや、そもそもここを脱出する術すらない。
「駿…お前、確かじいちゃんの元で、イクタ村で復興の手伝いしてたよな? なら大丈夫だな。ここでも十分やっていけるよ」
「待て待て待て! 何諦めてここで永住する気になってんだ! もうちょっと頑張ろうぜ!」
「そ、そうだよレン君! 他に何か方法が無いか考えよう」
「そうだよねー、こんなすごい建物が地下にあるんだから、他にも何かありそうなもんだよね」
3人に宥められながら、俺は気力を取り戻し、周囲を隈なく調査した。
しかし、探せども探せども何も見つからず、唯々神社と呼ぶにはゴツゴツしい建物がそびえ建つだけだった。
「しかし参ったな…。何も手掛かりがねぇし、何も思い浮かばねぇ…。こりゃ詰んだかな」
さっきまで必死にここを脱出しようとしていた駿も、すっかり気力を失って諦めモードになっていた。
「いや、お前さっきまでの勢いはどこいったんだよ。俺よりもすごい勢いで諦めてんじゃん」
先程よりかは幾分気力を取り戻した俺は、手掛かりを求めて調査を進めていた。
「これじゃー世界救う所の話じゃねーじゃんか…」
「ちょっと駿、そんなメソメソしてる暇あったら、あんたも手伝いな」
「だってさぁ…」
ダメだ、駿は気持ち的に完全に戦闘不要になっていた。
「私、こんな所で一生を終える気はないんだからね。もうすぐ『ワグリアストーリー3』の発売日なんだから、絶対にここを出てプレイしてやんだから!」
「いや、ゲームの為かよ」
「文句あるー? 2から2年も待ったんだからね。プレイせずに死ねるかって話でしょ? ね、蓮人?」
「そっかぁ、そういやもうすぐ発売日だったなぁ。予約もしてたし…。俺も楽しみにしてたよ…」
すると沸々とゲンガに対する憎しみの感情が沸き上がってきた。
そして俺は何を思ったのか、スタスタと壁の方に向かって歩いて行った。
「…? レン君?」
スーナの声も耳に入らず、壁の前で立ち止まった。
「こんんの…ゲンガ共の…!!」
右手の拳に、全身の魔力と周囲に漂う僅かな魔力を込めた。
「クソぼけぇぇぇぇぇェェェェェ!!!!」
俺は全てのエネルギーを壁にぶつけ、ぶちかました。
俗に言う八つ当たりである。
「れ、蓮人!? お前何やってんの!?」
すると、みるみる壁に罅が入り出し、鈍くて重い音を立てながら崩れ出した。
「バカタレぇぇぇぇぇぇ!! みんな逃げるぞぉ!!」
駿が一目散に逃げようとすると、茜が何かに気付いた。
「待って、壁が崩れた所から何か見えるよ」
「えっ?」
「あ、ホントだ何か鉄みたいなものが…!」
確かによく見ると、剥がれ落ちた壁の奥から、何やら得体のしれない像の様なものが姿を現した。
「なーんだこれ…。なんの為にこんなもんが壁ン中に…?」
「元王様、これが何か分かる?」
「いや…私も初めて見るな…。しかし、見た所、この建物と材質が同じ様に見えるな…」
「確かに同じだ…。もしかして、これって建物の一部なのか…?」
そうこうしている内にも、どんどんと壁が崩れてきて、鋼鉄が剥き出しになってきた。
このままだと、俺ら全員下敷きになってしまう。
「と、とりあえず、一旦外に出よう! スーナ、早くこっちに!」
「いや、お前やりたい放題か!!」
「ほら、駿もグズグズしてないでさっさとここを出るよ!」
比較的外壁が崩れるスピードが早くは無かったので、何とか無事に脱出する事が出来た。
しかし、崩れ落ちた外壁で、地下への道が塞がってしまった。
「いやいや、間一髪だったな…」
駿はグッタリした様子でその場に座り込んだ。
「さっき見えた鋼鉄の壁…アレ何だったんだろうね…」
「元王様達も無事か…?」
「いやいやー、無事かじゃないわ!! 危うくお前に殺される所だったわ!!」
「わ、悪い悪い…。…ん?」
なんと地下で発生した外壁の罅が、なんと地上にまで続いていた。
しかもよく見ると、地上の地面からも鋼鉄が姿を見せていた。
「……」
俺は地下の巨大な建物、そしてそれと同じ材質と思われる謎の像や壁、真上に広がる巨大な穴を眺めていた。
「レン君…?」
「確かに…ずっと気にはなっていたんだよな…。なんであの建物だけ材質が違うとか、こんなにぽっかりと空いた空間が崩れずに存在しているのかとか、歩く時に感じるコンクリートみたいな固さ…」
「さっきから何言って…」
俺は疑問を確信に変えるべく、地面目がけて爆風を飛ばした。
「ちょちょちょ、蓮人!? 今度は何を…!!」
「…やっぱり!」
「え…レン君、これって…」
元国王も目の前に姿を現した事実にただただ驚くばかりだった。
「これは…」
俺が巻き起こした爆風によって、辺り一面の土が吹き飛ばされて、その下から出てきたのは、地下で見た鋼鉄そのものだった。
「え、何これ、どういう事? 地下で見たのと一緒じゃん!」
「ここら辺だけじゃない、多分この空間全てが鋼鉄で覆われてる」
「蓮人、もしかしてここって…」
「うん…。多分この空間そのものが巨大な神社だよ」




