No.137 鋼鐵
「なんかあれだな…俺達が思ってた神社とはだいぶかけ離れてるな」
俺達の目の前に現れたのは、全身鋼鉄に覆われた無機質な建物だった。
もっとも、入口も見当たらず、建物と呼んで良い代物かどうも分からなかったが…。
「これが我々が日夜破壊せんと挑み続けているものだ」
近くで見てみると、傷一つ付いておらず、光沢に満ちた表面は、俺達の顔を写していた。
「あらら、これは確かにちょっとやそっとじゃ壊せやしないよね。まぁ結果的に助かったんだけどさ」
「お嬢さん、『結果的に助かった』とは一体どういう意味だい?」
老人は疑問に満ちた顔で聞いてきた。
「…そこの話もそろそろしなきゃだな」
俺達は、この建物がなんなのか、世界中にある神社を破壊しようとしている事、何故破壊しようとしているのか、破壊の先にどんな運命が待ち受けているのかを簡単に説明した。
「ぬぅ…俄には信じ難い…。ではこれの破壊が達成されれば、世界の滅亡に近付くと?」
「信じられないかも知れないけど、それが現実だ。実際、神社の破壊は行われていて、その影響が徐々に出てきている」
老人はしばらく黙りこくった。
「確かに…以前ここに来た連中が、『最近見知らぬ物やらが突然、村や町に出現した』と言っておったが…もしや、今君達が言った事と関係しているのかもしれんな…」
「まさか、知らず知らずの内に、世界の滅亡に、私達が加担していただなんて…」
俺を介抱してくれた女性は、深刻そうな顔をして俯いてしまった。
「しかし、そんな重大な事を、ゲンガ達は何故私達に命令したのだろうか? この建物の破壊が奴等の目的であれば、自分達で破壊すれば済む話。わざわざ我々をここに幽閉する手間までかけて…」
「まだなんか裏がありそうだな」
「うん、もっと調べてみなきゃだね」
「しかし…」
老人は再び俯きながら、呟き始めた。
「それは、ここから出れない事には無理な話…。そして、我々含めてここから出る手段は皆無…」
「そこだな…」
確かにここから脱出する手立てがまだない。
先程、魔石でだいぶ上まで上がったと思ったが、全く先が見えなかった。
地上から見て、相当地下深くに位置するらしい。
「ましてや4人ともなると、魔石で上に上がるのは現実的じゃないなー」
「え、詰んだ? もしかしてこの状況…」
「もしかしなくても詰んでるね、今の所」
「おいー! え、早くも終わり!? まだゲンガの元にも辿り着けてないのに…。つーか、そもそもイクタ村にも戻れねーじゃん!」
駿は情けない声を上げながら、あたふたしだした。
「いや、これがあるからイクタ村には戻れる」
そう言って俺は移紙を取り出した。
「それは…?」
「ここに来る途中、説明したろ? この移紙でイクタ村に戻れるって」
「あ、そうだっけ? 忘れてたわ」
すると、例の女性が移紙を見つめながら呟いた。
「すみません、皆さん…ここでは移紙は使えないんです…」
「…え?」
女性の一言に、俺達は言葉を失った。
…マジかよ。




