No.135 嵐の如く
「それは…私達の要求を断ると判断して宜しいかな?」
周りの男達は槍のような武器を構えていた。
どうやら銃の類いは持っていない様だ。
「このまま、ここであんたらみたいにダラダラ暮らしていても、どの道世界が滅ぶだけだ。可能性のある方を選ぶよ」
「世界が滅ぶ? 何をワケを分からない事を…。それと君には、私達がここで何もせずダラダラ暮らしている様に見えましたか?」
「だったら何?」
「私達がどういう思いで今までここで生きてきたのか、何をさせられていたのかを知りもせずに、私達のこの状況を否定される筋合いは無いんだよ!」
この人達が、今までどんな目に遭ってきたのかは知らないけど…。
「俺達は俺達の目的を達成するだけだ」
そして小声で茜達に指示を伝えた。
「何をこそこそ喋っているのかね?」
「それは…」
俺達は頷き合った。
「この場を収める為の10秒間の打合せだよ」
その瞬間、俺は目の前の机を思いきり蹴り上げた。
「何!?」
一瞬、老人達の視界を塞ぐと背後に居た連中6人を、茜と俺でまず相手をした。
俺が机を蹴りあげた事で、動揺で体が硬直して動けずにいる隙に、じいちゃん直伝の武術で叩きのめした。
その隙に駿はスーナを連れて、家の外へ出た。
「貴様ら!」
鬼の形相でこちらの方を睨んでいた老人をよそに、老人の横についていた男共を魔石の力で吹き飛ばし、壁に叩き付けた。
しかし、部屋にいるので全員かと思いきや、外にも大勢居たらしく、次々と中に入ってきた。
「蓮斗、これはちょっとヤバくない?」
さすがの茜もにも焦りが見えた。
「仕方ない! 茜! 俺の足元でしゃがんでろ!」
「え? あ、うん!」
茜は俺の足元で身を屈め、俺は魔力の消耗を覚悟で、周囲360度に向けて、爆風を放った。
「ぐわぁぁ!!」
老人や武器を持った男達は、家の外壁もろとも吹き飛ばされた。
気が付くと、壁やら屋根やら全て吹き飛ばされ、外から丸見えの状態になってた。
「ヤッベ…ちょっと加減ミスったか? 茜は無事…」
俺は茜の方に目をやると、何と上着が全て吹き飛ばされ、下着姿の茜がこちらを睨んでいた。
「あ…あの…茜さん…?」
「ミスったっていうのは、私の脱げ具合の事…?」
「いや、別に茜の裸にはあまり興味な…」
天井が晴れ、気持ちいい位にビンタの音が鳴り響いた。
「全くこんなにしちゃって…。っていうか、外に逃げた二人は無事なんでしょうね? まさか、巻き込まれてたりしない?」
「いや、爆風を使う直前に窓から、遠くに逃げてる二人を確認してるから、そこは大丈夫だ」
と言い終わると同時に、若干の立ち眩みが生じた。
加減はしたつもりだったが、だいぶ体内の魔力を消費した様だ。
「とりあえず、外に逃げた二人を探そう」
俺達は二人が逃げたと思われる方へ向かった。
家の周りを囲っていた連中は「あ、こいつらやべーぞ」とでも思ったらしく、完全に俺達にビビっていた。
威嚇という意味も込めて、さっきの爆風は、案外妥当な攻撃だったのかもしれないと、密かに自画自賛した。
少し歩くと、駿とスーナがこちらに気付き、歩いてきた。
どうやら無事だった様だ。
「蓮斗ぉー!」
「おーい、二人共、無事だったみたいだな!」
「いや、『無事だったみたいだな』じゃねーわ!! 危うく俺の攻撃に巻き込まれる所だったわ!」
「え、だって遠くに逃げてたから『あ、使っても良いかな』って…」
「お前が吹き飛ばした家の瓦礫が、スゲー勢いでこっちに飛んできたわ!」
「ご、ゴメンな…」
「レン君と茜ちゃんは無事だった?」
「うん、俺達は何ともないから大丈夫」
「いや、あんた人の服吹き飛ばしておいて、大丈夫は無いでしょ!」
「そ、それもゴメン…」
「蓮斗、頼むからもう少し周りを見てくれよ…」
俺は二人からフルボッコに怒られてしまった。
一切の反論は出来なかった。
「うぅ…」
瓦礫の下からさっきの老人の呻き声が聞こえた。
どうやら無事な様だった。
俺は、老人に覆い被さっていた瓦礫を取っ払った。
「はは…ゲンガ達に喧嘩を売ろうっていうような連中だから、腕は立つのだろうと思っていたが、まさかここまでとは…。町の屈強な男達が全く歯が立たんとはな」
「別に喧嘩を売りに行くワケじゃ…。平和な結末だってあるかもしれないじゃん」
「はっはっは、面白い事を言う! ゲンガ達と平和的解決? それが出来たら我々はとっくにこんな場所から出ているよ。それが出来なかったから、私は王の座を奪われ、ここで鬱々としているのだよ」
老人はひとしきり笑うと、やがて溜め息をついた。
「……」
え、王様!?




