No.128 とある部屋
しばらく進んでいけども、相変わらず薄暗い光景が続くばかりで、一向に部屋も階段も現れない。
「なんか、なーんもねぇな。って言うか、この道、どこに続いてたんだ?」
「行き止まりって可能性もあるよね」
「えー、こんだけ歩いたのに?」
「いや、大して歩いて無いだろ。行き止まりだったら、引返しゃあ良い話だろ」
「でも、後ろから敵が来てたら?」
「そん時はまた戦うしかないだろ」
「マジかよ…袋のネズミなんて状態にならなきゃいいけど…」
ブツブツ言いながら歩いて行くと、スーナが何かに気付いた。
「みんな見てください、あそこに階段みたいなのがあります!」
「階段?」
俺達は近くまで行くと、確かにそこには地下に続く階段と、上に続く階段があった。
「どうする? どっち行く?」
「どっちって言われてもな…」
「こういうのって、RPGゲームだと、ボスが居るのって、地下の奥深くが定石だよね?」
「確かに…早期決着を優先するなら、地下の階段を進むのが良いか…」
「いや、お前らゲームに例えて話進めるのいい加減やめてろや! ここはゲームの世界じゃねーんだよ!」
「だけど、地下の場合、囲まれたら逃げ場が無いな」
「いや、上だって無いだろ! 飛び降りろってか?」
「魔石から出す風の力でどうにかする」
「…そうすか」
「じゃあ上に上がろうか」
そう言って、俺達が上に上がろうとした瞬間、上から店員の格好をした、轟狐らしき男2人が階段から降りてきた。
「ん? なんだお前ら」
「あっ」
そう言い終わる前に、俺と駿で有無を言わさず、相手を叩き潰した。
「なんだ、駿もちゃんと魔石使いこなせてんじゃん」
「イクタ村出発するまでの間、散々村長さんから指導されたからね! いや、それよりもいきなり出てきたんだけど! これ、ホントに上行っちゃって大丈夫なのこれ!」
「結局、上も下も変わんないって。諦めて行こうぜ」
「そりゃそうなんだけど…」
すると、向こうから声が聞こえてきた。
「おい、さっきから何か物音が聞こえねぇか? 侵入者でも入ったか?」
「ヤバい、流石に気付かれたか。とっとと上に上がろう」
「暴れるだけ暴れて…」
俺達は急いで階段をかけ上がっていった。
「何か私達、もしかしてすごい考えなしに動いてる?」
茜は半分自虐混じりに言った。
「結果、そうかも」
俺は思わず苦笑いしてしまった。
「そうかもじゃないわ…。お、少し明るくなったぞ」
駿の言う通り、階段を上がると、若干明るくなった。
何処からか外の日差しが差しているのだろうか?
「おい、蓮斗、何か聞こえないか?」
耳をすませると、確かに何やら会話をする声が聞こえてきた。
「でさー、その女がホントにヤバいのよ! もう何? 体から溢れでるフェロモンで男共全員悩殺みたいな? 脳が溶けて鼻から垂れ流し、みたいな?」
「マッジでか! えぇー、ちょっと詳しく! それ、詳しく!」
「いやいやいや、舌禍に尽くし難いんだわ、これ。俺、未だかつてこれ程自分のボキャブラリーの無さを嘆いた事ぁねぇよ」
「いやいやいや、お前、それ大丈夫? ガンガンハードル上がってるけど! ハードル雲突き抜ける勢いだけど!」
「いやもう、雲どころか大気圏突破する位の、超スーパージャンプ決めてくるから!」
「マジでか! 俺の股間のロケットも大気圏突破しますけど!? 発射寸前ですけど!?」
「そうだな…もうあれだ、エロをドレスの様に着こなし、靡かせながら歩く的な…」
「ドレスの様に…!? …エロを…!?……え、それどういう事…?」
「まぁ要は一度見りゃわかるってこった」
「マジかよ…それの想像が追い付かんわ…っつーか、追い付いたら俺、昇天しちゃうんじゃね」
やがて、男達は去って行った。
「…え、何あの中二全開の奴ら」
「どこの世界にもバカはいるもんだね」
「あの…今の人達は何の話を?」
「大丈夫、スーナちゃんは知らなくて良いんだよ。忘れて忘れて!」
「え、あ…はい」
しばらく進むと、扉が眼前に現れた。
先程下で見た部屋の扉とは違い、中から光も漏れておらず、誰も居なさそうだった。
「開けるぞ…」
俺はゆっくりと扉を開けた。
やはり、中には誰も居らず、返事は無かった。
ここは物置きらしく、沢山の物が無造作に置かれていた。
「うわー、スッゲー物がスッゲー雑に置かれてんなぁ…」
どう見ても石にしか見えないもの、何だかよく分からない入れ物に、変な棒…。
素人目にはどれもガラクタにしか見えなかった。
「轟狐は、こんなもんとっといてどうするんだろうね」
「さぁ…ん?」
駿は何かを見つけたらしく、棚に置いてある物を手に取った。
「駿、なんかあったのか?」
「これ、日本語で書かれた本だ…」
駿から本を受けとると、確かにそこには日本語で文章が綴られていた。
文章から察するに、小説の様だった。
「なんでこんなもんがここに…?」
「多分、俺達がこの間巻き込まれた、空間の亀裂から出てきたもんだろうな」
「よく見ると…ここにあるもん全部、俺達の世界のもんじゃね…? このペットボトルとか、ダンボールも」
駿の言う通り、ペットボトルとダンボールも、バッチリ日本語が書かれていた。
この部屋に置いてある物の内、殆どが共通していた。
これらから、ここに置いてあるのは、俺達の世界の物だと分かって置いたものであり、恐らくあの空間の亀裂の存在も知っているという事が分かる。
「それまで知ってながら、神社を破壊しよってのか? ふざけんな、絶対に止めてやる」
思わず語気が強くなってしまったが、すぐに冷静になった。
「よし、ここにずっと留まっていても、仕方ない、先に進もう」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言い放ち、俺達は部屋を出て、先に進んだ。




