No.114 枕投げ
「ごめん茜、何言ってるか分からなかったから、もう一回言って欲しいんだけど」
「だから、第一回枕投げ大会の開催を宣言するって言ったの」
「あ、悪い、何回聞いても理解出来そうに無いわ。つーか、なんで枕投げ!?」
「何々、蓮斗も駿も常識が無いの? 宿に泊まったら、夜は枕投げって相場は決まってるんだって」
「いや、お前が誰よりも常識ねーから! その枕も一体どっから持ってきたんだよ?」
「宿のおばさんに『枕貸して』って聞いたら、快く貸してくれた。異世界と言えども、みんなやっぱり分かってるね」
「多分それ、枕投げに使うって知らないから貸してくれただけだから! 今から受け付け行って、『ちなみに枕投げに使うんですけど、良いですよね?』って聞いてみ? いっしゅんで没収されるから!」
しかし、結局茜の強い要望で、枕投げ大会が開催される事になった。
チームは俺と駿、スーナと茜に別れた。
「ねぇねぇ、レン君、アカネちゃんに詳細何も聞かされないまま、ここまできちゃったんだけど、枕投げって何…?」
「えーと、まぁざっくり言うと、お互いに枕を投げ合って戦うゲームだよ」
「え、何それ? ちょっと意味が分からないんだけど。それ、宿の中でやって良いの?」
「イヤ、ダメだね。ダメなんだけど、俺達は今からそれをやることにやってしまったんだよ」
「レン君…私、アカネちゃんが分からない…」
「大丈夫、俺も昔っからあいつの事は分からないから」
「ほら、そこいつまでそうしてんの? 早くチームに別れて!」
何故か怒られた俺とスーナは、すごすごと自分の陣地に向かった。
「おい蓮斗、こうなったら、全力で茜のバカを叩き潰すぞ!」
「え、駿までどうしちまったんだよ?」
「だってここまでずっと歩いてきて、体もくたくた。また明日からも長旅が続くっていうのに、この馬鹿げた枕投げ。一度、叩きのめして、分からせてやろうぜ?」
「お前、すました顔して結構最低な事言ってるけど。女子に全力出す気かよ」
「これは…教育的指導だ」
すると、茜は枕構えの体勢に入った。
「じゃあレディーゴーって言ったら、開戦ね」
なんだかよく分からない緊張感に包まれた。
「レディー…」
仕方なく、俺も枕構えの体勢に入った。
駿も目を血走らせながら、構えた。
なんだこのバカ達は。
「ゴー!!」
「ゴー」の言葉が、茜の口から解き放たれたとほぼ同時に、茜が放った4つもの枕が全て駿の顔面に命中した。
「おい、駿んんんんん!!」
ゴングの役目を終えた駿は、そのまま体勢を崩し、ベッドから転げ落ちた。
「口ほどにも無さすぎんだろ、お前!」
そう言っている間にも、どんだけ持ってきたんだと思う程の大量の枕が、茜から放たれてきた。
「っと!」
なんとかそれらを捌きつつ、その内の1つを掴むと、受け流しの要領で茜にぶん投げた。
「やっぱり、蓮斗は駿みたいにはいかないか」
「ったりまえだ、アホ!」
バトル漫画よろしく、会話を途中途中で挟みつつも、しばらく俺と茜で、枕の投げ合いが続いた。
「なぁ…所でこの枕投げ大会、どうなったら勝ちなんだよ?」
「んー、どちらかのチームが全滅するまで」
「いや、雑! っつーか、こっち既に一人、戦闘不能だし!」
「ほーら、無駄口叩いてる余裕があるの? どんどんいくよ!」
そう言ったかと思うと、茜の攻撃はより一層激しさを増した。
俺は一体何をしてるんだろう。
さっきの話の通りなら、俺がわざと負ければゲーム終了となるはずだが、多分、それじゃ茜が納得しないだろうし、何より俺のゲーマープライドが許さない。
さっきの駿じゃないが、とっとと茜を叩きのめして、このくだらない遊びを終わらせよう。
「ほら、どうしたどうした蓮斗! 防戦一方だよ?」
そう言いながら茜が、左手で抱えてる枕を右手で掴もうとした。
俺はその際の、一瞬の隙を逃さなかった。
まさに茜が、右手に枕を移すか写さないかのタイミングで、俺はそこ目掛けて枕を投げた。
「あっ!」
声と共に、持っていた枕を落とし、若干の動揺を見せた茜の顔面目掛けて、俺は渾身の1投を放った。
「わっぷ!?」
やや、すっとんきょうな声をあげ、そのままベッドから転げ落ちた。
「よし!」
思わずガッツポーズをし、一瞬気が緩んだその時、俺の顔にややゆったりとした勢いで、枕が命中した。
「おっ!?」
その枕は、スーナが投げたものだった。
完全にバランスを失った俺は、そのままベッドから転げ落ち、既に床で倒れていた駿を下敷きにした。
「うぅ!?」
下から駿の鈍い呻き声がした気がしたが、とりあえず聞こえないふりをした。
スーナの方を見ると、やや申し訳無さそうな顔をしながら、スーナがこちらを見ていた。
「あの…ごめんね、隙だらけだったから…」
こうして、第一回枕投げ大会は、スーナ・茜チームの勝利で幕を閉じた。




