No.110 ヤクリへ
ついに始まった初めての四人旅。
ゲンガの一味がいると言われている、グランルゴを目指して歩き出した。
「蓮斗ぉ、その…グランルゴだっけ? そこまでどん位かかるの?」
「んー、確か村長さんの話だと、1週間っつってた」
「1週間!? え、もしかしてこのまま1週間も歩き続けんのか?」
「いや、隣町のヤクリっていう所からロゴンチャが出てるから、それ乗ってグランルゴまで移動する」
「なに、ろごんちゃって…」
「まぁこっちの世界でいう所の、電車みたいなもんだ」
「へー…。で、そのヤクリって町までは?」
「歩いて4日」
「結局だいぶ歩くじゃんかよ!」
「うるせーな、スーナはいつもヤクリまで歩いてたんだからな」
「スーナちゃんが? マジか…ってかなんで?」
「私、イクタ村に居た時は、服を作って、ヤクリで売ってたんです」
「スーナちゃん、服作ってんの!? スッゲーな…」
「いや、前に俺、この話お前にしてるから」
「仕方ないでしょ、駿すぐ忘れちゃうし」
「まぁ仕方ないか…」
「おーい、またいつもの感じになってんぞー! ここは学校じゃねーんだぞー!」
「大丈夫ですよ、シュンさん。何度でもまたお話するんで♪」
「スーナちゃん、一見すると優しいんだけど、要は俺が忘れっぽいって事を受け入れてるよね?」
「じゃあ忘れっぽくないのかよ?」
「いえ、忘れっぽいです…」
なんという中身の無い会話なのだろう。
3人集まると、どこでもすぐにこんな感じになってしまう。
こんなんでこの旅、大丈夫だろうか…。
「ここって私達の世界からすると、つまり異世界って事だよね?」
「んーと…まぁそういう事になんのかな?」
「モンスターとか出ないの?」
「いや出るわけ…」
スーナと二人でいる時は、特に考えもしなかったけど、泉狐族とかの存在を考えると…。
「あの…スーナ。この世界ってモンスターって出るの?」
「ふふふ、ここには出ないから大丈夫だよ♪」
「あ、いることはいるのかい!」
「ここからずーっと北の方にある山奥に住んでるみたいだよ。私も村長さんから話で聞いただけだし、見た事は無いけど…」
「良いね、良いね! なんかファンタジーっぽくて! 私、見てみたいかも!」
「いやいや、勘弁してくれよモンスターなんて!」
駿は、本気で嫌がる素振りを見せた。
「駿を囮にしてればモンスターに遭えるかな?」
「茜は、俺に一体何の恨みがあんだよ! 良いわけねーだろ、そんなゴミ作戦!」
「ところで、そのモンスターって、人に危害を加えたりするのか?」
「ううん、よっぽどの事が無い限り、あっちから危害を加える様な事は無いよ。逆に臆病者だから、人を見ると逃げちゃうんだって」
「そっか、じゃあ駿を囮にする作戦は逆効果だなぁ」
「いや、効果あってもやんなよ!」
そんな会話をしながら歩いて行き、気が付いたらすっかり日が暮れて来た。
「じゃあ今日はここら辺で泊まろうか」
初めて聞いたときの俺のように、駿と茜は、ポカンとした顔をしていた。
「えっと…あはは、俺、ちょっと疲れちゃってたのかな? 聞き違いっぽいや。スーナちゃん、悪いけどもう一度言ってくれる?」
「あ、ごめんなさい、私の声聞き取り辛かったですか? 今日はこの辺で泊まりますよ」
「いや、え? ここで野宿!? こんな道の真ん中で!? 出発初日で野宿とかある?」
案の定、駿はスーナの言葉が信じられず、わめきだした。
「スーナちゃん、本気でここで野宿なの? 流石に私もこの展開は予想できなかった…」
茜も若干動揺していた。
意地悪ながら、その光景を見て、俺は多少ニヤニヤしていた。
「つーか、なんで蓮斗はそんな余裕綽々なんだよ! お前、絶対なんか知ってんだろ?」
「ふっふっふ、スーナ、この哀れな異世界初心者共に例のあれを見せてやりなさい」
「ふふふ、レン君変なの。ちょっと待ってね、今から準備するから」
そう言って、スーナは手を地面につけて暗号の様なものを呟いた。
すると、地鳴りと共に、例の2階建ての建物が地面から姿を現した。
「はい、では中に入ってください♪」
駿と茜は唖然とした顔で建物を見ていた。
「…え、これ何? どういう事?」
「入っても大丈夫なのこれ…」
完全に警戒している二人をなんとか建物の中に入れた。
「おいおい、ホントに家ん中に居るみたいだな!」
「みたいじゃなくて、実際に家ん中だって言ってんだろ?」
「いやー、まだ信じらんねぇな。なんか人の視覚を利用したビックリアートみたいな奴じゃないの?」
「それを今ここでやって、何の意味があんだよ。バカじゃないか?」
「バカ呼ばわり…」
お腹もだいぶ空いていたので、俺とスーナで晩御飯を簡単に作ることにした。
「よく考えたら、二人でお料理するの久しぶりだね♪」
「そうかもな。ここ最近はスーナが一人で朝御飯とか作ってたもんな」
そんな会話をしながら、手際良く料理を進めていると、茜の視線が気になった。
「茜、なんでこっちずっと見てんだ?」
「いやー…こっから二人が並んで料理をしてる姿を見てると、新婚夫婦にしか見えないなーって思って…」
「ふぁっ!?」
茜の不意打ちに思わず変な声が出てしまった。
スーナも顔を赤くして俯いてしまった。
しかし、良く見るとちょっと嬉しそうな顔をしている。
その顔を見た俺もまた、嬉しくなった。
「駿は彼女とか居ないの?」
「いやお前、居ないの分かってて聞いてるだろ? チクショー、居ねぇよ!」
「好きな子も?」
「好きな子は…居るよ!」
「へぇー、誰々? クラスの子?」
「違いますー、ビナちゃんって子ですー」
「びな…? え、誰それ、外国人?」
「違ぇよ! …あれ、違くないのか? なんだ…異世界人ってとこか?」
「異世界人…もしかして、この世界の子?」
「そうだよ…なんだ、文句あんのか?」
「あんた、ここにラブコメしに来てたの?」
「違うから! 最初は完全に巻き込まれだから! 但し、今回はラブコメしようとしてたけどね!」
「いや、完全にラブコメしようとしてんじゃん。蓮斗はその子知ってんの?」
「うん、まぁ」
「へぇー今度会ってみたいな」
そう言った茜は、何か含みのある笑みを浮かべていた。
「おい茜、お前ビナちゃんに会って何するつもりだ? なんか要らん事吹き込もうとしてるだろ?」
「別に何も言ってないでしょ?」
「いいや、その顔は何か企んでる顔だ! 付き合い長ぇから分かんだよ!」
「ほら、ご飯出来たから、とっとと食べろ」
「はーい」
歩き疲れて、空腹だった事もあり、あっという間に俺らはご飯を平らげた。
食器の片付けが終わると、明日以降の行程の確認をすることにした。
スーナは、地図を広げると俺達に説明し始めた。
「とりあえず、今のところは予定通りに来てるから、明日明後日歩けば、ヤクリに着くよ」
「これが後、2日間も続くのか…。もう既にしんどい…」
「情けないな、駿は一応運動部だろ?」
「いや、いきなり丸一日歩き続けたら疲れもすんだろうよ。寧ろ、三人はなんでそんなに元気なんだよ、意味わからんわ」
駿は若干拗ねてしまった。
「ねぇスーナちゃん、ヤクリってどんな町なの?」
「うーん…普通の町かなぁ。あ、でもヤクリに伝わるお話があるよ」
「お話?」
「ヤクリの英雄伝説だよ!」




