No.106 嘘
「神社…?」
そうなんの差し障りのない返事をしつつ、俺は頭の中を物凄い勢いで整理していた。
この間って言うのは、前回スーナも含めてあっちの世界に行った時の事か、それとも空間の裂け目に巻き込まれた時の事か…。
いや、そんな事はどうでも良い。
問題は神社で集まっていた事を茜に見られていた事だ。
正直、駿にも知られている手前、今更必要以上に隠す事でもないんじゃないかと思う反面、話した事で、茜まで巻き込む事になるんじゃないかという不安もあった。
「そう、あんたたち真剣な顔して、神社でなんか集まってたでしょ?」
「そっか…見られてたか…」
「見てたんだよ~。で、あんな所で何してたの?」
「実は…言いにくいんだけど…」
辺りに緊張が走った…。
「神社でエロ本見つけたから、みんなでどうするか会議してたんだ」
「…エロ本?」
聞いて呆れるゴミみたいな言い訳だった。
何が悲しくて、エロ本見つけた位で、わざわざ「エロ本見つけたけどどうする会議」なんてしなければいけないんだろうか。
間違えなく祟られる。
自分もじいちゃんの事を言えたもんじゃない。
「…スーナちゃんも居たのに?」
しまった、スーナ居たのかよ!
ってことは、前回スーナと一緒に行った時に見られたのか。
「じょ…女性の意見も必要かと思って、呼んだ…」
「いや、最低かよ!」
あー、ダメだ、これ以上嘘を重ねても良い事ない。
却って、話が拗れる。
仕方ない…。
「ごめん、実は…」
「何?」
「今の話…嘘なんだ」
「いや、分かってたわ! 寧ろ、こんな嘘を一瞬でも突き通そうとした蓮斗が、ある意味すごいわ!」
至極当然の反応である。
「ただ…あの時、神社で何をしていたのかは…今は言えない」
何の答えにもなっていないかもしれないが、それが今、俺が言える精一杯の言葉だった。
「…うん、分かった、それ以上は何も聞かない」
「ごめん…」
「いや、良いよ、別に謝らなくっても。私こそ無理に聞いちゃってゴメンね」
それからしばらく無言で歩いていた。
「まぁ…人には一つや二つ、隠し事位あるもんね」
俺に気を使っているのだろうか。
それに対して、俺は何も答えられなかった。
「私だって、蓮斗に隠してる事あるし」
「俺に…?」
「まぁ私も言わないけどね♪」
「なんだそれ、恐いな…」
しかし、俺に茜を兎や角言う資格は無かった。
茜の言う通り、昔からの腐れ縁でも言いたくない事の一つや二つはあって当然だ。
だけど、どうしても喉に骨が引っ掛かった様な感覚がいつまでも消えない。
多分、言ってしまえばこの感覚は消えるだろう。
でも、それは同時に茜を巻き込む事も意味している。
今の俺には、どちらの選択が正しいのかは分からなかった。
まぁ正直、言って信じてくれるかどうかは、また別になるけど…。
「でも、約束して」
そう言うと茜は突然、こちらを向き、俺の肩を掴んだ。
「危ない事だけは…やめてね」
その時の、茜のいつになく真剣な眼差しは、即座に俺の脳裏に焼き付いた。
「危ない事…?」
俺達が神社でこそこそしている姿は、茜から見たら何か疚しい事でもしている様に、僅かでも見えたんだろうか。
「別に危ない事なんかしてないから、大丈夫だよ」
「ホントに? 神社で危ない草を育てたり、危ない粉を隠してたりしてない?」
「いや、してねぇよ! どんだけ危ない事してそうに見えたんだよ! んな事神社でしてたら、罰当たりもいいところだわ!」
「そ、なら良かった♪」
茜はいつもの笑顔を見せた。
何故かその笑顔に、俺は少しドキッとしてしまった。
「じゃあ蓮斗、また明日!」
そう言って、茜はとっとと行ってしまった。
危ない事か…。
もしかしたら、これも嘘なのかも知れないな…。
こうやって嘘を重ねながら、人って大人になっていくのだろか。
そんな事を考えながら、ぼんやりと家路を目指して、俺はまた歩き出した。




