No.103 ふたりのお出掛け
例の空間の裂け目発生事件から、更に1週間が過ぎた。
あれ以降、空間の裂け目は発生しておらず、再び平穏な学校生活を送っている。
まぁ家に帰ると二人の怪獣の相手をしなければならないので、それなりに疲れはするが、割とこの日常を楽しんでいる自分がいる。
この頃は、夏美も二人の遊び相手をしてくれているので、そこまで大変でもない。
じいちゃんはというと、この間痛めた体がまだ治りきっておらず、通院中だ。
とは言っても、別に寝た切りと言うワケではなく、普通に出掛けるし、普通に健じい達と飲みに行ったりもする。
すこぶる元気である。
そして、俺は今何をしているのかというと、スーナと二人で特に目的もなく、出掛けている。
「二人きりでお出掛けするのって、久々だね」
「確かにそうかもな。ここんとこあいつらに付きっきりだったもんなぁ」
これは、ばあちゃんとじいちゃんの計らいで、俺とスーナ、二人でのんびりしてきなさいというモノだった。
絶対、キロとテンがぐずるから無理だろうと思っていたが、驚く程素直に俺達を見送ってくれた。
一体、ばあちゃんはどんな手を使ったのだろうか…。
恐るべしである。
「レン君、どうしよっか…。何処か行きたい所ある?」
「うーん、今日いきなりだったからなぁ。パッとは出てこないな…」
時間を確認すると、現在9時を回った所だった。
「生田緑地でも行ってみる?」
「いくたりょくち…?」
「そっか、スーナは知らないのか。川崎市民憩いの場所っていうか…まぁ自然が豊かな場所かな」
「うん、私もそこ行ってみたい!」
「よし、じゃあ決まりだな」
ようやく目的地が決まり、俺達は生田緑地に向かう為、電車を乗り継いで、小田急線の向ヶ丘遊園駅に到着した。
南口の改札を出ると、某アニメのキャラクターのモニュメントが出迎えてくれた。
そこからはバスが出ていたが、歩ける距離だったので、歩いて向かうことにした。
「ここには昔、モノレールが走ってたんだってさ」
「モノレールって、この間、テレビで見た電車みたいな乗り物の事?」
「そうそう、それ」
「こんな狭い所を電車が走ってたんだね!」
「俺が生まれた時にはもう走ってなかったんだけどね。父さんが小さい頃に、よくじいちゃんとばあちゃんに連れてきてもらったって、懐かしそうに言ってたよ」
「そっかぁ…残念だね。私もレン君と乗りたかったなぁ」
「あと20年位早かったらなぁ」
そんな会話をしながら、俺達は生田緑地に向かった。
その日も、子供連れやら老夫婦やら若いカップルやら、沢山の来園客が訪れていた。
そして、ようやく生田緑地の入口に辿り着いた。
「なんかレン君の家の回りと全然違うね! 自然がいっぱい」
「そういえば、スーナは江ノ島に行った時以外じゃ、殆ど家から離れた事なかったっけ?」
「うん、だからすごい新鮮!」
「うちの周り、公園とか以外じゃあんまり自然無いもんな」
入口のすぐ左手にある小さな資料館に入った。
中には園内の様々な生き物や歴史の資料が置いてあり、スーナは興味津々で読んでいた。
最近では毎日の勉強もあって、ひらがなとカタカナ、そして簡単な漢字なら読める様になっていた。
しばらくして資料館を出ると、二つある内の左手の道を進む事にした。
少々遠回りにはなるが、蓮の花を堪能出来るため、こっちを選んでみた。
「すごく綺麗だね♪ イクタ村じゃ見たこと無い」
「そういえば、イクタ村もそうだけど、あんまりあっちじゃ花とかって見ないな」
「うーん、言われてみればそうかも…。でもちょっと前までは、もっと咲いてたんだけどね」
「そうなの? 急に咲かなくなったって事か…」
急に花が咲かなくなったという話は若干気になったものの、それっきりその話はしなかった。
蓮に囲まれた道を歩き、階段を上がると広場に到着した。
「わー、すごく広いね!」
スーナは広場の大きさに素直に感動していた。
「スーナなら、あっちに居た時、散々だだっ広い土地を歩いてたんだから、珍しくも無いんじゃ?」
「ううん、ここはあっちとは違った解放感があって好き♪」
「ふーん、そういうもんなの?」
「そういうもんなの♪」
俺にはよく分からなかったが、まぁそういう事らしい。
「わー、見て見て、あそこに綺麗な花が沢山咲いてる! あれって紫陽花だよね?」
「そ、鎌倉で見た奴と同じ花だよ」
「あそこ行ってみようよ!」
スーナは子供の様にはしゃぎ、俺の服を引っ張って急かした。
「分かった、分かった」
花の匂いに誘われる様に、俺達は紫陽花畑に向かって歩いて行った。




