No.102 普遍的幸せ
こちらの世界に戻ってきてから、次の日。
今週もまた学校生活が始まった。
俺が家を出る時、キロとテンがグズってしまい大変だったが、スーナが二人を宥めてくれたので、なんとか登校する事が出来た。
じいちゃんはというと、身体中が痛いとかで、和室で横たわっていた。
完全に寝たきりのジジイである。
「おはよー」
「あ、蓮斗おはよー」
教室に行くと茜が既に居た。
「相変わらず来んの早いなー」
「何? 早く来ちゃダメなの~?」
「いや、別にそういうワケじゃないけど…」
「なら良いでしょ? それで、そっちは例のおチビちゃん達、どんな感じなの?」
「いやー、もう今日は大変だったよ。『どこにもいかないでー』って…。それが終わったら、今度は『いっしょにいくー』って言い出して…」
「あははは、もう完全に仕事に行く父親と、その子供達って感じだよね」
「笑い事じゃないよ…。俺も小さい時は、同じだったのかなぁ」
「まぁみんなそんな感じじゃないの? なんの反応も示さないよりは良いでしょ?」
「うーん…まぁそれはそうかも…」
すると、疲れきった顔をしながら、のっそりと駿が教室に入ってきた。
「おはよー…」
朝の挨拶も随分とローテンションだ。
「お、おはよ…朝っぱらからどうしたんだよ? そんな死にそうな顔して…」
「いやー…昨日、家帰ったら、母ちゃんにどえらい怒られてさぁ…。最悪の土日休みだよ…部活も無断でサボっちまったし…」
「そ…そうか…」
考えてみりゃ、今回に関しては、駿は完全に巻き込まれただけだったもんなぁ。
不可抗力とはいえ、少し気の毒だな。
「駿…飴一個要るか?」
「おーい、蓮斗、お前もしかして飴一個で全部を無かった事にしようとしてる? そうはいかねーからな、チクショー」
「二人とも、なんの話してんの?」
「いや、駿は可哀相だなぁって話」
「駿が可哀相なのは、今に始まった事じゃないでしょ?」
「お前ら、満身創痍の人をボロクソに言うのが、そんなに楽しいか!?」
やがて、ホームルーム開始のチャイムがなり、席に着いた。
土日の疲れが抜けきっていないのか、若干眠い。
授業が終わると、駿が話しかけてきた。
「蓮斗! お前って修学旅行の奴、もう決めた?」
「決めたって何を?」
「何をって、2日目の自由行動に何すんのかだよ。サイクリングとかシュノーケリングとか釣りとか色々あったろ?」
俺達の学校は、二学年時の10月に沖縄へ修学旅行に行く事になっており、今日はその説明を先生から聞かされた。
最も、あまりの睡魔で、俺は殆ど話を聞いていなかった。
「うーん…何もしないってのはダメなの?」
「なんでだよ、沖縄まで来て勿体無いだろ!」
「いや、そうじゃなくて、何もせずただ、海を眺めてるって事」
「ならサイクリングで良いんじゃない? サイクリングで適当な場所見つけてボーっとしてれば」
「じゃあそれにするかな。駿は?」
「俺はシュノーケリング一択!」
「…駿って泳げたっけ?」
「バカ野郎、それを夏の間に特訓するんだよ」
「へー…頑張って」
「どんだけ興味ないんだよ! もうちょっと俺に興味持てよ」
すると、同じクラスのヤマっちこと、大和千尋がやって来た。
「お前ら、駄菓子屋行かない?」
「え、あそこのばあちゃん、今入院中じゃあ…?」
「先週、退院して、今週からまた店開けんだってさ!」
「あ、そうなんだ! じゃあ久々に顔見に行こうかな! 蓮斗も行くだろ?」
「行く。でもよく考えたら、高校生にもなって意気揚々と駄菓子屋に行くのも、変だよな」
「いやいや、だからこそじゃないの。このご時世だからこその駄菓子屋夏のワケだよ」
「いや、何言ってんだか分からん。行くなら行こうぜ」
そこにあったのは、紛れもなく平凡な高校生の日常だった。
今回、少し少なくてすみません。




