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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
2章 初めての二世界生活
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No.10 温かい雨

「でさー、俺の一世一代の告白は儚くも散ってしまったってわけよ」


トホの告白の舞台となった噴水のある広場で、俺はトホの告白談を聞かされていた。

こいつ、よくこんな話を俺に話すよなー。しかもよりによってこの場所で。


「知ってる、知ってる。俺、この間ここで見ちゃったもん」


「見てたのかよ!なんで言わねーんだよ、知ってるやつに喋ってんの滅茶苦茶恥ずかしいんですけど!」


「だって俺が口挟む暇もない位ずっと喋ってんだもん」


「いや、結構挟む余地あったと思うけど!?」


「いーから、いーから。で、結局何が言いたいんだ?」


「スーナちゃん可愛い」


「今まで喋ってた部分要る!?」


「でももう諦めたよ。スーナちゃんには心に決めてる人がいるみたいだし」


「え、マジで?そうなの?」


「お前、スーナちゃんと一緒に住んでてて分からないのか?」


「いや、そんなこと言われても…って一緒に住んのには関係なくない!?」


「はぁ…この鈍感が!スーナちゃんを幸せにしろよ!!」


「もーさっきから何言ってなんだが、全くわからないんですけど」


「分かれ!!分かれよ!!」


全く騒がしい男である。だけど、そんなに引きずって無いみたいで良かった。

しかし…スーナに心に決めた人がいたなんて…。

まぁいたとしてもおかしくはないのか。

だけど、なんで俺が鈍感だなんだと言われなけりゃならんのだ。


「なーんか一雨きそうだなー。じゃあ俺行くわ!実は母ちゃんから買い物頼まれてっから」


「先に済ませろよ!お前、ここに来てから1時間以上くっちゃべってんじゃんか!」


「そうだな、多分俺は母ちゃんに叱られる!」


「ドヤ顔で言うことじゃないから。ってか早く買い物して、とっとと家帰れ」


「そうすんわ!じゃあなー!」


「おーう」


やれやれ、やっと行ってくれた。

この村ではスーナ以外で唯一の友人で、案外あれでいいやつだ。

しかし…自分の失恋談をこんなにもあっけらかんにできるってのはある意味尊敬できるな。


「ただいまー」


俺が帰ると、スーナが居間でスヤスヤ寝ていた。

ミーとミミも横で寝ている姿はとても微笑ましかった。

スーナ達に毛布を被せてやると、俺は居間の片付けを初めた。

作った服や脱ぎ散らかした服が相変わらず散乱していた。


「全く、またこんなに散らかして…」


俺が散らかった服やら何やらを片付けていると、目を覚ましたミーとミミが

ヨタヨタと歩いて、俺の元へ寄ってきた。


「み~」


「み~み~」


「悪い悪い、起こしちゃったか。ごめんな」


ミーとミミを撫でてやると、とても気持ち良さそうな顔をしながら、喉をゴロゴロさせている。

すると、スーナも目を覚まし、ほふく前進で俺の元に寄ってきた。


「レン君…帰ってきたの…?」


「うん、さっきね。スーナが散らかした服を片付けてる所」


「あ…ごめんね…」


寝ぼけながら、スーナが謝ってきた。


「いいよいいよ。服作りで疲れたろう?片付けは俺がやるから、寝てな」


「うん…ありがとう」


そう言うと、何を思ったのか俺の膝に頭を乗せ、再び目を瞑ってしまった。


「ちょっと…スーナ?」


既にスーナはスヤスヤと寝息を立てながら再び夢の中だ。

いくらなんでも、気を許しすぎだろう。


「はぁ…まぁいいや俺も寝よう」


そういうと俺はスーナの頭を優しくクッションの上に乗せ、自分もスーナのそばに横になって目を瞑った。

元の世界に戻る日まで後、一週間か…またスーナの奴、悲しそうな顔をすんだろうな。

そんな事を考えながら、俺はいつの間にか眠りについた。


ん…

あー、いつの間にか寝ちゃってか…。

顔を上げるとスーナがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「スーナ…なんでこっち見てニヤニヤしてる?」


「いやー寝顔可愛いなーって」


「バカにしてるのかなー…?」


「そんな事ないよー。ねー、ミーちゃんもミミちゃんも、レン君の寝顔可愛いと思うよねー?」


「…」


「…」


「いやそこは返事しとけよ猫共!」


「あ、やっぱりかわいいって言われたいんだー?」


「違う!」


「あはは、怒った怒った♪」


「みー」


「みーみー」


「そこで鳴くのかよ。まぁいいや…。そろそろ夕飯の買い物行くよー」


「はーい、今支度するから待っててねー」


「おーう」


…確実にスーナは俺の事をバカにしにきてる。

距離が近くなり過ぎるのも考えもんだな…。


「準備できました!」


「うーし、じゃあ行こう」


ドアを開けると、外は雨が降り出してきた所だった。


「あー、雨降ってんな…。ここ来て雨って初めて見たな…」


「丁度今は乾期の時期だから、あんまり雨が降んないんだ」


「へー。傘とかあんの?」


「あるけど…一本しか…」


「そっか、じゃあ俺一人で行ってくるから、スーナは留守番してて」


そう言って俺はスーナから傘を借りて外に出ようとした時、スーナが思いもかけず、傘の中に入ってきた。


「あの…スーナ…?」


「一緒に入れば大丈夫でしょ?私も一緒に行くよ!」


そうして俺たちは、一つ傘の下、雨の中を歩いて行った。

あまり大きな傘じゃなかったから、二人共片方の肩が雨に濡れてしまっていたけど、なんだか温かかった。

たまにだったら雨も悪くないかな…。そう思うある午後の一時。

家に帰ったら、暖かい紅茶でも一緒に飲んで温まろう。

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