花魁歌~空から墜ちる涙いろ
吉原、お客がいない日が高い時、
楼閣の欄干に洗い髪のままに、肘おき窓辺に座る女。
白い寝間着の上に昨夜の客が置いて帰った、黒羽二重の羽織をしどけなく肩にかけ、
空を見上げている、やがて彼女は、ゆるゆると歌い出した。
空から落ちる 涙いろ
珠となりて 降り注ぐ
指切りげんまん はりせんぼん
捧げるものなど なにもない
裏切り 足抜け 夜の闇
追いかけられし その命
花鳥風月 鬼の国
失うものなど なにもない
赤い花 と 白い花
夜に 開く 艷やかに
空から堕ちた なみだ珠
錦を綺羅に 飾ってる
爪紅 口紅 白い肌
かんざし 恋文 三味線の音
金蘭緞子の打ち掛けに
宿りし珠は涙いろ
珠から落ちる
涙いろ
落ちて 染んでいく
足元に
地面に出来る 丸い池
金魚が 泳ぐ
その中で
ひらはら 泳ぐ 池の中
金魚が 舞いを まっている
池に 映りし 夜の空
とろりと とける
闇の色
白く輝く ひしゃく星
夜風がさわと ゆらしてる
ちらちら 揺れた 星のいろ
ふわりと 光 消えて逝く
闇夜に唄う 小鳥達
夢と 愛を 歌ってる
チチチと 聞こえる
その声は
ぱちんと はじけて
散っていく
珠に代わりし
鳥の声
きらきら 空から
墜ちていく
空から 墜ちる 涙いろ……
終わりまで歌うと、再び最初に戻る、郭歌、ぐるぐる回る輪廻の世界。
出れない、ここから、花魁は歌をうたう、いくども、幾度も、繰り返す………