決着
アーニーとロドニーは対峙する。
アーニーの背後には、燃えさかる城塞だ。逃げ場はない。
門の前にいるロドニーからは距離が離れている。双方ともロングソードを両手に構えている。
別にアーニーはロドニーに殺されて、タトルの城塞に死に戻っても構わないのだ。
だが、決着をつけたいのは双方同じだ。
ウリカやポーラへの仕打ち。街の略奪宣言。力をかさに着た横暴な言動。全てが許せなかった。
ロドニーもまた、戦うつもりのアーニーを見て、一瞬不審に思ったが考え直す。
決着をつけるつもりなのだ。望むところだった。
ロドニーは思考を巡らせる。
(弓なしだが奴はレンジャー……もしくはその派生。短剣による致死狙いはなさそうだが。まずは様子見)
彼はパッシブスキルで先攻行動、先手を取れる。
「【全気力充填】からの――【剣気・真空斬】」
彼はSR+の【戦巧者】だ。二連続行動による速攻だ。並の軽装職ならこれだけで倒せる。
アーニーはその剣気を弾き返す。
「パッシブ先攻持ちか。【四式・魔法の矢】を最大行使。行け!」
行動回数が多くても先に行動される相手には不利だ。
確実に倒すにはどうするか。様々な可能性を考慮する。
一方のロドニーは信じられないものをみた。
総勢五十近くの魔法の矢が、敵の周りを飛んでいる。
「マジかよ!」
思わず舌打ちが漏れる。
どうみてもレンジャーにしか見えない敵は、魔法戦士だったのか?
二回行動以上しているようにも見える。ありえなかった。
躊躇しているうちに魔法の矢が全て飛んでくる。
一発一発命中するたびに激痛が走る。
威力も重い。血を吐いた。魔法戦士の魔法威力ではない。
(痛ぇ! 軽装を来た本職だったか?)
遠距離はまずい。今の一撃で総HPの三割は持っていかれた。
「くそ。弓もってねえのはそのせいかよ! 【縮地】」
一気に距離を詰める。
必中スキルで攻撃すれば、軽装職など敵ではない。
「これには耐えられまい! 【剣気・竜牙斬】 」
牙系と呼ばれる剣気を利用した攻撃の最高峰。これを使えるものは【戦巧者】を含め極少数の、一部職のみだ。ドルフやニックさえも、まだ所得できないほどの高難易度技だった。
モンスター最高峰の竜に例えられたその威力、推してしるべし。
その牙は折れず、どんな鱗もかみ砕く鋭さを持つ、個体へ与えるスキルの、最高峰の一つ――
アーニーはその攻撃を、ロングソードで受け止める。
あまりの衝撃によろめき、血を吐く。体中に裂傷が走り、血が吹き飛ぶ。
本来なら肉体が爆発四散してもおかしくない衝撃――
「まだ生きてやがるだと?」
アーニーはこたえず、不敵な笑みを返した。
アーニーもまた、相手の行動を読もうとしていた。
【先制】持ちだ。たとえ四回行動できようが、先に殺されては意味がない。
【戦巧者】は多くの必中スキルも持っている。
パッシブでHPが増え、【竜牙剣】の保護があってもなお、ダメージレースでは遠く及ばない。
しかし、アーニーもまたロドニーへの殺意は尽きていなかった。
相手の全てを上回り、倒さねばならない。
「竜牙斬か。ならば面白いものを見せてやろう。俺の愛剣は、竜の牙で出来ていてな」
「は?」
アーニーの行動開始――
「【四十一式・火炎付与】」
アーニーの長剣が灼熱の炎を帯びる。【竜牙剣】は火炎攻撃増大だ。赤熱し、それを通り越して白熱する。白熱した刀身は禍々しい。
「【無拍子】」
【無拍子】は必中スキルだ。攻撃タイミングを相手に悟らせないことによって、必ず相手に攻撃を攻撃を加える。たとえ相手が回避やカウンタースキルを使っていても、無効化する。
「【渾身】」
【渾身】は、スキルや通常攻撃の威力を跳ね上げる。
「さ、三回行動だと!」
ロドニーは瞠目した。
個人でそんなことができる職やスキル、聞いたこともない。
「真の竜牙斬、見せてやろう。【竜牙斬・劫火式】」
【竜牙剣】に秘められたスキルを発動する。
本来は特殊な戦士系統しか使えない【剣気】の最高峰技。だが火竜の牙で出来た【竜牙剣】は別だ。剣気を炎の魔力で代替したのだ。
白熱化する刀身は金属さえも容易に溶かす。
ロドニーは信じられないものをみた。【先攻】が発動しない。まだ彼の行動順は回ってこない。
「四回だとぅ?! くそがぁ!」
剣気の代わりに炎を糧として――
一切を焼き尽くす刀身はロドニーの鎧を紙のように切り裂きく。彼は両断された。
「ば、化けもの……」
絶命した。
アーニーは答えない。死にゆくロドニーを冷淡に見つめていた。
その場で死体は消える。
「アーニー。終わった?」
ポーラが門をくぐって来ようとした。
「くるな。危険だ」
「? まだ?」
「くるだろうな。そこにいろ」
アーニーは燃え盛る城塞を睨みつけた。
――残心を解かない。決して油断はしない。
「うおぉぉぉぉ!」
全身燃え盛りながら、ロドニーが剣を構え、特攻してくる。肌は焼きただれ、髪は燃えている。高HPだからこそ可能な脱出だった。
「祝別装填。【二十二式・火球爆発】」
【竜牙剣】に祝別されたダメージクリスタルを装填し、火球爆発を放つ。
戸口から出た瞬間のロドニーに火の玉がロドニーに命中し、大爆発を起こす。直撃で胴体に穴が開き、爆風で炎のなかに押し返され、再び絶命した。
「ポーラ!」
「はい! 【石の壁】」
正面に石の壁を設置する。
「どれぐらい持つ?」
「丸一日は持つよ。内部から攻撃を受けたらもう少し短くなると思うけど」
城塞自体は木造だが、大抵の城塞は魔法で強化されている。石壁よりも破壊するのは困難だろう。
「相手も必死だからな。非常口すべてに石の壁を」
「わかった。しかし、敵ながらすごい根性ね」
「本当にな。強敵だった」
たまに石の壁の向こうから激しい音がし、やがて途絶える。
炎の城塞が燃え尽きるまで、死に続けるのだ。
彼は燃え盛る城塞をただ、眺めていた。




