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劣勢――剣闘士の意地

 近くにいる冒険者たちがロドニーとドルフの救援に向かう。


 その前にイリーネとユキナが立ちはだかる。


「あんたたち。助けにいくのはいいけど、死んだらどうなると思う?」

 ユキナがさも心配というように、囁く。


「あの炎のなかを無限復活よ?」

 冒険者たちは火事をみた。


 絶え間ない悲鳴が聞こえてくる。地獄だった。

 我先に逃げ出す。


「ふがいない」

 ユキナが嘆息した。


「無茶いわないであげて」

 けたけたとイリーネが笑う。その余裕な様をみて、逃げ出す者まで現れた。


 ミスリルゴーレムとテテは森に潜んでいる冒険者たちを掃討する。とくに魔法職はあっという間に駆逐されていった。


「ひゃっはー! です!」

 ロミーがはしゃぎながら、冒険者たちを倒していく。


「ロミーと一緒にいるあのゴーレム、絶対意思を持ち始めている……」

 テテが呟いた。

 敵の選定が正確すぎるうえ、遂にフェイントまで使い始めている。


「僕も自分の仕事をしないとね」

 薪を拾い集めるかのように、次々と冒険者を背後から仕留めていった。

 

「範囲魔法で一掃しないのは、一度に大量復活して、空気がなくなって鎮火しないようにするため、か」

 ポーラが魔法で狙い撃ちしながら呟く。

 今なら魔法の矢ですら、必殺レベルの威力だ。


「こりゃ笑えないね」

 同じローブ職として、先ほどにはなかった同情が少しだけよみがえった。


 冒険者たちは復活し、即座に死亡する。

 酸欠で。火傷で。苦痛で。


 前衛のHPがあるいものは、外に向かって走り出す。それは絶望的なまでの距離だった。

 光が見える戸口にたどり着いたものはいない。 


 くべられる薪のように、復活水晶では多数の冒険者が、無限の炎に焼かれ続けていった。





 ニックは少しずつ距離を離す。

 甲冑のドルフがにじりよる。


(敵はSR+の【戦巧者】(バトルマスター)。二回行動に二回攻撃可能、スキルも俺といくつか共通する)


 ニックは冷静に分析した。

 二回攻撃は【戦巧者】のパッシブだ。レアリティに関係なく所得できる。多くの者が【戦巧者】を目指すのも、そのスキルゆえだ。狩り効率が跳ね上がるのだ。


(レアの俺にできることは、っと)

 基本の職性能差は激しい。

 今、奥の手はいくつかある。新技はまだ使えない。

 

「【剣気・真空斬】」

 ニックが仕掛けた。


「近接職の遠距離攻撃など!」

 直撃を受けても一切ひるまない。

 間合いを詰める。


「くらえ! 【スタンアタック】」

 動きを封じてくるつもりだ。攻撃を剣で受け止める。

 スタンは発生しなかった。


「何? そうか【獅子の誇り】か!」

 獅子の誇りは状態異常攻撃の抵抗値を跳ね上げる。


 ニックは中段に構え直す。

 相手の仕掛を待つのだ。


「ならば押しつぶすまで! 【剣気・狼牙斬】」

 ニックは刹那の見切りでその攻撃の被害を最大限に減らす。


 それもドルフには余裕がある。殺し切れる、その判断だ。


「なっ!」

 ドルフの顔がゆがむ。

 ニックはのけざりながらも、笑いながらドルフを睨み付けていた。

 口に咥えているポーションが四本。ぎりぎり、回復したのだ。

 吐き捨て、再び同じ数のポーションを咥える。アーニーに教えてもらった、戦争での技だ。


 それでも体に裂傷が走るほどの衝撃だ。生きていれば勝機はある。

 死ななければ――狙い通り。


 焦りを隠せないドルフはうなりをあげながら、渾身の一撃を繰り出した。


「そのまま死ね! 【雷刃破】」

 【戦巧者】専用の攻撃。雷撃をまとわせる一撃必殺の攻撃だ。剣気を使った攻撃ほどではないが、即座に繰り出せる、高威力技だ。


「二連続スキル! 読み通りだ――【剣気・活殺撃】」

 相手の攻撃を受け止め、その力を利用し相手に切り返す。


 雷撃をまとった剣をすりあげ、返す刀で大上段に振り落とす。

 甲冑も易々と引き裂かれる。


「馬鹿な…… 剣闘士如きに……!」

 ドルフが崩れ落ちた。


「覚えていろ……」

「――勝負は本来一期一会。敗因はお前はモンスター相手の【戦巧者】(バトルマスター)。俺はタイマン特化の【剣闘士】だ」

 手数では勝ち目がまったくない。

 カウンター技のタイミングに全てを賭けた。


 ニックは剣を振り上げ、止めを刺す。


「二回行動と二回攻撃は心底羨ましいぜ? じゃあな【戦巧者】さん」


 ドルフの姿が消えた。

 ニックの勝利だった。

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