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破壊工作

 『鋼の雄牛』チームは進軍準備をしていた。

 このままではいたずらに時間が経過するだけだ。【城塞戦】を仕掛けて置いて放置したら、罰則(ペナルティ)が発生する。


 進軍準備を城塞内で整える。

 編成は対レイドと同じ方式だ。


「人数足りなくないか?」

 ロドニーが編成時に気が付いた。


「脱走者がいるぞ」

「なんだと?」

「昨日にはいなかった。C級冒険者が三名だな」

「はん。数合わせか。闇の飛龍討伐が終わったら追い込めばいい」

「そうだな」

「今回は俺たちやA級も参戦だ。前のようにはいかない」

 

 屋外の広場に出て、号令を出す。

 ――そのとき。


 城塞が爆発した。

 復活水晶周辺があっという間に炎に包まれる。中に残っていたものがいなかったのが幸した。呆然とあっという間に延焼が広がる家屋に、冒険者たちは見上げる他なかった。


「な?!」

 次々と爆発音が響く。


「おい! 城塞の火を消せ!」

「わかりました!」

  魔法使いたちが水魔法や氷魔法を打ち込む


 氷魔法を打ち込んだ瞬間、さらに火災の勢いが増す。

 

 火勢に押され、砦から逃げ出した。




「なにあれ…… アーニー」

 ポーラが呆然としている。


「奴らが全軍出撃でレイドに夢中な時、ちょちょいと、な。城門開けっぱなしだ。やりたい放題だったさ」

「何かしたの一昨日だよね? 遅効すぎない?」

「可能だ」

「えげつな」

「橋を架け、道を作り――敵施設を破壊する。破壊工作が本領なんだよ。これが【先鋒】の戦い方なんだ」

「マレック様が畏怖していたのもわかる気がする……」

 エルゼが言った。


「なんで氷魔法が無効なのよ?」

「可燃性の物質を召喚してある。中心点の温度は、ミスリルの炉より高いんだ。氷が瞬時に気化すると、あの状態では逆に燃焼する」

「もうなんなのよ、あんた……」

「これからはポーラの出番だぞ」

「わかってるわよ。結果はちょっと、相手に同情するけどね」

 いたずらっぽく笑う様は、全然そうは思っていない。


「じゃあ行こうか。全員、散開!」

「了解!」


 砦から逃げ出した冒険者が攻撃を受ける。


 ラルフの【恐怖】を受け、我先に森のなかへ消えていく。


 魔法職が樹上から狙撃され倒されていった。


「ぐは!」

 コンラートが血を吐いた。

 攻撃者はロドニー。彼が手槍を投げたのだ。


「くそ、俺が最初か……」

 地面に落ちて、姿が消えていく。

 

「いい度胸だ。お前ら全員叩き殺してくれる」

 ロドニーが叫んだ。


「甘い! 【嵐牙斬】」

 ニックが奇襲した。――治癒士のキャシーを。


「【魔法の盾】。他の方のようには甘くないですよ」

「そうかよ!」

 キャシーはその場で血の海に沈んだ。


「きゃあ!」

「殺ったり!」

 頭上からの奇襲は想定しなかったのだろう。頭頂部から刺し貫かれていた。

 竜戦士パイロンとの二段構えの必殺攻撃。


「キャシー! 貴様ら!」

「死ね!」

 パイロンが巨漢のロドフの攻撃をなんとか受け止める。


「死になさい! 【雷撃】!」

「く、ここまでか……」

 パイロンがヘスターの雷撃を喰らって倒れる。パイロンの姿も消えていった。


「次はあいつ――【火球爆発】」

「【魔法の盾】」

 ポーラが躍り出た。

 ニックを守るため、魔法の盾を展開する。


「でたわね! 魔術師! 名前を名乗りなさい!」

「私かい? 私はポーラ。ただのポーラ。ポーションのポーラは聞いたことあるかもね」

 のんびりとこたえた。自分はとくに有名人では無いはずだ。


「マッドポーションのポーラ! 嘘でしょ、S級を辞退した、あのポーラがなんでいるのよ!」

「変な二つ名付けないでくれる?」

 額をひくひくとさせた。アーニーたちに聞かれたら絶対からかわれる。


「くっそ! くそ! あんたがいるなら絶対敵対しなかったのに!」

「もう遅いよね。【核熱投射(フレア)】」


 淡々と処理するポーラ。悔しげなヘスターは一瞬に燃え尽きた。

 

「目的は達成した」

 ニックがロドニーに告げる。


「なんだと、てめえ」

「みてみろよ、てめーの城塞を」

 城塞の門は最大限に開かれている。


 門の前にアーニーがいた。


「火の精霊よ。踊れ。踊り続けてくれ」

 ゆらゆらと、女性の姿が炎のなかに浮かび上がる。


『汝の声に応えよう、人間よ。いつまで踊れば良い?』

「日が暮れるまで。森に火が及ばないようにお願いしたい」

『了解した』

『うぱ?』

 自宅のかまどに住む、うぱ君も顔を出す。 


「お前も踊っていいぞ。頼んだ」

『うーぱー!』


 精霊との対話を追え、後ろを振り返ると憤怒そのもののロドニーがいた。


「夜までには燃え尽きるようにしておいたぞ」

「貴様だけは、絶対殺す!」

「奇遇だな。俺もそう思っていた」

 剣を引き抜いた。


「レンジャー如きが!」

【戦巧者】(バトルマスター)様に一矢報いるとするか」


 ロドニーに加勢するため、ドルフも前にでる。

 ニックが立ち塞がる。


「そこをどけ。雑魚」

「決闘の邪魔をするなんて無粋だぜ? 脳筋」

「――さっさと殺す」

 ニックとロドニーの戦いも今始まろうとしていた。

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