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誰にでもできるお気楽MPK中級編『行動を制限しよう!』

 『鋼の雄牛』チームの城塞に衝撃が走った。

 復活推奨で次々に舞い戻る冒険者たち。彼らの顔には生気がない。


「モンスターに殺されただと? 返り討ちにして経験値にしてやれよ」

 ロドニーが吐き捨てた。


「オーガや、ブルーベアだぞ! そんなに簡単にいくかよ!」

 さすがに冒険者たちも言い返した。


 それだけ、通常デスペナルティは辛い。 苦痛も残っている。

 【城塞戦】のデスペナルティ、苦痛軽減は登録さたチームの【選手】(プレイヤー)同士の戦いに限定される。

 夜の魔物も含めて、モンスターによる殺害は対象ではない。復活できるだけましだが、デスペナルティは思いのほかきつい。


「夜の悪魔連中ほどじゃないんだろ?」

「そ、それはそうだが…… 比べる対象が悪すぎる」

 彼らの中ではタトルの大森林は夜になると、殺戮の悪魔が舞い降りるというのが定着した。ロドニーも含めてだ。

 

「モンスター倒せないなんて、それこそ冒険者失格だぞ。デスペナデスペナうるせーんだからよ。経験値が向こうからやってくるじゃねーか」

「もう勘弁してくれ。通常のデスペナルティは本当にきついんだ。あいつらヒーラーを率先して殺してくる」

「俺でもそうするわ! 狙われているのがわかっているのなら対策しろ! もういい。次の出撃に備えろ!」

 怒りが収まらない。


「相手は、慣れているな。こんな戦いに」

 ヘスターが感想を漏らす。


「亜人解放戦争の英雄がいる、か。それは認めよう。あの戦いもゲリラ戦術が基本だったらしいからな」

「モンスターをけしかけての【選手】殺傷は迷惑行為に準じなかったか?」

 祖霊たちの言葉でいうMPK。モンスターを利用した殺害行為。禁止事項の一つだ。


「ああ。そうい…… だめだ」

「どうしてだ?」

「俺が迷惑行為なんて存在しないって宣言しちまった。言質を取られたな、こりゃ」

 【城塞戦】ではまだ迷惑行為、禁止事項が制定されていない。力があるほうが有利としたい、『鋼の雄牛』側の祖霊の思惑だった。


「あのとき、そこまで考えていたか? あのレンジャー、話し合いか決闘で、って言ってじゃないか」

「偶然か、故意か。故意なら、考えを改めないといけないな。さすがに」

「偶然だ。そもそも相手は普通に【城塞戦】で戦っていただろ?」

「そうだな。あれもルールの穴をつかれた格好だが」

「俺たちのほうがたくさんの言質を取っている。相手はうかつすぎだ」

「数はこちらが以前優勢だ。とっととあの女を手に入れて終わらせよう」

 ロドニーが顔を覆ってため息をついた。

 ヘスターはそんなロドニーを初めて見たのだった。



 


 第二陣が出撃する。

 

 冒険者たちはモンスターを使った殺害に注意と、対モンスター戦闘特化の装備に切り替えていた。

 先頭集団はA級冒険者だ。彼らは温存されていたが、今回は駆り出された。


「あ」

 非武装のドワーフ女がいた。青いオーラをまとっている。彼らにとって敵だ。


 剣を構えてにじり寄る。


「まずい! みんなのお金が!」

 どすん。

 袋を地面に置く。背嚢だ。四つもある。


「みんな! ごめん!」

 袋を投げ捨てて走り逃げた。

 袋から大量の金貨がこぼれ落ちる。


 追おうとした冒険者の脚が止まる。


「お、おい。追いかけていったら罠じゃないか?」

「そ、そうだな。この袋を奪ったほうがいいな。みんなの金貨といってたし軍資金か?」

「確認してみようぜ」

 四人全員、金貨の入ったずた袋を確認する。


「みろよ…… 質が悪いが間違いない。これは金貨だ」

「俺たちで持てるか、この量?」

「めちゃくちゃ重いが、置いて帰る選択肢はないだろ」

「おう。そうだな」

 それぞれ背嚢を背負う。


「き、きついな」

「敵の軍資金を一網打尽だ! 我慢しろ」

「いったん戻るか」

「戻る前に相談しような!」

 想わぬ収入に、頬を緩める。一袋でも独占できれば、大収入だ。


 背後から音がした。

 彼らが後ろを振り返ると、トロールがいた。

 飢え狂っている。彼らを見つけて、よだれを垂らし続けていた。


「お、応戦だ!」

「逃げ、う、動けない!」

「ま、まっ」

 一匹のトロールなら遅れは取らない。――通常ならば。

 過積載状態の彼らは身動きできない。


 一人ずつ叩き潰されるのに、さほど時間はかからなかった。

 金貨は回収されたのか死亡地点に戻ったときには、すでにはなかったことは言うまでもない。





 北から迂回経路で進軍している冒険者が三グループいた。

 渓谷経由で進軍するため、時間はかかるが見晴らしもよいため安全と踏んだからだ。


 そこへばったりと、敵と遭遇してしまったのだ。

 美しい銀髪のエルフの少女。エルゼだ。

 彼らをみて、固まる。モンスターも連れていないようだ。脱兎のごとく、走り去る。


「追えー!」

「エルフ女がいたぞー! 上物だー!」

 その叫びを聞きつけ、他の二グループもすぐに走り寄ってくる。


 エルフの少女は渓谷の上の橋にいた。

 橋の中央で呆然としている。

 なぜだかすぐ理由がわかった。


 前方にオークの集団がいたからだ。

 オークたちも、エルフの上物をみつけ、にじりよっている。

 冒険者たちを見つけ叫んでいる。譲る気はないだろう。


「こりゃ…… オークなら余裕。逃げ場無し」


 渓谷は深い。落ちたら間違いなく死ぬ。

 橋は頑丈な木製で場所が通っても大丈夫なぐらいである。


「俺たちが先に確保するぞ!」

「おう!」

 冒険者が走り出し、橋の上に乗り込む。

 オーク達も遅れを取るなといわんばかり、凄い形相で橋に乗り込んでくる。


「く…… 殺せ!」

 涙目でエルゼが叫んだ。


「ふへへへ。オークから今助けてあげるからね」

 下卑た笑みを浮かべ、エルゼに手を伸ばす戦士。


 エルゼの姿が消えた。


「な!」

 渓谷から飛び降りたのだ


「馬鹿か。正気か!」

「グアアア!」

 冒険者もオークも絶叫する。

 お互いその怒りの矛先を相手に向ける。

 戦闘が始まり、切り結ぶ、


 オークが数を一匹減らしたそのとき――

 橋の両端それぞれが爆発した。


「え?」

「グァ?」


 橋は渓谷の下へ、彼らを乗せたまま落ちていく。


 その途中、銀髪のエルフ少女が無表情に空中で手を振って彼らを見送っていた。


「任務完了、です」

 エルゼは橋の下に張られていたロープにつかまっていた。


「お見事、エルゼさん」

 ロジーネが隠れていた岩肌から顔を覗かせる。


「詩人は盗賊(シーフ)系の職ですからね」

 軽業師のような動きも可能ということだ。


「あのクッコロの演技は必要だったのでしょうか?」

「祖霊の趣味です。必須と力説されました」

「なら仕方ないですね」


 趣味なら仕方ない。


「はい、っと!」

 操る糸でエルゼを確保し、引き寄せる。


「ありがとうございます。落ちた彼らはどうなるのでしょう?」

「落下ダメージ関係なく即死。モンスターと戦闘中の死亡だから、ご愁傷様、かな」

「まだまだおかわり用意しないとですね」

「そうですね!」

 張り切る二人だった。




 平原沿いの森を侵攻するグループがいた。

 彼らは他のパーティのように、適度な距離をおかず、近い間合いで行動していた。

 

「きゃあ!」

 治癒士の女性が悲鳴を上げる。

 一撃で殺されていた。


「貴様!」

「まずは一殺!」

 ニックだった。森のなかから奇襲をかけたのだ。


 悲鳴を聞きつけ、次々に他のパーティが合流する。


「相手は一人だ。一気にやるぞ!」

「そうはさせん!」

 漆黒の甲冑姿が立ちはだかる。ラルフだった。


「【恐慌】」

 恐怖スキルを発動させる。

 レジストできなかった多くの者が反対方面へ走り出す。


 残されたものはわずか四名。


「お前らは幸せもんだよ」

 ニックが告げる。


「逃げた連中は地獄が待っているからな」

 そういって戦いが始まった。


 恐怖に駆られ逃げた人間は次々と姿を消す。

 全員の姿が消えた。その数七名。


 気が付いたとき、何が起きたかわからなかった。


 大量の大きなガラス瓶が置いてある、


「落とし穴?」

「深いな。みんな生きてるか?」

「なに? この大量のガラス瓶」


「お楽しみはこれからってな。【火球爆発】」

 落とし穴の上から、呪文が唱えられる。アーニーだった。

 火球が彼らのど真ん中で爆発し、ガラス瓶は全て砕け散る。


「じゃあな」

「な、何が起こったの?」

「おい、なんだこれ!」

「た、助けてくれ!」

 割れたガラス瓶から出てきたのは、スライムだった。


 冒険者は逃げ惑うが、スライムのプールのようになっている。

 

「こ、これは…… 武器が……防具が溶かされている?」


 瓶の中味はアシッドスライム。

 地底湖にいたスライムたちだった。


 餌が大量にあるのを知覚した。飛び跳ねて襲いかかる。


「邪魔なものを溶かしたしたあと、俺たちを食うつもりかよ!」

「やめてくれ。復活できても武器がなくなる!」

「誰か! 誰か!」

「やめてくれー!」

 悲痛な叫びが森に響く。

 

 助けは最後まで来なかった。

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