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異種族間政治問題

 夜はマレックの領主宅で会議が開かれている。


 大広間では、亜人の代表が詰め寄り、情報交換している。

 希望者だけという話だったが、むしろ有力者を厳選しないといけないほど、希望者が殺到した。


「ディーターどの。伐採の制限区画なんじゃが、今回ばかりは近場で許してもらえないじゃろうか」

 グリューンがディーターに懇願する。なんとしても数を確保したかった。


「制限区画は全無視で。最高率の伐採速度で数の確保を。そんなことを言っている場合じゃありません」

「ありがたい」

「当然です」

「こっちは三交代で石材の搬入を開始する」

 ハイオーガの代表が連絡する。


「ダークエルフ隊はエルフと協力して森の哨戒を請け負おう」

「よろしく頼む」

 ダークエルフとエルフは対立関係があるといえば、ある。

 しかし今回、ウリカの救出に後れを取ったエルフは、ダークエルフへのわだかまりを捨てる。

 実に面倒くさい力関係だが、些細なことでも影響するのだ。


「フロレスは食料の提供、藁などの資源も完備しております。備蓄はすべて放出できます」

 小人族の重鎮も申し出る。


「忍びの訓練を受けている者は全員町付近の防衛にでるつもりです」

「心強い」

 ぶっちゃけると、フロレスのほうがドワーフより冒険者に向いている。

 温厚な性格なゆえ、前面にでないだけなのだ。


「妖精族は町の警備を支援しよう。城塞に立つ者に肩に降り立ち、幸運を」

 【妖精王】はいった。


「なんと」

 妖精族の支援は破格だ。

 妖精族の祝福を受けるものは、破格の幸運と、支援スキルを得ることができる。

 本来は気に入られた者にしか受けられない祝福だ。


「羽虫と言われ、我が同胞を名指しして殺す気でいるのだ。我らもまた怒りに満ちている」

「亜人解放戦争の再現にもなりうるな」

「まさに」

 アーニーのことは亜人たちにあっという間に広まっている。

 士気は下手な軍隊より、よほど高いものになっていた。





 その領主の屋敷に二人の来訪者がやってきた。

 

 マレックとアーニーは執務室で打ち合わせを行っていた。

 執務室がノックされ、ウリカが入ってきた。


「おじさま? 今ちょっとよろしいですか?」

「終わったところだよ。ああ、ウリカ!」

 上機嫌のマレックはそのままウリカに近付き抱きしめた。


「君の祖霊は実に素晴らしい。莫逆の友を得た気分だ。これほど話が合う存在がいるとは」

「おじさまとそんなに話が合うって凄いですね」

 ウリカが若干引き気味だ。


「ポーラといい、祖霊といい、君の人脈は凄いよ」

「祖霊様は人というか微妙ですが」

「ああ、変わり者だね。私から見ても恐ろしい。これは褒め言葉だよ」

『「おいおい。そんな褒め言葉ありかよ」』

 アーニー=祖霊が苦笑した。


「そして、ウリカ。何か用があるんだろ?」

「はい。二人ほど客人が…… 主にアーニーさんに。ただ、一人はマレックにも面会希望です」

「わかった。二人を通しなさい」


 ウリカに連れられて二人入ってきた。

 一人はハイオーガの女性。一人は不気味な、漆黒のローブ姿だ。美しい天鵞絨製である。外套をすっぱり被っているので、顔は分からない。


「私の話はすぐ終わるから、私からいいかな。アーニーさん。領主さん。私はハイオーガのユキナ。今日は二人にお願いがあってやってきた」

「ユキナさん。お久しぶり。俺たちに?」

 アーニーが尋ねた。


「私もアーニーさんのチームに入れて欲しい。これは私らハイオーガの誇りと、そして政治的な話でもある」

「どうしてだね。この町は別にハイオーガだからといって差別はしないぞ。私の腹心はハイオーガだ」

「エルチェ様だね。それはしっている。ただ、今回あの侵略者と戦うチームのメンバーに、ハイオーガがいない。フロレスや妖精族までいるのにだよ? 私たちは本当に肩身が狭いんだ」

「ん? そうか。確かにハイオーガ以外ほぼ全種族参戦しているな」

 アーニーが腕を組んで顎に手をかけ思案する。意識はしていなかった。


「言われてみれば。気にするなといっても厳しいか。確かに政治的な話ではあるな」

 マレックも理解できる。妖精族までいて、ハイオーガがいない。全種族一丸となって脅威と戦っているさなか、ハイオーガにとってかなり辛い事実だ。


「なんでもする。頼むよ。あなたちは私たちを受け入れてくれた。あいつらを許せないのはハイオーガたちだって一緒なんだ。一緒に戦わせてくれ」

「アーニー良いか? 確かにハイオーガ族だけいないというのは、遺恨が残りそうだ」

「彼女と一緒にトロールと戦ったことがある。問題は無い。かなり危険だが手伝ってもらえるか?」

「ありがとうございます!」

 ユキナの声が弾んだ。深々と頭を下げた。


「明日俺の家にきてくれ。みんなで作戦会議だ」

「はい! では私は失礼します」

 ウリカにも頭を下げ、ユキナは部屋を出た。


 残された人物は、ただ立っていた。


「この方の身元はイリーネさんが保証しています。名前を明かすのは少し待って欲しいそうです」

 ウリカが言った。


「あなたは?」

「こたびの戦、助力をしたいと思いまして」

 くぐもった低い声。低いが女性の声だ。


 マレックが眉を潜める。

 彼女は自分の魔力を隠していない。彼に匹敵――もしくは上回る魔力を感じる。

 一言でいえば、畏怖すべき存在。


「私の力は絶大。必ずやあなた方の力となりましょう。ただ、協力するにあたって一つお願いがあります」

「どのような?」

「侵略者撃退の成功報酬で構いません。この町への移住許可を」


 マレックは少しだけ考え込んだ。


「私からみてもわかる。確かに絶大な力をお持ちのようだ。成功報酬というのも奥ゆかしい配慮です。よろしいでしょう」

「いいのか? 名乗ってもいないぞ」

 安請け合いのマレックに、アーニーが驚いて聞き返した。

 マレックにしては珍しい。かなりの実力者ということだ。


「構わん。イリーネ殿の紹介だ。悪意はないだろう。それにこれほどの魔力、ただ者ではあるまい」


 彼を殺せる程の存在かもしれない。敵に回したくはない。イリーネの紹介で味方になってくれるのなら、断る理由などない。

 

「ありがとうございます。撤回はなしでお願いします」

「もちろんだ」


 外套を脱いだ。

 女性のダークエルフだった。息をのむほどの美貌だ。


 アーニーの顔から血の気が引いていく。


「あーよかった! 私はレクテナ! 付与術士の【達人(アデプト)】です。よろしくお願いしますね、領主さん。アーネストちゃん」


 三人が固まった。

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