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閑話 神々の会議

 神界。

 神が棲まう空間である。

 光柱が発生し、神が顕現する。

 いくつもの光柱が発生し、次々に神が姿を顕す。


 中央の威厳ある初老の男が宣言する。主神だった。

 気苦労が多いのか、髪型は後退しつつあり、M字型になりかけている。


「第1022回ルートボックス会議を開催する」

 それぞれの神がうなずいた。


「ルートボックスによる冒険者強化。この方針は今でも変わらぬ」

「二千年前の召喚戦争は危なかったですね」

 

 この世界の成り立ちには、モデルとなる別世界がある。

 別世界の各地に伝わる神話、伝承、そして遊戯がこの世界に影響し、形作っているのだ。

 別世界の住人は依然としてこの世界に関与している。彼らの数と彼らのもたらす利益でこの世界は成立していると言っても過言ではない。


「そうじゃ。異世界の神話のモンスターたちを召喚させ、術者たちを戦わせる。世界は滅亡し、異世界の術者はこの世界での肉体を失い、祖霊として干渉しておる」

「神すら飲み込むフェンリルと、世界を焼き尽くすテュポーン。あの2匹はもうホントに勘弁してくれ。誰だよ喚べるようにしたの」

「わしじゃ。あれは失敗だった。あとフェンリルの子供たちはもうすっかりこの世界に定着しておる」

 沈黙が降りた。


「そして世界に魔物が氾濫し、通常の人間では太刀打ちできない。ルートボックスによって冒険者たちを支援し、対抗させているわけじゃ」

「祖霊が落とすハンシも、この世界の維持に必要ですからね」

「祖霊が興味を持ち、思わず冒険者たちを支援したくなるルートボックスを用意するこが重要じゃ」

 神々は一斉にうなずいた。


 かつて召喚術者として活躍していた別世界の人間たちは、世界の崩壊によって干渉する手段を失った。

 再興しつつあるこの世界には祖霊として、冒険者を見守る守護存在に変わっている。

 彼らの意思はルートボックスを通じ冒険者に伝わり、世界の脅威と戦う術となるのだ。


 祖霊たちは端末と呼ばれる手鏡に、この世界を投影し観察しているといわれている。


「今回は前回に引き続き、封印された魔神をゲストとする」

 天使たちにひきずられながら、一人に青年が奥から顕れた。

 青い肌に赤い瞳が特徴的な美青年だった。


「最近ハンシの回収が悪くてな。前回のルートボックスは魔神に手伝ってもらったが……抵抗を受けてSSRの内容を表示できなんだ」

「強制したくせに」

 憎々しげに言い放つ魔神。


「そのせいか、SSRになれるという破格なルートボックスだったにも関わらず、回収はいまいちじゃった」

「24時間限定にするほうが悪い」

「ちと世界の均衡を気にしすぎたかのう」

 主神はため息をついた。


「おぬしも以前はこの神界のメンバー。ハンシが必要なのはおぬしも同じじゃろうに。忌憚ない発言は許そうぞ」

 主神は寛大だ。


「お前たちのやり方はえげつないのだ」

 やれやれ、と主神は首を振る。


「さて。常設のルートボックスと限定ルートボックスの話をしよう」


「再度、私の提案をご検討ください」

 美の女神が進言する。


「ふむ。ルートボックスのなかから冒険者を発生させ、仲間にさせるという案じゃな」

「いきなりルートボックスから人間生まれたら気持ち悪いわ!」

 魔神がツッコむ。


「そもそもルートボックスから人間が生まれてみろ。冒険者は神が生み出した者だらけになるわ!」

「魔神の言うことももっともじゃ」


「ならわしの案はどうじゃ!」

 眼帯の神が前に進み出る。

 片志は義足。鍛冶の神だった。


「ルートボックスに武器を混ぜる。今でもやっておるではないか」

「あんな入門用初心者向けじゃなくてな。こう、ドラゴン特効やら魔神特効とかな!」

「さりげなく我を抹消しようとするのやめてもらえません?」

「この案は悪くないと思うんじゃがのう。常設は強めの武器をSSRに入れておるじゃろ?」

「鳥頭の神々どもめ。武器や防具がルートボックスから出てみろ。冒険者は何を目的で冒険するのだ?」

「あ」

 神々も気付いた。


「ルートボックスか? 違うだろ? 未知のものがあり、一攫千金の宝が眠り、強い武具を入手するために冒険しているのだ。ガチャから入手した武器なぞ、運が良い引き自慢を生むだけだ!」

「そこ。ガチャじゃない。ルートボックスな? わかったなら良い。しかし、魔神の言うことは最もじゃ」

「何より武器防具なんぞ、絵にならんし声もつかん。胸の大きい美少女がデーン! 華奢で中性的なイケメンがバーン!と七色に輝きながら出るのが花よ。かといってそれをやると先ほどの問題点にいきつく。冒険者が神々の代理人になるだけだ」

「そこ。メタい発言するではない」

「失礼」

 主神は悩んだ。


「いっそのこと、そこその冒険者をルートボックスにだして、その冒険者に武器防具を持たせたらどうだ」

 ひげ面の大男が言った。戦神である。


「神々直々にそこそこに作られた冒険者が可哀想だぞ。武器防具目的で生み出される冒険者が可哀想すぎる」

 魔神が真っ向から反対する。


「戦争で間引きすれば」

「我以上に不穏だよね、それ」


「スキルではどうだろうか。ルートボックスでスキルを入手できるようにするとか」

 旅人の神が聞いてきた。


「いきなり修行してもいないこと出来たら気持ち悪くない?」

「確かに……」

「こつこつやらずにルートボックル回すだけの人類になってしまうよ」

「却下だな。さすがだ。魔神」


「まったく蛮神には困ったもの。やはりここは使い魔的ペットでどうでしょう。マスコット的にもビジュアル的にもケモ耳系だせば……!」

 自然と豊穣の女神が提案する。


「使い魔システムは流行らんと何故理解できないのだ。冒険者は自分が強くなりたいのだ。使い魔で強くなりたいわけではない。どんなに愛らしい容姿でも結果的に性能でしか見られなくなるぞ、いいのか豊穣の女神よ。せいぜいヒールボット。それにビジュアル的にウリにならん」

「何故魔神はそこまでビジュアル的なものにこだわるのか。あとボイスも」

「それに関しては、真実にございますから」

 主神の疑問に美の女神が答える。


「祖霊が生み出すハンシは美とボイスが重要要素。祖霊たちが重要視する、萌えという価値観の一つでございます」

「萌えとか古くない? 推しとか今の言い方が……」

「魔神は一言多い」

 美の女神は眉をしかめる。


「このまま放っておくと、神が無理矢理生み出した軍勢で祖霊が死に絶え、ハンシも供給し、世界が停止するわ」

「我々が創り出した人間には祖霊がつかないからな」

 主神も認めた。


「祖霊離れも最近加速しておる。正直ヤバイのよ」

「だからルートボックスに天井をつけろと」

 魔神がそういった瞬間、場の空気が凍った。


「黙れ! それが原因で神々に戦いを挑んだおぬしが言うとしゃれにならんわ!」

 激高した主神だったが、ため息をつき落ち着きを取り戻した。


「では魔神よ。天井をつけろと天界に謀反した魔神ではなく、かつての汝。――キャパシティの神として問う。祖霊が欲しがるルートボックスを」

「待遇改善を要求する」

「内容が良ければ確約してやろう。夕食後のデザートでどうだ」

「良いだろう」

 魔神がうなずいた。


「――冒険者だからまずいのだ。天使、悪魔、人間どれでも良い。冒険者と同じ能力を持つ【使徒】として送り出せば良い」

「同じではないか」

「使徒は冒険者付きにすればよい。冒険者個人の仲間だな」

「奴隷か?」

「違うな。【使徒】を奴隷にはできない。絆だな、絆とか運命(ディスティニー)的なエピソードクエストで紐付けし、絆がマックスになればケッコンし子孫を残せるようにすれば良い」

「またメタくさいことをいう……」

「逆に絆を構築できないような冒険者は使徒を授けるにふさわしくない。離反させるようにすればいい」

「しかし【使徒】を浸透させるのは大変そうだ」

「きわめて強力な【使徒】を直接レンタルも導入すればよい」

「は?」

「貸し出せというのだ。仲間になる冒険者タイプの【使徒】。魂位の制限も受ける。これは皆もわかるな」

「うむ」

「貸し出しタイプの説明をしよう。強力な【伝説の使徒】の場合は、制限なしで冒険者サポート。ルートボックスで入手済だと一日一回魔霊石一つ。直接レンタルだと大魔霊石一つで5日とかな」

「……恐ろしい男よ。魔神は」

主神の顔がひきつっていた。


「戦力を純粋なハンシで売り出すということですか?」

 自然の神が問う。


「そうだ。ただし、所有はさせない。レンタルだ」

「ひぃ」

 ハンシを回収させるのに、所有はさせないのだという。その発想に彼女は恐怖した。


「はずれが【使徒】だらけになるも問題だ。アイテムもいる。高性能の武器防具ではなく、その核となる素材をルートボックスに導入すれば恒常ルートボックスもにぎやかしになるだろうしな、素材は冒険者に回収させろ。排出するのは核で良い」

「その手があったか」

 鍛冶の神もうなずく。


「最後に術式を載せた文様だな」

「文様?」

「現在武器と防具、そしてアクセサリ類だ。それに加え、魔法的な保護を施した紋章で冒険者を底上げすればよい」

「例えばどのような?」

「スキル効果を持つものでもいいし、能力を底上げするものでもよい。アイテムと違って術式文様はガチャでしか入手できないようにすればよい」

「それだ!」

 主神が飛びついた。


「さすがは、かつては、ということじゃのう。おぬし、天界に反逆したわりには協力的だしの」

「人間と祖霊がいなくなるのは俺も困るからな。――デザートは頼んだ」

「わかった。天使たちよ。連れて行け」

 身振りで天使に指示を送り、魔神はまた連れ出された。


「くくく。これで次のルートボックスは皆、目の色変えて回すわい」

 主神とも思えぬ悪い顔をしていた。

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