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同級生?

 最近のウリカとエルゼ、ポーラの三人は冒険者組合に併設されている酒場にいることが多い。

 アーニーとウリカを軸として、四天王とポーラ、ジャンヌの八人で迷宮攻略に勤しんでいるのだ。


 今日は珍しくアーニーとジャンヌ、四天王の二人と迷宮探索に出向いている。


 冒険者組合の外に馬車が止まった。


 二人の少女が馬車から降りてきた。

 

 二人とも茶髪。背格好は大人の胸あたりぐらいしかない。

 一人は気の強そうな、冒険者風の少女。大きなつるはし状の武器を持っている。

 もう一人は眼鏡をかけており、黒いドレスを身にまとっている。黒ゴスだ。

 雰囲気は全く違うが、顔はうり二つだった。


「こんにちは! 受付のおねーさん。僕は王都からきたイリーネといいます! ここにアーネストさんという冒険者はいますか? ルートボックス狂なんです」

 大きな声で受付嬢に尋ねてきた少女。


 その内容を聞いて飲み物を吹き出しそうになったポーラがいた。

 ルートボックスしか目印がない男など一人しかいない。

 

 受付嬢も慣れたもの。視線があったウリカとアイコンタクトした。


「そちらにいるウリカ様が詳しいですよ。お話になられたらどうでしょうか」

「ウリカ! 知ってる知ってる! ロジーネ。いこう」

 隣にいる眼鏡の少女に声をかけ、二人はウリカの側にきた。


「こんにちは! はじめまして! ウリカさんですね。僕はイリーネといいます!」

 元気がはちきれんばかりの少女だった。


「はじめまして。私はロジーネと言います」

 眼鏡の少女がちょこんと頭を下げた。


「初めまして。ウリカと言います。あの…… 私のことをご存じとは?」

 元気に気圧されながらも、ウリカは尋ねた。


「それにお二人は…… ドワーフですね?」

 ドワーフ女性は特徴的だ。

 大きな八重歯に尖った耳。そして童顔の割にスタイルは良い。

 結婚した場合、ドワーフ女性は付け髭を付ける習慣があるので、二人は独身ということだろう。見た目も若い。


「はい、そうですドワーフです! アーネスト君の手紙にウリカさんのことを書いてました!」

「書いてました」


「あの……なんて書いてありました?」

 恐る恐る訊いてみる。


「一緒に住んでると! 私たちにとって最大級の爆弾でした!」

「私は倒れそうになりました」

「あの馬鹿、私と同じことしてんじゃないよ……」

 ポーラが顔を覆って、天を仰いだ。


「アーニーさんはどのようなご用件でお二人に手紙を?」

 ドワーフ女性たちの目的が皆目見当がつかない。


「僕にお願いがあるそうなのでやってきました!」

「わざわざ王都から! それはご足労を!」

 ウリカも改まる。王都からここまで、馬車できたとしてもかなりの日数だろう。


「それ…… アーネストさんの手作りですよね?」

 ウリカの付けているネックレスにロジーネが気付く。


「はい。そうです」

 にっこり笑った。町中限定で付けて歩いている。冒険に出るときは厳重な宝石箱にいれて自宅保管だ。盗むとマレックの呪いが発動して死に至る。


「みせてもらっていいですか?」

「はい」

 一瞬躊躇したが、アーニーの手作りと見抜いたドワーフだ。見せても構わないだろう。


 イリーネが鑑定するかのように、まじまじとネックレスを見て、ウリカに返す。


「……姉さん。アーネストさん本気ですよ、この子に」

 緊迫したロジーネの声。ウリカはそれを聞いて顔が真っ赤だ。にやにやするポーラがいる。


「わかるの?」

「本気で細工してますね。そして意味も込められている」

「え? このデザインに意味が?」

 ウリカは驚いた。それは聞いていない。


「本人に聞いた方がいいですよ。ふふふ…… 覚えてらっしゃい…… アーネストさん……」

 ロジーネが暗く呟いた。


「アーニーさんは、何も教えてくれない。良かったら意味、教えて欲しいです」

 気になったウリカが食い下がる。


「わかりました。その文様は魔法王国で守護する、守護したいという意味があります。つまり『あなたを守ります』という宣言ですね。今でも貴族がみたらそのネックレスだけで貴女に異性として声をかけることは躊躇するでしょう」

「な!」

 ウリカの顔がさらに真っ赤になった。


「ウリカちゃん、私も見せてもらっていい? あ、本当だ。守護文様だこれ」

 ポーラとエルゼも覗き込んでウリカのネックレスを見た。


「別の意味も込められていますよ。これは…… 思わず嫉妬」

 ロジーネがすまし顔で言った。


「それも是非!」

「だめ。これは本人に吐かせたほうが面白――いいでしょう」

「わかりました。本人に吐かせます。絶対に」

 ウリカがネックレスに触れ、決意を新たにした。


「あのお二人はアーニー様とどのような関係でいらっしゃるのですか?」

 エルゼが気になっていることを尋ねる。


「僕たちはアーネスト君の同級生です!」

 イリーネが、不敵に笑いながら答えた。多分――それがどのような効果をもたらすか、知っていて。


「……ど、同級生です!」

 ロジーネが若干口ごもりながら復唱する。こちらは顔を赤くしている。恥ずかしいらしい。


「「「同級生!」」」

 三人の声が綺麗にハモる。


(学校いってたのか、あのルートボックス廃人)

(チャンスですよ、これは貴重な情報ですよ)

(うん、わかってる…… 多分向こうも、こっちのことわかってると思うけど……)

 小声で会話する三人。


 学校のような高等教育機関にいっているものは、僻地の開拓町ではまず、いない。

 エリートのようなものだ。


「十年以上音沙汰なかったから、すぐにきちゃいました! まったく無精な同級生です。あんなに楽しく一緒に過ごしたのに」

「そうですね。短い期間でしたが、大切な生徒でしたよね」

「あの頃は楽しかった」

「素敵な時間でした」

 学生時代のアーニーを思い出しているのだろう。


 そこでイリーネがにやりと笑って聞いてきた。

「アーネスト君の学生時代知りたくない?」

「「「知りたいです」」」

「いやー。私たち長旅で疲れちゃって…… ここで宴会しながら話してもいいけど、外で話せないこともたくさんあってー。ゆっくりできるとこ、いきたいかなー、とか?」

「直球すぎです、姉さん」

「はい。今から私たちの家にご案内しますね。お酒とおつまみもあります。いかがですか!」

 ウリカがエルゼとポーラにアイコンタクトを取りながら、告げる。


「いいねー。いいねー。ではお邪魔しよっか? ロジーネ」

「そうですね。私も今のアーネストさんのこと知りたいですし。ご厚意に甘えさせていただきましょう」

 五人の女性が集まる飲み会。

 アーニーの知らないところで、彼を肴にした女子会が今、はじまろうとしていた。




「おぅ……」

 アーニーが迷宮の内部で立ち止まった。


「どうしました? マスター?」

 先頭のジャンヌが尋ねる。


「今、ものすごい悪寒が」」

「声に出すレベルの悪寒って嫌な感じっすね」

「今日は早めに切り上げる感じで探索しよう」

「了解いたしました」

 帰らないと、死ぬ気がする。

 そんな予感にさえとらわれ始めていたアーニーだった。




 自宅に着いたアーニーはすぐに異変に気付いた。

 喧噪が家の外まで響いている。

 女性の笑い声。


 エルゼは物静かだし、ポーラも悪乗りするタイプではない。ウリカはたまに笑い上戸になるが、ここまでは珍しい。


「珍しいですね」

 後ろにいるジャンヌもそう思っているのだ。

「来客かな? とにかく入ろう」

 

「ただいまー、と」

「おかえりなさい!」

「おかえり、アーニー!」

「おかえりなさいませ、アーニー様」

 それぞれ声を掛けられる。いつも通りだ。


 そして同じテーブルにいる少女――にみえるドワーフ女性二人。


「う、うわぁぁぁぁ」

 アーニーが悲鳴を上げた。


「アーネストさん!」

 眼鏡をかけた女性ドワーフが胸に飛び込んできた。

 ちゃんと受け止めるアーニー。


 もう一人のドワーフはニッカリ笑っていた。


「久しぶりぃ!」

「なんでだよ! なんでいるんだ!」

 声が引きつっていた。

 ジャンヌもこんなアーニーを初めて見る。まじまじと見詰めた。


「ひっどーい!」

「ひどいですよ。王都から一生懸命きたのに……」

 ドワーフ女性二人が抗議する。


「そんな立場じゃないだろ、あんたたち!」

「アーニーさん? アーニーさんの同級生なのですよね?」

 様子がおかしいことに気付いたウリカが、疑問符を浮かべ小首を傾げながらアーニーに確認する。


「同級生? 誰が?」

 と呟いて、二人を見る。


 二人ともそっぽを向いた。イリーネがわざとらしく口笛を吹いている。


「怖い…… 俺が知らないところで何が起きたのか……」

 苦虫をかみ潰したような表情で、アーニーが続けた。


「みんなに紹介するよ。俺の『先生』のお二人。イリーネとロジーネだ」

 二人の相手をしていた女性陣三人が石のように固まった。

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