再建計画
破壊された城壁の再建が急務だった。
マレックの屋敷でアーニーはディーターと必要な木材の計算、伐採区画の選定を進めていた。
手伝いでニックもいる。
伐採はドワーフだけでは人数も足りず、ハイオーガたちも動員された。
エルフは運搬――筏流し担当である。
雪が深く降り積もると作業も止まる。応急処置は旧ピッチで進んでいた。
「ドワーフ案は見事に一蹴しましたね」
ディーターが言う。
「嬉しそうにするな。丸太五千本いるんだ。燃料といい、大森林がはげ山になりかねない」
ドワーフは巨大な木造要塞を新たに提案した。
大量の木材の必要性は瞬時に悟り、却下した。ただでさえ、ミスリルの加工にガラス工芸を始めたのだ。
木材の消費は最低限に抑えたい。
「王都でみたんだが、石炭を使うというのはどうか?」
「あれは有害だし、水も汚染する。あまり使いたくないな。最新の骸炭という素材に変換するという手もあるが、有害性が減っても煤で酷くなる……」
「それはきっついな。水資源も守らないと」
燃料の問題は尽きない。魔法を使うという手もあるが、窯につきっきりの魔法使いなどいないのだ。
「じゃあ次ね。煉瓦や石材の導入でより堅牢な城塞を作る、という案についてだが」
ニックが色々と資料を見比べていた。
「税収と材料費の購入、諸経費計算した。通常の町の予算の年間計画は別にして……いけると思う。こちらでもかなり切り出す必要はあるが」
「良かった。石灰岩は内陸だと無理だからな。色んな材料を当てはまるしかないか」
「煉瓦はまとめて買えるし、用意できるからうまく設計すれば、だな」
煉瓦というのは制作会社の印が押してある。いわゆるブランドものが流通している。
規格も統一されているので、大量生産され、大量購入も可能だ。
「設計が問題だ。そんな設計技師を確保できるのか、という点だ。アーニーさんならある程度できるだろうが」
「俺は木造がせいぜいだぞ。さすがに本職のように計算できない」
建築技師や石工は大変尊重される。重量バランスなどの計算を勘でやっているのだ。
「資金はミスリル製の武器をいくつか王都に流すだけで確保できる。試作のミスリル甲冑を出すのもいいな」
「甲冑買う奴いるかなあ? 金貨何枚分なんだ。将官の三、四年分ぐらいの給料だろ、あれ」
この世界の通貨は銀貨であり、単位はキルカという。だいたいライ麦パン一つ買えるのが1キルカだ。
金貨一枚は百キルカに相当する。
通常の金属製甲冑がだいた将官の給料数ヶ月分である。
高いか安いかは不明だが、即金で捻出するとなると、厳しいものがある。
甲冑が売れれば武器一つの約20倍の値段だ。莫大な額になる。
「Aランク以上冒険者なら金はありそうだな」
ニックが思案する。そもそも富は一部に集中しやすいのだ。あるところには、ある。
「城塞の設計と石工は知り合いにあたってみるか……」
「そんな知り合いまでいるのかよ」
「んー。まあ変わった人だしなあ。十年以上も会ってないからどうなるやら。助言ぐらいは聞けるかもな」
よほど変わった人間らしい。彼がため息をつくほどだ。逆に言えばそれほど変わった人間でも頼りにしたいほど、腕は確かなのだろう。
「こう、魔法やルートボックスでなんとかならんかな。砦が当たったら嬉しいだろ」
「さすがにルートボックスは万能じゃないですよ。アーニーさんが一番知っているじゃありませんか」
ディーターが苦笑する。アーニーは渋い表情を浮かべた。
「あのサソリ型ゴーレムは論外としても、せめて普通の人間には対処したいな。竜とかはどうするか」
「竜が襲ってくる町はごめんですよ!」
ディーターは慌てて言う。
「竜は自然災害と一緒で話し合いも通じないが、痛い目にあえば来ないだろ?」
「まあ、そうですけど」
「ほかの砦との抗争も十分ありえる。防壁はしっかり作っておいたほうがいい」
「確かに。今回も良い機会だと思うしかないですね」
ため息をつく。
「これから冬に備えて避難民もまた増えるだろうしな」
備蓄の書類を眺めながら、ニックが言う。
冬になると増える避難民。どの町も食料に潤沢な備蓄があるわけではないのだ。
この町は亜人の避難民が多い。
「ていうかさ。町の重要書類、俺なんかが見ていいわけ?」
「言うな。俺も疑問だ。ニックやディーターがいてくれて助かったよ」
「俺は昔取った杵柄みたいなもんだからいいけど」
「アーニーさんは頼りにされているんですよ」
「横になって、美味しそうな時期のルートボックス存分に引きたい……」
「美味しそうな時期ってのがアーニーさんらしいですよね」
ウリカが全員分のお茶を煎れてやってきた。
「マレックは対外的な交渉で忙しいですしね」
「あんな巨大な化け物撃退したんだ。騒ぎになるだろうなあ」
「ポーラと俺の手柄になってんのが解せないんだが……」
ニックが恨めしげにアーニーを見た。
「俺は最後の攻撃もらっただけだ。あれを倒したのはお前らだ」
アーニーが抗議を受け付けない。事実、人手さえいればアーニーがいなくても倒せただろう。
「本当に目立つの嫌いですね、アーニーさんは」
ウリカが苦笑しながら配膳をする。
「目立つなってほうが無理なぐらい、活躍してるけどな」
「そうですよねえ」
味方はいないようだ。
「目立つのは無理だが、こういう地味な仕事も苦手だぞ」
「そもそもこういう仕事に対処できるほうが異常なんですよ」
ディーターが言う。彼にはアーニーやニックが行っている帳簿の書式すら分からない。
「それは思うぜ。俺から見ても手慣れてるし」
元官職のニックお墨付きである。
(これ、町長の仕事よね?)
アーニーが発狂すると行けないので、ウリカはあえて口に出さない。
「まだ筏流ししてたほうが俺らしいよ」
「丸太の備蓄も減ってきました。そういえばドワーフたちの度肝をまた抜いてましたね」
「アーニーさんまたやらかした?」
「人聞きの悪い。緊急だったから俺がやっただけだ」
「三日で大量の製材を行ったらしいですよ。板材角材が目を離した隙に積まれていたとか。櫓や仮の城壁が数日で完成しました」
「……目立つなってほうが無理筋だな」
「ええ……」
ニックとウリカがじと目でアーニーをみた。
「そういう魔法があるんだよ」
「なんで!」
そちらのほうが驚きである。ディーターが目を丸くした。
「【八十七式・製材呪】っていうやつがあって、丸太を角材や板材に加工する」
「それはちょっとピンポイントすぎる魔法すぎやしねえですかい」
ニックも呆れている。
「私もそう思う」
ウリカまで若干引いていた。
「柔らか魔法戦士ってもうそろそろ通用しませんよ?」
ウリカが本気で心配していた。
「それは事実なんだけどな。軽装職だし」
アーニーは重装を好まない。今着ているのは革鎧に鉄板で補強したブリガンダインである。ただし、鋼鉄では無くミスリルなので軽さと防御を兼ね備えた品になっている。
愛用のぼろぼろの外套だけは離さない。
「技能で対処できる範囲が異常なんですよ」
「昔取った杵柄、みたいなもんだ」
ニックと同じことをいって誤魔化していた。




