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閑話 競争要素は慎重に

 天界で歓声があがった。

 アーニーが邪神の【使徒】を倒したのだ。


「一時はどうなるかと思ったが…… 【壊れ】と祖霊め。やりおるわい」

「やっぱりとんでもない呪文だったじゃねえか!」

 戦神が指摘する。


「ああ、うん。まあ。広まることはないし、よしとしよう」

「打ち消し呪文は採用したいですが、現行の世界の仕組みでは不可能に近いですね」

 美の女神も頷いた。


「祖霊というものは本当に仕様を研究するのが好きだな。あれに勝つとは」

 魔神も感嘆していた。勝てるとは思っていなかったらしい。


「一部だけじゃよ。仕様を研究されればされるほど、最適化が進み、世界の寿命が短くなるからのう。今回はあくまで例外措置じゃし」

「まあこの世界、解析されるほど複雑な仕組みはしておりませんから……」

「言うな、鍛冶の」

「そうもいっておられんぞ? 与えるダメージ、HPの減り方、常に研究している連中はいる」

「こんな単純な世界で物好きな連中じゃのう」

「そもそも我ら、この手の世界作りになれておりませんでしたからのう」

 戦の神も同意する。


「あれ? 皆さんどのような世界を以前作ってらっしゃったのですか?」

 自然の女神が訪ねる。

 彼女こそ本来この世界の土着の神ともいえる存在だ。


「我らは格と――まあ一対一で戦う、誇り高い世界を常に創造していたのじゃ」 

 主神が懐かしそうに呟く。


「どつきあいというか、ステゴロな世界だったですな。時代とともに、祖霊に受けなくなりましてなあ。同胞たちは今でも頑張って世界を進化させておるのですが」

「人手が足りないと、祖霊たちの手鏡に映る世界の担当を、と依頼されましてなあ」

 戦の神と鍛冶の神も同様だ。


「どのような形態もピラミッド型の人口分布ではなく、菱型、最悪なものは逆ピラミッド型になりやすいのですよ。世界を作るとき、成長期と減退期の見極めが重要なのです」

 美の女神が自然の女神に語る。


「一部の層に受けてその声を反応し、複雑化しすぎて人が減る…… 悲しいですがその繰り返しをしているのが我々神々が創造する世界じゃ」

「大変だったんですね、皆さんも…… 私は皆さんが来てくれて大変嬉しかったです」

 自然の女神がにっこり笑う。


「もっとこの世界を盛り上げねばな。ちと悩みがあってなあ」

「どうなされたのです?」

「ギルド戦とランキング戦の導入に悩んでおるのじゃ」

「今更だぞ。確かに他人より強くなる、という要素は重要で、ルートボックスは回るだろうが…… 一気に祖霊離れが起きる可能性が高い」

 魔神が冷静に分析する。


「そもそもチームという意味のギルドやクランはないだろう、この世界。職人の寄り合いの意味しかない」

「砦同士の戦いを検討しておる。戦の神がいうには、タトルの大森林はその傾向が強いからのう。大小あわせて、砦が五百超えたんだっけか」

「大森林は本当に広いですからなあ……」

「魔法帝国の遺産が良い具合に作用して、冒険者の育成をしておる。踏み切ってもよいかなあと」

「せめてアンケートを取れ。ランキングは本当にやめとけ。ただでさえ今のレイドさえ時間指定があり、ほとんどの祖霊には負担にしかなってない上に戦争要素など愚の骨頂だ」

 吐き捨てるように言う。本気の反対が見て取れた。


「やはりそうなるかのう」

「そもそも祖霊も生活がある。夜に時間が無い祖霊だっている。一日中手鏡を見続けるわけにはいかんのだ。時間拘束が少ないことも利点と知れ」

 魔神が念入りに釘を刺す。


「うむ…… この世界放置要素も強いのがウケていたしな。もう少し考えよう。祖霊のかごを持つ大手のチームに試験的にやってもらうとするかの。反応を見て正式実装じゃ」

 主神も慎重なようだ。そもそも祖霊がいなくなったらこの世界は成立しなくなる。


「最後に魔神よ。忘れたとはいわせぬぞ」

「なんのことだ?」

「【大魔王】じゃよ」

「あれは不可能だと説明したではないか。【使徒】もいなくなった。心配する必要はない」

「邪神も仕様の穴をついてくるタイプだと思い出してのう」

「我の兄だからな……」

「もう絶対大丈夫って断言してみ?」

「断言はできぬ。【使徒】は滅びたが、信者はいなくなったわけじゃない。厄介なことに帝国に蔓延しているからな」

 現在ある帝国は、かつてタリルの大森林に存在した魔法帝国の末裔である。

 魔法帝国直系では無いが、力をもった傍系の一族が今なお力を保持し、帝国を名乗っているのだ。


「そもそも仕様見直して思ったんじゃが、【壊れ】の仕様作ったの、おぬしじゃね?」

「……なんのことやらあっしにはさっっぱり……」

「【壊れ】が発生する確率はそりゃかなり低いわ。小数点以下の0が二つも並んでおる。根幹仕様そのものに組み込まれておるがゆえ、修正もできぬも道理」

「へっへっへ。そりゃ濡れ衣ですぜ……」

 隠し仕様がばれた魔神が顔を背けて眼を泳がせる。ウリカに似ているのはさすが同じ血族といったところか。


「キャラ壊れておるぞ。安心せい。今更修正しようと思わぬし、今回の件であのような冒険者が必要なのもわかるわい」

「さすが主神。話がわかる」

「……呪いを解いてくれたらもっと話が分かる男になるんじゃが」

「それは無理。できるのは【大魔王】ぐらいだ」

「もういい。いやいっそ、【大魔王】を……」

「待てこら!」

「冗談じゃ、いやしかし……」

 名残惜しげに【大魔王】復活を諦める主神であった。

連載を続けてきて読んでくださっている方、いつもありがとうございます。

当初予定していた話もここまでこれました。初投稿で色々慣れないこともありましたが、継続して投稿できました。

次回より不定期更新になります。一週間に二、三回程度の更新になると思いますが、引き続き読んでくださると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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